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【スーパー耐久】65台が年間エントリー!参加型ジェントルマンレースとして隆盛を極めたS耐。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
スーパー耐久「ST-X」に参戦するメルセデスSLSのGT3車両

市販車ベースのファインチューニングカーで争う耐久レース「スーパー耐久シリーズ」の勢いが止まらない!4月3日(日)決勝の開幕戦からスタートする年間6戦のシリーズに年間エントリーを表明したマシンは何と65台。高級スポーツカーのフェラーリ、マクラーレンから、デミオやフィットなどの国産コンパクトカーまでが一堂にサーキットを混走するという世界的に見ても稀な耐久レースだ。一時は年間エントリーが30台を下回っていた時代があったが、「スーパー耐久」が近年、急激な復活を遂げたのはなぜなのだろう?

スーパー耐久(2015年)【写真:MOBILITYLAND】
スーパー耐久(2015年)【写真:MOBILITYLAND】

スーパー耐久の栄枯盛衰

スーパー耐久の代表的車種、三菱ランエボ。中でもオーリンズランサーは象徴的な1台。
スーパー耐久の代表的車種、三菱ランエボ。中でもオーリンズランサーは象徴的な1台。

「スーパー耐久」は90年代前半に発足した「N1耐久シリーズ」を前身とする。N1というJAFが定めた「市販車状態により近い車両規定」を用いたレースとして始まったが、後にアフターパーツメーカーが多数参入し、公認を受けたチューニングパーツの使用を認める「スーパー耐久シリーズ」へと変化。主に国産スポーツカーをベースにしたチューニングカーが戦うレースとして発展し、多数のアフターパーツの戦場となった。

しかし、2000年代半ばになると国内自動車メーカーが若者向けのスポーツカーの生産を相次いで取りやめ、ミニバン、SUV、そして軽自動車が中心の時代へと移行していった。スポーツカーユーザーの減少でアフターパーツマーケットが衰退したのと同時に、新型のスポーツモデルが出てもコンピューターによる電子制御を多用したベース車両が増えたために、アナログなチューニングだけでなくデジタルの知識が大いに必要な時代が到来。ベース車両の減少とリーマンショック後の不景気、エコカーブームで「スーパー耐久」は出場できる種車(ベース車両)が限られるようになり、出場台数が30台を割るほどの低迷期に入ってしまう。

外国車に活路を見出し、GT3車両が参加

国産スポーツカーの車種減少で苦境に陥った「スーパー耐久」。その打開策として見出されたのが、FIA(国際自動車連盟)が規定する「GT3」と呼ばれるカテゴリーの導入だ。「スーパー耐久」は排気量や駆動方式によってクラスを分け、クラス別で順位を競うレースだが、2011年から「GT3」規定のスーパーカーが参戦できる「ST-X」クラスを新設した。

ST-XクラスをGT3規定のBMW Z4
ST-XクラスをGT3規定のBMW Z4

「GT3」とはフェラーリ、ランボルギーニ、メルセデスなど世界の名だたるメーカーがフラッグシップとなるスポーツモデルを投入する共通規定で、排気量などスペックの異なるベースモデルの性能を吸気リストリクターなどで性能調整し、均一化を図ったものだ。本来は趣味としてレースを戦う「ジェントルマンドライバー」向けに作られたレースカテゴリーだったが、近年はヨーロッパを中心に開催されている「ブランパン耐久シリーズ」がいわばスポーツカーの世界選手権のような存在になるほどの人気を獲得している。その人気に乗じ、世界中の耐久レースがGT3車両の参加を認めたため、GT3車両は「世界中のレースに参戦できるマシン」として重宝されているのだ。

最近、ホンダがニューヨーク国際自動車ショーで「NSX GT3」を発表したが、これがまさにGT3規定に基づくマシンで、今やGT3車両をユーザーに販売し、レースに参戦してもらい、勝利することはスーパーカー、スポーツカーとしての地位を獲得するためのスタンダードになっている。

「スーパー耐久」はいち早くこの規定を導入。当初は参加台数が少なかったが、徐々に増え、今年は12台のGT3マシンが「ST-X」に参戦する。GT3マシンの中古マーケットは世界的な規模になっており、かつては「SUPER GT」のGT300クラスを戦っていたマシンを購入して参戦するチームもあれば、今年は「マクラーレン650S GT3」で参戦するチームもある。「SUPER GT」にも参戦しないスーパーカーの走りが今年は「スーパー耐久」で見ることができるという今までにない現象が起きている。

