18年ぶりの女性ドライバーが全日本F3選手権で優勝!

女性初のF3クラス優勝を飾った三浦愛【写真:Type S】

自動車レースの「全日本F3選手権」に同シリーズで18年ぶりとなる女性のレーシングドライバー、三浦愛(みうら・あい)が出場。鈴鹿サーキットで行われた2014年シーズンの開幕戦でNクラス3位表彰台を獲得。さらに続く第2戦ではNクラスの優勝を飾った。全日本F3で女性レーシングドライバーが優勝するのは日本のモータースポーツ史上初めて快挙だ!

F3マシンを駆る三浦愛
F3マシンを駆る三浦愛

初のF3レースで好レースを展開

4月12日、13日の2日間、「鈴鹿2&4レース」の中で開催された「全日本F3選手権」に三浦愛はルーキーとして参戦した。

三浦愛 【写真:Type S】
三浦愛 【写真:Type S】

三浦が参戦するのは「Nクラス」と呼ばれる型落ちの旧型F3マシンで戦うクラス。かつてはタレントでレーサーの近藤真彦が出場していたことでも知られる「全日本F3選手権」は90年代には50台ほどのエントリーを集めたが、当時に比べて参戦コストが倍以上に高騰したために台数が減少し、現在は15台程度のエントリーとなっている(Nクラス含む)。とはいえ、現在のF3は日本のトップカテゴリーである「スーパーフォーミュラ」への昇格を目論む期待の若手ドライバーが多く参戦するレースで、台数が少ない分、選ばれし者だけが参戦できるハイレベルな選手権だ。三浦が参戦するのは旧型マシンのNクラスとはいえ、最高時速が200km/hを超えるF3マシンで戦うため、並のスキルでは太刀打ちできないレースになっている。

シーズン前の事前テストでは速度域の高いF3マシンに戸惑い、Nクラスの中でも最下位に甘んじていた三浦だが、走行を重ねるごとにスピードに順応し、レースウィークに入って徐々にレースを戦える状態に持ち込んだ。そして、開幕戦(4/12)のレースはNクラス3番手(総合11位)からスタートし、スタートダッシュに成功。一気にNクラスの首位に立つが、レース中に2台にパスされてしまう。しかしながら、クラス3位でフィニッシュし、女性ドライバーとして初めて表彰台に登る事になった。

快挙はそれだけでは終わらなかった。第2戦(4/13)は周回数が長い17周(距離にして約99km)のレース。これまたNクラス3位(総合11位)から絶妙な好スタートを見せて、Nクラス首位に。そして、17周に渡って同じクラスのライバル達の追撃を退けて、全周回で首位をキープし、女性ドライバーとして初の優勝を飾った。

第2戦で表彰台の頂点に立った三浦愛【写真:Type S】
第2戦で表彰台の頂点に立った三浦愛【写真:Type S】

総合優勝ではないとはいえ、F3レースで女性のレーシングドライバーが表彰台の頂点に立ったケースは世界的に見ても珍しい。過去にはルマン24時間レースのドライバーとして活躍する井原慶子がフランスF3選手権やイギリスF3選手権で上位入賞した例があるが、クラス優勝の達成は快挙。

平日は広報ウーマン。会社がレースをバックアップ

三浦愛はレース好きの父とカートレースに参戦した兄の影響で、小学6年生の時にレーシングカートレースに自らも参戦。デビューレースでいきなり優勝を飾る。中学生になってからは鈴鹿サーキット(南コース)で開催されているカートレースに出場し、同世代の男子を相手に常にトップ争いを展開するドライバーになった。また、マカオ、イタリア、イギリスなどで開催された国際レースに日本代表選手として出場した経験も持つ。

女性カートドライバーとして有名になった三浦愛はその後、大阪産業大学に進学し、同校のソーラーカーレースのドライバーとしても活躍。FIA(国際自動車連盟)の国際ソーラーカーレースで優勝し、F1ドライバーたちと同じくウイナーとしてFIAの表彰式にも招かれるなど話題を振りまいたことも。

ただ、フォーミュラカーへのステップアップとなると莫大なレース参戦費用が必要になり、三浦はカートからフォーミュラへと順調にステップアップを果たせたわけではなかった。そんな中、彼女の活躍を認め、招き入れた会社がある。大阪府寝屋川市に本社を置く自動車部品メーカーの「株式会社エクセディ」だ。

