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WTCCがいよいよ日本へ!フル参戦の道上龍と共に、ホンダはホームコースで勝利できるか?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ホンダのノルベルト・ミケリス 【写真:FIA WTCC】

F1、WECと並ぶ世界選手権・自動車レースのWTCC(世界ツーリングカー選手権)の日本ラウンド「JVCKENWOOD 日本ラウンド」が10月28日(土)、29日(日)に栃木県のツインリンクもてぎで開催される。今季、J SPORTSで3戦実況アナウンスを務めてきたオーサーがWTCC日本ラウンドの見どころを解説する。

ホンダvsボルボのメーカー対決は熾烈!

「格闘技レース」とも形容されるWTCC。その最大の見どころは自動車メーカー(マニュファクチャラー)のワークスチームによる対決だ。昨年限りでフランスのシトロエンとロシアのラーダがワークス活動から撤退し、今季は「ホンダ」と「ボルボ」の2強対決という図式に。その2つの自動車メーカーが今季は大接戦を展開しており、第8戦となる日本ラウンドを前にマニュファクチャラーズポイントはホンダが640.5点、ボルボが635.5点と僅か5点差の熾烈な戦いになっている。

スウェーデンの「ボルボ」は、過去に3年連続でスカンジアナビア・ツーリングカー選手権のタイトルを獲得しているテッド・ビヨーク(スウェーデン)、ラーダから移籍のニッキー・キャッツバーグ(オランダ)、南米のストックカー選手権にも参戦したネストール・ジロラミ(アルゼンチン)の布陣。ツーリングカー育ちの堅実な3人組を揃え、初の3台体制ながらチームワーク抜群のレースを見せている。

一方で今季の「ホンダ」は元F1ドライバーのティアゴ・モンテイロ(ポルトガル)、WTCCの叩き上げドライバーとも言えるノルベルト・ミケリス(ハンガリー)に加え、今季から元全日本GT・GT500チャンピオンの道上龍(みちがみ・りょう)をレギュラーに起用。WTCCの経験値が勝るモンテイロの活躍で今季はホンダが優勢かと思われていた。

しかしながら、9月にモンテイロがバルセロナでのテスト中にハイスピードクラッシュを喫して負傷。前戦の第7戦・中国ラウンドをシリーズランキング首位のモンテイロが欠場することになり、元ホンダのガブリエル・タルキーニ(イタリア)が復帰した。モンテイロは日本ラウンドから復帰できる見込みだ。

激しいバトルが魅力のWTCC 【写真:FIA WTCC】
激しいバトルが魅力のWTCC 【写真:FIA WTCC】

欠場したモンテイロにとって幸いだったのは、中国ラウンドが雨による視界不良のため、メインレース(Race2)がセーフティカー先導のまま中止され、レース終了後の協議の末、得点の半分が与えられることになったこと。また、ランキング首位を争うテッド・ビヨーク(ボルボ)がオープニングレース(レース1)でリタイアしたため、モンテイロはランキングを逆転されたものの、僅か0.5点の差でホンダのホームコース、ツインリンクもてぎの戦いに挑むことができる。

ランキング首位のビヨーク(ボルボ)が200.5点、2位のモンテイロ(ホンダ)が200点、3位のミケリス(ホンダ)が198.5点と大接戦状態にあり、今回の日本ラウンドはシリーズタイトル争いの鍵となる1戦になる。

母国、日本に道上龍が凱旋する!

今季、SUPER GTなどのチームオーナー業を休止し、レーシングドライバーとして4年ぶりにフルシーズン参戦を果たした道上龍にとっては待ちに待った母国、日本でのレースがやってくる。WTCCはベテランドライバーが多数活躍するレースだが、44歳にして世界選手権のルーキードライバーになった道上。走った経験のないコースも多く、日本とヨーロッパを何度も往復し、テスト走行を行いながらのシーズンは苦労の連続だった。WTCCは予選のQ2で10位に入れば、リバースグリッドによりオープニングレース(Race1)がポールポジションスタートになるが、そのチャンスが何度かあったもののポイント獲得は4戦だけと苦戦中だ。

シビックを駆る道上龍【写真:FIA WTCC】
シビックを駆る道上龍【写真:FIA WTCC】

ただ、道上にとって、走り慣れたツインリンクもてぎのレースでは有利な条件がある。今季はコスト削減のために金曜日に練習走行を行わず、土日のみの2日間開催スケジュールとなり、土曜日朝のフリー走行の限られた時間で予選、決勝に向けた準備を行わなければならない。今季、ポジションを争ってきたドライバーたちよりも遥かにコースの経験値が高い道上は、最初のフリー走行からセッティングを決める作業に集中できるのだ。今季、苦しみながらも習熟してきたホンダ・シビックWTCCの走らせ方。まさにその総仕上げを見せる舞台が今回の日本ラウンドである。今大会、唯一の日本人ドライバーであり、フル参戦の日本人ドライバーが走るのも6年ぶり。日本を代表するレーシングドライバー、道上の表彰台獲得に期待したい。