国産スポーツカーの復活、コンパクトカーも

「スーパー耐久」は趣味でレースに参戦する「ジェントルマンドライバーのためのレース」としてのスタンスを強めている。イベントとして観客を楽しませる興行型レースの「SUPER GT」とは一線を画し、あくまで主軸はレース参加者であることが最大の特徴だ。

参加者といっても、GT3車両のような高価なレーシングカーで参戦するチームもあれば、相変わらず「三菱・ランサー・エボ9」や「ホンダ・インテグラ」などの既に生産を終了した国産車で参戦を続けるチームもいまだに多い。

その参加者向けの最たるクラスがコンパクトカーの「ST5」クラスの存在。「ホンダ・フィット」「トヨタ・ヴィッツ」などいわば街乗り、普段使い用の車が参戦できるクラスを設けている。ここにはスカイアクティブ(ディーゼルターボ)の「マツダ・デミオ」で参戦するチームもある。様々なタイプの車両を受け入れる懐の深さも「スーパー耐久」が参加台数を増やし続けている要因と言えるだろう。

フィットのST5クラストップ争い【写真:MOBILITYLAND】
フィットのST5クラストップ争い【写真:MOBILITYLAND】

また近年は「ST4」クラスに「トヨタ・86」「スバル・BRZ」、「ST3」クラスには「レクサス・RC350」など参戦できる国産のスポーツモデルが増えているし、モータースポーツに積極的な「埼玉トヨペット」は昨年から他はどこも走らせていない「トヨタ・マークX」を投入するなど、野心的な挑戦をするチームもある。それぞれが、それぞれの目標に向かって戦える環境。それが「スーパー耐久」にあって、他のレースには無い部分かもしれない。

埼玉トヨペットのマークX
埼玉トヨペットのマークX

台数増加で土日2レース制も

今季は年間エントリー台数が65台と膨れ上った「スーパー耐久」。本来ならエントリーを断るほどのキャパオーバーな台数だが、今の「スーパー耐久」は可能な限り、参加者を受け入れるために努力を続けている。今年は年間6戦が開催されるが、そのうち3戦は「ST-X」「ST1」「ST2」「ST3」で1レース、「ST4」「ST5」で1レースという2グループに分けた決勝レースを行うことになった。

(2016年 レースフォーマット)

第1戦ツインリンクもてぎ(全クラス混走・5時間)

第2戦スポーツランド菅生(2グループ制・3時間)

第3戦鈴鹿サーキット(土・敗者復活レース、日・決勝4時間)

第4戦富士スピードウェイ(全クラス混走・9時間)

第5戦岡山国際サーキット(2グループ制・3時間)

第6戦オートポリス(2グループ制・3時間)

この中で特徴的なフォーマットでレースをするのは第3戦・鈴鹿だ。予選を通過できなかったマシンは6月11日(土)に決勝レースの出場枠をかけて100分間の「敗者復活レース」に参戦することになる。また、12日(日)の決勝は日没後の夜間走行を経てのゴールとなる4時間耐久レースを予定している。

スーパー耐久【写真:MOBILITYLAND】
スーパー耐久【写真:MOBILITYLAND】

レースによっては予選落ちの可能性もあり。台数増加でポジション争いも例年以上に熾烈になる。そのため、今年は実力充分なプロドライバーが助っ人として参戦するケースも増えるだろう。開幕戦もてぎのエントリーリストには柳田真孝野尻智紀らの現役GT500ドライバーの名前も見られる。豪華なトップドライバー、ベテランドライバーたちのここでしか見れない争いが堪能できそうだ。

そして、「スーパー耐久」は参加型の雰囲気が色濃いレースだったが、今年はBS12(トゥエルビ)がゴールデンタイムにダイジェスト放送を行うことになる。さらに、今年は海外チームも参戦するなど、「スーパー耐久」はアジアの名物耐久レースとして1段ステップを上がろうとしている。これまでにない激戦のシーズンになるに違いない。

開幕戦は4月2日(土)3日(日)の「ツインリンクもてぎ」(栃木県)で開催される5時間耐久レース。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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