三浦愛 【写真:Type S】
三浦愛 【写真:Type S】

「エクセディ」は自社ブランドのレース用クラッチを販売し、モータースポーツにも積極的に参加する会社。三浦はここで広報の仕事をしながら、会社のバックアップでフォーミュラカーレースの「FCJ」に2年間参戦した。実は「エクセディ」は女子卓球部や女子サッカーのなでしこリーグなど女性スポーツのチームを持ち、選手を従業員として受け入れ、スポーツ活動をバックアップしている。また、同社は女性従業員だけの製品組み立てラインを持っており、男性に比べて細やかな作業ができ、なおかつミスが少ないことから女性の力を積極的に活用しているそうだ。また、従業員に会社を好きになってもらい誇りをもってもらおうという「I LOVE EXEDY活動」の一環として女性のスポーツ活動を支援し、バスツアーなどを企画して大勢の社員で応援に駆けつける。

女性の活躍、モータースポーツに理解のある会社とはいえ、莫大なレース資金が必要となるフォーミュラカーのレースを、成績を残せないまま、いつまでもやらせてもらえるほど甘くはない。そんな中、レーシングドライバーとして活躍する夢を持つ人間なら誰もが憧れるF3レースで、三浦愛は3位表彰台、優勝という最高の結果で会社の期待に応えた。

期待される今後の活躍。目標はF1ドライバーと断言!

笑顔でファンサービスをする三浦愛【写真:Type S】
笑顔でファンサービスをする三浦愛【写真:Type S】

レーシングカートの時代から「愛ちゃん」と呼ばれ、常に人気者だった三浦愛。レーシングカートや4輪レース(ハコ車)の世界で女性選手の活躍はあるものの、スピード域が速く、体力面でも強靭な肉体が必要なフォーミュラカーのレースでは女性ドライバーの参戦は稀なケースだ。

「フォーミュラカーレースでなぜ女性が活躍していないのだろうと疑問に思っていましたが、フォーミュラに乗ってみて、やっぱり体力面で厳しいと理解できました。そこで、フォーミュラに乗ってからはトレーニングを強化して、去年(FCJレース)は体力面で問題ないところまでもっていけました。でも、今年、F3にあがって、さらにダウンフォース(クルマを押さえる力)も増えてスピードも上がったので、正直、まだまだ足りないと思います」と三浦は語る。

身長が154cmと小柄な三浦にとって、身長170cm程度の恵まれた体格の男性と同じ筋力を付けるだけでも大変なことだ。平均時速が200km/hに迫り、強烈なコーナリング時のGフォースに耐えながら、パワーステアリングの無いフォーミュラカーをコントロールしなくてはならない過酷さは想像を絶する世界。そんな中で三浦は男性ドライバーを相手に戦っているのだ。

エンジニアと三浦愛
エンジニアと三浦愛

また女性ドライバーとしてのジレンマもある。「周りのスタッフも男性ばかりなので、女性ということで気を使ってくれるのですが、ドライバーという立場からすると気を使ってもらわないほうがやりやすいです。男性同士のように打ち解けられるわけではないので、そういう面で悩んだ事もありました」と三浦は語る。

いつも笑顔でファンの声援に応える三浦愛はサーキットで人気者。これまでは女性ドライバーという珍しさから注目を集めてきたが、F3のクラス優勝という結果を残した今、彼女は一人のレーシングドライバーとして認められていく存在になるに違いない。これからは彼女のレースそのものに魅せられてサーキットに足を運ぶファンが増えると思う。

そんな三浦は将来の夢をこう語る。「(子供の頃)レースを始めた時からF1を目標にしてやってきました。F3のレースを経験して、こうして結果を残せたことで、その思いがもっともっと強くなりました。最終的にはF1しか考えてないです。そんなに簡単なものではないけど、これまで積み重ねてきた過程と同じように1歩1歩階段を上がって、最終的にはF1まで辿りつきたいと思っています」

少し、はにかみながらそう語った笑顔には、また階段をワンステップあがった彼女の手応えを感じる事ができた。ちなみに女性F1ドライバーは過去に4人だけ。その中で決勝レースに出場を果たしたのは僅かに2人。高いハードルなのは百も承知。しかし、これからのチャレンジに大いなる希望を抱くことができる大切な1歩を彼女は踏み出した。次なる目標は全日本F3選手権Nクラスの年間チャンピオンだ。

逆バンクコーナーを走る三浦愛 【写真:Type S】
逆バンクコーナーを走る三浦愛 【写真:Type S】

【三浦愛】

2001年にレーシングカートでレースデビュー。大学進学後はレーシングカートと並行してフォーミュラカーでの練習を開始。さらに2009年からFIAソーラーカーレース鈴鹿で優勝(4回)。2011年にスーパーFJで4輪レースデビュー。2012年、13年はFCJで唯一の女性ドライバーとして経験を積み、今シーズンから全日本F3選手権Nクラスにデビューした。女性ドライバーの全日本F3参戦自体が成沢志麻(1戦のみ決勝はレースが中止)以来18年ぶり。公式サイト