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アロンソがLMP1「トヨタTS050」でテスト走行。ル・マン24時間参戦への布石となるか?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
WECルーキーテストにトヨタから参加したアロンソ(中央)【写真:FIA WEC】

スポーツカー耐久レース「WEC」(世界耐久選手権)の今季最終戦「バーレーン6時間レース」が終了した翌日、11月19日(日)にバーレーンインターナショナルサーキットで行われた「ルーキーテスト」に現役F1ドライバーのフェルナンド・アロンソが参加。トヨタのLMP1カー「トヨタTS050ハイブリッド」を駆り、113周を走行した。

F1シーズン中に異例のテスト走行

今季、「マクラーレン・ホンダ」からF1に参戦しているフェルナンド・アロンソ。今年の秋口からアロンソが来季のル・マン24時間に参戦するのでは、という噂がまことしやかに流れていたが、WEC LMP1カーでのテスト走行に参加したことで、いよいよその可能性が現実味を帯びてきた。

フェルナンド・アロンソは「F1モナコGP」「WEC ル・マン24時間」と並んで「世界三大自動車レース」の一つである「Indycar インディ500」に今年、電撃参戦。日程が重なっていたモナコGPにはジェンソン・バトンを代役に立て、インディ500での優勝を狙った。現役のF1ドライバーがレギュラーのレースを休んで別のレースに出ることは近年では極めて異例なことで、世界中のモータースポーツファンがアロンソのインディ500参戦に関心を寄せることになった。それに続き、来年は6月のル・マン24時間レースでアロンソの走りに釘付けになるのだろうか。

トヨタTS050に乗り込むアロンソ【写真:FIA WEC】
トヨタTS050に乗り込むアロンソ【写真:FIA WEC】

アロンソは「F1 モナコGP」を2006年(ルノー)、2007年(マクラーレン・メルセデス)の2度優勝しており、レーシングドライバーとしてグラハム・ヒル以来の「世界三大レース制覇」に強い関心を示している。アロンソはF1においてはこの3年間「マクラーレン・ホンダ」の不振もあり、フェラーリ時代を含め4シーズンも勝利から遠ざかっている。すでに36歳の大ベテランになっていF1ワールドチャンピオンがレースキャリアの集大成として世界三大レース制覇を目指すのは自然なことだ。

しかしながら、彼はまだF1を引退したわけではない。来季も「マクラーレン・ルノー」のドライバーとしてF1を戦う。もっと言えば、今季も11月26日(日)にF1の最終戦「アブダビGP」を控えており、まだシーズンは終わっていない。そんな最中に、トヨタのLMP1カーでテスト走行をするというのもこれまた異例。ただ、今季、インディ500に参戦したアロンソの周囲では何が起こったとしてもそうそう驚くことではなくなってきている。

優勝を狙うならトヨタ1択

「ル・マン24時間レース」の総合優勝を狙う「WEC」 LMP1クラスからは昨年限りでアウディが撤退。そして今季を最後にポルシェも撤退し、残るマニュファクチャラー(自動車メーカー)は「トヨタ」だけとなった。来季からは「ジネッタ」や「ダラーラ」といった車体コンストラクターがプライベーター向けにLMP1シャシーを製造し、ハイブリッドの「トヨタ」とエンジンの「プライベーター」による対決の構図となる。ただ、来季以降の技術規則はまだ不透明で、エントリーを含め勢力図は見えていない。

2017年ル・マンでのトヨタのピット
2017年ル・マンでのトヨタのピット

ハイブリッド車とエンジン車の差を均衡させなければ、プライベーターにとってもファンにとっても魅力的なレースにはならない。新しい技術規則次第でトヨタもプライベーターもその体制を臨機応変に整えてくることになるだろう。ただ、仮に新規定がプライベーター優遇となったとしても、ル・マン優勝という目標を掲げるなら資金面でも開発面でも有利なマニュファクチャラー(自動車メーカー)のマシンで出場するのがベストな選択である。よってアロンソの選択肢はトヨタの1択しかない。

トヨタのピットでスタンバイするアロンソ【写真:FIA WEC】
トヨタのピットでスタンバイするアロンソ【写真:FIA WEC】

そして、WECは来季に向けて、2018年から2019年6月のル・マンまでを1シーズンとする変則的な「2018-19シーズン」を設定。2018年と19年のル・マンは同じレギュレーションで争うことになるため、ル・マン優勝のチャンスが2回巡ってくるとも考えられる。来季は新規参戦のマニュファクチャラーを待ち、新たなLMP1クラスの構築に向けた過渡期のシーズンであることもアロンソを急がせている理由と考えられる。

WEC、ル・マンを主宰するACO(フランス西部自動車クラブ)にとっても、F1王者のアロンソが参戦するとなればまさに渡りに船。アウディ、ポルシェの撤退で寂しい状況のLMP1にアロンソは大きな話題を提供してくれることになるだろう。現にACOは今年のル・マンのスターターとしてF1の新しい代表となったチェイス・キャリー(リバティメディア)を招待し、記者会見でF1とル・マンのスケジュールを被らせないよう働きかけ、F1ドライバーが参戦しやすい環境作りに協力することを明らかにしていた。来年はアロンソの他にも現役F1ドライバーの参戦があるかもしれない。

ル・マン24時間のスターターを務めたF1の代表者、チェイス・キャリー【写真:FIA WEC】
ル・マン24時間のスターターを務めたF1の代表者、チェイス・キャリー【写真:FIA WEC】

アロンソはデイトナ24時間にも参戦

アロンソがトヨタからル・マンに参戦するという筋書き。これが現実となるかどうかは、まずは新規定の内容時代。次にトヨタの参戦体制次第ということになろう。当然、アロンソがトヨタでテスト走行をしたことは単にフィーリングを確かめるということ以上の意味が込められていると感じる。

ル・マン24時間レース
ル・マン24時間レース

そして、アロンソは来年1月にアメリカのフロリダ州で開催される「デイトナ24時間レース」に出場することをすでに発表し、11月20日(月)には「ユナイテッド・オートスポーツ」のLMP2マシン「リジェJS P217」をテスト走行した。「ユナイテッド・オートスポーツ」はマクラーレンのエグゼクティブディレクターであるザック・ブラウンがオーナーを務めるチーム。今年のル・マン24時間では総合5位で完走を果たしているが、WECにはフル参戦しておらず、ヨーロピアン・ル・マンシリーズ(ELMS)に参戦していた。様々なモータースポーツビジネスに携わってきたブラウンがマクラーレンの代表になる以前からイギリスで経営していたプライベーターのチームである。

アロンソのインディ500参戦、今回のデイトナ参戦をバックアップしているのはザック・ブラウン。「現役最強のレーシングドライバー」と称されるアロンソの心を動かし、凄まじいスピードでサプライズを作り出していくブラウンにかかれば、次なるサプライズが待っていても何ら不思議ではない。

フェルナンド・アロンソ【写真:FIA WEC】
フェルナンド・アロンソ【写真:FIA WEC】

「デイトナ24時間」ではル・マンの「LMP2」とアメリカの「Dpi」が同格のプロトタイプクラスにあり、総合優勝を争う。アロンソはまず2018年1月27日〜28日開催のデイトナで24時間レースを初経験することになる。まずはデイトナでどんなパフォーマンスをアロンソが見せるか、アロンソファンは冬から目が離せない2018年になりそうだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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