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F1直下の「GP2」シリーズに、佐藤公哉、伊沢拓也の日本人ドライバー2人が参戦!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
GP2に参戦する佐藤公哉と伊沢拓也【写真:EURO NOVA / Honda】

2014年はモータースポーツ界にとって、どんな1年が待っているのだろうか。自動車メーカー、バイクメーカー共に本格的なモータースポーツ活動再開に積極的な動きを見せ始めている2014年は業界が「V字回復」する1年になるか。今年のモータースポーツ界を沸かせてくれそうな話題をピックアップする「Go! for 2014」Vol.6「GP2への日本人ドライバーの参戦」をピックアップ。

伊沢拓也に続き、佐藤公哉もGP2参戦決定!

2014年は「GP2」シリーズが面白い。F1直下のフォーミュラカーレースとして知られ、今年は11大会の全てが「F1世界選手権」の前座レースとして開催されることになっている。F1のコースを習得できるばかりか、F1チームとも密接なつながりを持つ事ができるため、「GP2」はF1ドライバーへの登竜門、いや最終関門といえるシリーズになっている。

GP2のマシン
GP2のマシン
伊沢拓也 【写真:Honda】
伊沢拓也 【写真:Honda】

そんなGP2参戦をまず決めたのは、日本の「スーパーフォーミュラ」「SUPER GT」で活躍してきた伊沢拓也(いざわ・たくや)。2015年からF1トップチーム「マクラーレン」にパワーユニットを供給する「ホンダ」が、日本人F1ドライバーの活躍を期待するファンの声を受け、「マクラーレン」のヤングドライバーズプログラム(若手育成プログラム)と協調させ、伊沢をGP2シリーズに送り込むことになった。

伊沢が所属するのは「ART GRAND PRIX」というフランスのチーム。このチームではルイス・ハミルトン、ロメイン・グロージャン、二コ・ヒュルケンベルグら現在F1で活躍するドライバーたちがGP2でチャンピオンを獲得し、F1への切符を掴んでいった。チャンピオン獲得者だけでなく、セバスチャン・ベッテルや小林可夢偉などもF3/GP2時代に所属したチームであり、ここ数年はチャンピオンを輩出できていないものの、ドライバー育成に長けた名門である。同チームは「マクラーレン」直下のGP2チームという役割を担うことになり、伊沢のチームメイトはドイツ人のストフェル・ヴァンドールン(マクラーレンのリザーブドライバー)となる。日本で実績を残してきたドライバーが海外のレースでどんな活躍を見せてくれるのか興味深い。

そして、2月17日。昨年、GP2と並ぶフォーミュラカーレース「AutoGP」で優勝を飾り、最後までチャンピオンを争った佐藤公哉(さとう・きみや)がスペインの「Campos Racing」からの参戦を発表した。同チームはスペイン人の元F1ドライバー、エイドリアン・カンポスが率いるチーム。2009年以降はF1参戦を計画し「Campos Racing」としてはGP2から離れていたため、チームとしてはGP2復帰となるが、2008年にはチームチャンピオンに輝いている名門。佐藤公哉にとってもGP2シリーズ参戦は初となるが、過去に「ユーロF3」「ドイツF3」「AutoGP」などへの参戦を通じ、ヨーロッパのサーキットは走り込んでいるし、海外チームとのコミュニケーションにも長けているので、活躍が期待される。

カンポスと佐藤公哉 【写真:Campos Racing / EURO NOVA】
カンポスと佐藤公哉 【写真:Campos Racing / EURO NOVA】

F1へのラストチャンスへ挑む

GP2参戦が決定した2人の日本人ドライバー。気になるのは、その年齢だ。伊沢拓也は1984年生まれで、今年のシーズン中には30歳になる。F1ドライバーの平均年齢は26.4歳で、それよりも既に年上である。さらに、代表的なF1ドライバーのF1デビューの年齢を見てみると、セバスチャン・ベッテル(19歳)、ルイス・ハミルトン(23歳)、キミ・ライコネン(22歳)、フェルナンド・アロンソ(19歳)と圧倒的に若い。今年デビューする新人F1ドライバーでいうと、ケビン・マグネッセン(21歳)、マーカス・エリクソン(23歳)、ダニール・クビアト(19歳)と、やはりF1ドライバーのデビュー時の年齢は20代前半までというケースがほとんどだ。

かつて、日本人F1ドライバーがデビューした年齢を見ていくと、中嶋悟(34歳)、鈴木亜久里(28歳)、片山右京(28歳)、井上隆智穂(31歳)、中野信治(25歳)、高木虎之介(24歳)、佐藤琢磨(25歳)、小林可夢偉(23歳)と20年前は30代でデビューというケースもあったが、やはり時代と共にF1ドライバーのデビュー時の年齢はどんどん若くなっている。

