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マリオカートモードも導入!電気自動車レース「フォーミュラE」のシーズン5はこれだけ変わる。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
新世代マシンに移行するFormula E 【写真:FIA Formula E】

電気自動車フォーミュラカーレースの最高峰「FIA フォーミュラE」の新シーズン(2018年〜19年=シーズン5)が中東サウジアラビアのディルイーヤで12月15日(土)に開幕する。新型マシン「Gen2」の導入、元F1ウイナーのフェリペ・マッサの参戦、日本の自動車メーカーとして初となる「ニッサン」の参戦など話題豊富なシーズン5の見所を探っていこう。

新型マシン「Gen2」がレースを変える

2018年12月から2019年7月までに全13戦(12都市)で開催される「フォーミュラE」のシーズン5。市街地の公道を利用したストリートコースのレースが中心となることはこれまでと変わらないが、今季のシーズン5はレースそのものが大きく変化する。その最大の理由は新たに導入される新型マシン「Gen2」の導入だ。

Gen2 【写真:FIA Formula E】
Gen2 【写真:FIA Formula E】

「Gen2(ジェンツー)」と名付けられた新世代マシンはこれまでのフォーミュラEの印象を大きく覆す、近未来的でアグレッシブなルックスを持ったニューマシンだ。安全性への配慮としてタイヤをカウルで覆うスポーツカースタイルのフォルムに加え、昨年からF1でも採用されたドライバーを保護するガードの「HALO(ヘイロー)」を装着。これまでスリムでコンパクトだった先代モデルは一見するとラジコン的な雰囲気が否めなかったが、「Gen2」の登場によってフォーミュラEは別次元へと進化する。

進化はルックスだけではない。新型マシンは大幅にスピードアップを遂げているのだ。まず出力が予選やフリー走行に限り、既存の200kwから25%上昇の250kwに向上する。これによって時速200kmちょっとだった最高速が一気に時速280kmに上昇。ダウンフォースの増加や新シャシーの運動性能向上によってラップタイムがグンと速くなるのだ。開幕前にバレンシアサーキットで行われたテストでは先代モデルに比べて4秒以上のタイム短縮となっており、これまでとは違うスピード領域でレースをすることになる。

テスト走行するGen2 【写真:FIA Formula E】
テスト走行するGen2 【写真:FIA Formula E】

不評だったマシン乗り換えがなくなる

電気自動車レースの先駆けとして2014年末にスタートを切った「フォーミュラE」だが、当初は話題先行という印象のレースだった。シーズン1(2014年〜15年)に投入されたマシン「スパークSRT01E」は全車が「ルノー」のパワートレインを使用するワンメイクレースとして開催だった。シーズン2(2015年〜16年)より独自のパワートレイン開発が解禁となり、自動車メーカーが積極的に関与するようになったが、レースペースで言えばF3(フォーミュラ3)程度のポテンシャルしか備えておらず、世界を転戦するレースとしてはやや見劣りする部分が多かった。

2017-18シーズンのベルリン大会(旧国際空港での開催)【写真:FIA Formula E】
2017-18シーズンのベルリン大会(旧国際空港での開催)【写真:FIA Formula E】

また、バッテリー容量が小さかったために、決勝レース中にピットインし、ドライバーがシートベルトを外してもう1台のマシンに乗り換えてレースを続行するという「乗り換え作業」は既存のモータースポーツファンの興味を遠ざける一因でもあったが、「Gen2」の導入により、マシンの乗り換えが不要になる。いわゆるガチのスプリントレースへと変貌するのだ。

ただし、レースは「45分+1周」というフォーマットに改められる。これまでは周回数レースだったため、50分〜1時間ちょっとというレース時間だったが、1時間のテレビ放送枠に入りきるフォーマットになった。かつて2014年のオープニングレース開催時にテレビ朝日の生放送(当時)がゴールを迎える前に終了するというハプニングがあったが、それも懐かしい昔話になるだろう。

よりスプリント化するレースでドライバーに求められるのはやはり速さ。練習走行がほとんどない特設コースに順応し、速さを示すドライバーが求められる。元F1ドライバーのフェリペ・マッサがヴェンチュリから、2018年までF1ドライバーだったストフェル・バンドーンがHWA(メルセデスの準ワークス)から参戦するなどドライバー層が今季さらに厚くなっているのは新型マシンの導入に起因する部分がある。

F1から転向するストフェル・バンドーン【写真:FIA Formula E】
F1から転向するストフェル・バンドーン【写真:FIA Formula E】

そして、「フォーミュラE」で求められる重要な要素はエネルギーマネージメントだ。レース中に使用できるエネルギー(モーターに供給できる電力量)は全ドライバー同じであるため、戦略面でもチームとのクレバーな連携が必要。今季からレース中の最速ラップ記録者に与えられるボーナスポイントが撤廃され、上位10台の中で最も電力消費が少なかった(省エネ走行ができた)ドライバーに対してボーナスポイントが加えられることになったのも大きな特徴だ。