今季のレギュレーション

2017年のWTCCはいくつかレギュレーションが変更となっているので、レースを見る前に知っておくと、よりレースを楽しめるのでおさらいしておこう。

まず、スケジュールは先述の通り、土日の2日間。フリー走行は28日・土曜日8:00-8:45、10:15-11:00の45分間が2回のみだ。WTCCでは1周(約4.8km)のラップタイムが1分55秒〜59秒であるため、それほど多くの周回数を走りこむことはできない。それだけにコースを知っているかどうかは重要な要素となる。持ち込みセッティングがドンピシャで当たっているかどうかは1回目のフリー走行で明らかになるだろう。

土曜日の午後からは予選。まずは全車が出走するQ1(20分)が14:20から始まる。このうち上位12台がQ2進出。間髪入れず、14:45からQ2(10分)が行われ、1位〜10位は日曜日のオープニングレース(Race1)のグリッドがリバースグリッドになり、10位がポールポジションスタート。11位と12位は2レースとも順位通りのスタート位置だ。そしてQ2からは上位5台がQ3進出。メインレース(Race2)のポールポジションを15:00からのQ3(20分)で争う。

MAC3を走るボルボの3台【写真:FIA WTCC】
MAC3を走るボルボの3台【写真:FIA WTCC】

また、続いて「MAC3(マックスリー)」と呼ばれるマニュファクチャラーズポイントを争う団体予選が行われる。これは昨年から実施されているもので、「ボルボ」と「ホンダ」の3台がメーカーごとに同時に出走し、2周の団体タイムを競う。勝った方が12点、負けた方が8点となり、「ホンダ」はマニュファクチャーラズランキングを「現状5点リードする「ボルボ」に1点差にして決勝に挑むことができる。道上の仕事ぶりが重要になってくる予選だ。

そして日曜日は午後からオープニングレース(11周)、リペアタイムを挟んでメインレース(13周)のスプリントレースで争う。メインレースの方が獲得ポイントが多めに設定されている。

抜きどころが少ないストップアンドゴータイプのサーキットであるツインリンクもてぎではスタートから3、4コーナーまでのポジション取りが重要。コース幅が広い前半区間では喧嘩レースならではといえる、接触も辞さない3ワイド(3台横並び)のブレーキング競争が楽しめるだろう。

WTCCは来季以降はどうなる?

「ホンダ」と「ボルボ」の対決が楽しみなWTCC日本ラウンドだが、残り3戦となった現在も来年以降のWTCCのニュースはほとんど出てきておらず、ツーリングカーレースを取り巻く状況は流動的である。もしかすると、究極のFF(前輪駆動)マシンの戦いである現状のWTCCは今年で見納め?ということになるかもしれない。

当初の噂では、メルセデスが来季2018年限りで撤退する「DTM」(ドイツツーリングカー選手権)と統合し、「クラス1」規定(DTM、SUPER GT・GT500マシン)による世界選手権レースがWTCCと入れ替わるという動きがあった。しかしながら、DTMは日本のSUPER GTとの関係を密にしており、DTMの最終戦、SUPER GTの最終戦でそれぞれのマシンを空輸してデモ走行を行う。将来的な「クラス1」としての統合に2つのオーガナイザーが前向きに歩み寄りを見せ、独自の交流を行おうとしているのだ。

では、WTCCは現状のままで独自のツーリングカー選手権を開催していくのか?マニュファクチャー参戦のメーカーが「ボルボ」と「ホンダ」の2メーカーだけになってしまっている以上、どちらかが撤退となれば危機が訪れる。世界選手権レースには最低でも2つのマニュファクチャラーが必要となる。

スーパー耐久に参戦するTCRのフォルクルワーゲン・ゴルフ
スーパー耐久に参戦するTCRのフォルクルワーゲン・ゴルフ

ツーリングカーレースで今、大きな盛り上がりを見せているのが「TCR」という、より市販車に近いレース仕様のツーリングカーレース。いわばアマチュアのジェントルマンレーサー向けに作られたマシンで争うレースだ。そのメインシリーズとなる「TCR International Series」にはホンダ、フォルクスワーゲン、セアト、アウディなどがTCR車両を販売し、ユーザーが参戦。ジェントルマン向けのレースながら、開発を兼ねてジャンニ・モルビデリ、ロブ・ハフ、アラン・メニュ、ガブリエル・タルキーニなどのWTCCのビッグネームが参戦し、かつてのWTCCのような雰囲気になりつつある。同じアマチュア向けのFIA GT3の車両がメーカー競争の激化でコストが高騰する中、TCRはジェントルマンレーサー向けのカテゴリーとして勢力を伸ばしている。このTCRの車両が将来的にWTCCでも使われることになるのだろうか?ツーリングカーレースを取り巻く新たな動きは整理されるまでにまだ少し時間がかかりそうだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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