マリオカート的なアタックモード

また、戦略面で興味深いのが今季から新たに導入されるのが「アタックモード」と呼ばれる新機能とルールだ。幅広い世代に人気のゲームソフト「マリオカート」からヒントを得たルールで、決勝レース中に「アタックモード」のレーンを通ると出力が一時的に向上するというもの。決勝レース中の出力は200kwだが、「アタックモード」では225kwに向上する。最高速280kmを記録できる「アタックモード」の使用条件はレース直前に通達されるため、事前のシミュレーションができないルールになっている。特に初導入のシーズンとなる今季はどういう条件で、いつ「アタックモード」を使うかが注目のポイントになるだろう。

アタックモードのイメージ動画(Formula E公式YouTubeより)

さらにこれまでも導入されてきた「ファンブースト」と呼ばれる人気投票による出力アップシステムも継続採用。今季はこれまで3人の人気ドライバーに与えられていた「ファンブースト」が5人に拡大する。使い方によっては「アタックモード」よりもより有効なペースアップ、オーバーテイク手段となるため、2つのパワーアップシステムをうまく併用して前に出て、なおかつうまくエネルギーマネージメントするレースとなる。今季はまた新たな低電費マイスターが登場するかもしれない。

フォーミュラEに参戦するフェリペ・マッサは最も多くのファンブーストを獲得しそうなドライバーだ【写真:FIA Formula E】
フォーミュラEに参戦するフェリペ・マッサは最も多くのファンブーストを獲得しそうなドライバーだ【写真:FIA Formula E】

こういった出力アップシステムは単調になりがちなレース戦略に幅を作るだけでなく、既存のモータースポーツファンとは異なる層への訴求、ゲーム世代の若者への訴求という意味でも新たな試みだ。初年度から全てうまく機能するかどうかは未知数だが、レースの規則を統括するFIA(国際自動車連盟)のさじ加減次第ではモータースポーツに新たなエンターテイメント性を加える要素になるだろう。

プロモーションとしてのフォーミュラE

「フォーミュラE」は発足当初からレース以外のイベントに力を入れてきた。エンジン音がしないレースとの対比でミュージシャンによるライブを実施したり、家族連れが楽しめるイベントを実施したり、レースそのもの以外の楽しみを作り出す努力を続けている。市街地が中心となっている狙いもそこにある。

そして、昨今はヨーロッパを中心に自動車メーカーが電気自動車のプロモーションに力を入れているおかげで、「フォーミュラE」のイベント自体がEVのプロモーション合戦の場にもなっている。今季から「ルノー」に代わって参戦する「ニッサン」は日産リーフのレーシングカーである「NISSAN LEAF NISMO RC」を6台製造。実際にレースに出るわけではなくデモカーとしての扱いだが、「フォーミュラE」のコースをプロドライバーの運転に同乗して走れるアトラクションを実施する。

ニスモフェスティバルでお披露目されたNISSAN LEAF NISMO RC
ニスモフェスティバルでお披露目されたNISSAN LEAF NISMO RC

今季も「アウディ」「ジャガー」「ニッサン(前ルノー)」が自動車ブランドとして継続参戦。さらに「BMW」が新たに参戦する他、「メルセデス」は準ワークスのHWAとして本格的なワークス参戦に向けた準備を行う。「ポルシェ」も来季からのフォーミュラE参戦に向けたプランを発表するなど、今まさに巨大自動車メーカーがこぞって参戦しようとしているのだ。

日産のフォーミュラEマシン【写真:FIA Formula E】
日産のフォーミュラEマシン【写真:FIA Formula E】

そんな中、日本メーカーとして今季は「ニッサン」が参戦するが、実際の部隊は昨年までの「ルノー」ワークスとして活動したフランスのチーム「e.dams(イーダムス)」とのコラボレーション。レギュラードライバーはセバスチャン・ブエミ(スイス)とオリバー・ロウランド(イギリス)の2人で、日本人ドライバーとしてテスト走行の経験がある高星光誠(たかぼし・みつのり)がリザーブドライバーが登録される。日本国内でのプロモーションという意味では日本人選手の参戦が不可欠だが、日本でのフォーミュラE開催に向けた流れは日産ブランドでの参戦で少し前に進んだと言えるだろう。

残念ながら地上波での放送はないが、「J SPORT」で生中継、「BS日テレ」で録画放送が行われる。「フォーミュラE」の視聴環境は整いつつあるので、ぜひ新たな世代へと移行する電気自動車レースを楽しんでもらいたい。

2018-2019 FIA Formula E スケジュール

2018/12/15 ディルイーヤ(サウジアラビア)

2019/1/12 マラケシュ(モロッコ)

2019/1/26 サンティアゴ(チリ)

2019/2/16 メキシコシティ(メキシコ)

2019/3/10 香港(香港)

2019/3/17 三亜(中国)

2019/4/13 ローマ(イタリア)

2019/4/27 パリ(フランス)

2019/5/11 モンテカルロ(モナコ)

2019/5/25 ベルリン(ドイツ)

2019/6/22 ベルン(スイス)

2019/7/13 ニューヨーク(アメリカ)

2019/7/14 ニューヨーク(アメリカ)

【テレビ放送】

生放送: J SPORT

録画放送:BS日テレ

【公式サイト】

FIA Formula E

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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