そのため、伊沢のGP2参戦発表時にはファンや関係者からも、年齢に関して賛否の声があがった。ファンからのなかなか辛辣な意見もTwitterなどで見られたが、発表が不意打ちだったというのもあっただろうが、国内きっての人気ドライバーに対して、年齢の部分だけで手の平を返したように批判の声が出たのは意外だった。

確かにデータ上はF1ドライバーとしてデビューするには年齢が高すぎるかもしれないが、伊沢拓也は日本のレースでトップクラスの実績を残してきたし、様々な経験を積んでいる。まだF1デビューが決まったわけではないし、ゼロスタートのGP2挑戦をピュアに応援して欲しいとも思う。ラストチャンスなのは彼もよく分かっているはずだ。選ばれたからには全力で戦って欲しいと思う。

佐藤公哉 【写真:EURO NOVA】
佐藤公哉 【写真:EURO NOVA】

一方の佐藤公哉は1989年生まれ。今年のシーズン中に25歳になる。伊沢に比べれば若いが、昨年のGP2ドライバーの平均年齢は22.1歳(年間参戦したドライバーのみ)と非常に年齢が低いので、佐藤公哉も決して若い存在とは言えない。F3で豊富な経験があり、GP2に近いカテゴリーのAutoGPでは雨の中、独走での優勝を成し遂げるなど、年齢を重ねた分だけ経験は多い。GP2挑戦はその経験を存分に活かす場であり、石橋を叩きながらやるレースではないことは彼自身がよく分かっているはずだ。

意外と苦労人の2人。人生をかけた挑戦!

伊沢拓也、佐藤公哉ともに、幼少時代からレーシングカートを戦い、その後は海外で入門フォーミュラカーレースの武者修行をするなど、レースをする環境には存分に恵まれてきたドライバーたちだ。レーシングカート時代には有名な子供だった彼らだが、フォーミュラカーにステップアップしてからは苦労の連続だった。決してトントン拍子で階段を駆け上がってきたわけではない。

伊沢拓也は2003年にオートバックスのサポートでドイツに渡り、フォーミュラルノーで武者修行を行っている。その年、鈴鹿で行われた「フォーミュラドリーム」にスポット参戦し、優勝を飾るなど才能の片鱗を見せつけたこともあった。しかし、その後は後輩ドライバーの影に隠れる事も多かったが、崖っぷちの状態で優勝し、再びチャンスを掴んできた印象がある。

フォーミュラニッポンで優勝した伊沢(左) 【写真:MOBILITYLAND】
フォーミュラニッポンで優勝した伊沢(左) 【写真:MOBILITYLAND】

トップカテゴリーの「フォーミュラニッポン(スーパーフォーミュラ)」にあがってからも2008年から2011年までの4年間で表彰台は1度だけ。一時は本当に厳しい時代があった。しかし、2012年になり、伊沢は変身する。表情も明るくなり、トークショーなどイベントごとでもハツラツとした感じが出てきて、やる気に満ちあふれていた。プロとしての自覚が芽生えた、そんな印象を持った。それと共に、レースの成績は向上。フォーミュラニッポンでも優勝を飾り、最後までチャンピオン争いに残るなど、まさに「成長」という言葉がピッタリな走りだった。そして、今や彼は日本を代表するトップドライバーとして常に注目を集める存在になっている。ドライバーとして脂が乗った状態にあるといえるし、今だからこそできる伊沢らしい走りを期待している。

AutoGPで優勝した佐藤(右から2番目) 【写真:EURO NOVA】
AutoGPで優勝した佐藤(右から2番目) 【写真:EURO NOVA】

そして、佐藤公哉は日本でのレーシングカートキャリアを早々に切り上げ、単身でイギリスに渡り、16歳でフォーミュラBMWにデビューした。その後、日本に戻り、「FCJ」や「全日本F3」などをニッサンの育成枠で戦ったこともあったが、かねてから海外志向の強かった彼は自ら海外チームと交渉してF3マカオグランプリやドイツF3などに参戦した。

日本で戦った以外は自動車メーカーのサポートを得ずに、自分で道を切り開いてきたドライバーだ。そして、2013年は元F1ドライバーの井上隆智穂と出会い、彼がオーナーを務める「Euronova Racing」から初めてのビッグフォーミュラ「AutoGP」に参戦し、優勝を飾った。そして、「ザウバー」のF1テストドライバーを経験し、昨年のF1日本グランプリではリザーブドライバーにも起用されている。

伊沢はホンダのドライバーとして国内で活躍、佐藤は独自路線でヨーロッパを舞台に活躍。アプローチこそ異なれど、苦労を重ねてここまで来た。彼らがレーシングカートを戦っていた頃、海外では日本人ドライバー3人がF3で世界のドライバーを相手にレースをし、チャンピオンを穫った。そして、佐藤琢磨が表彰台に登り、ホンダ、トヨタがF1までの道のりを持っていた。実に夢のある環境が、子供たちに用意されていた時代だった。しかし、2008年のホンダF1撤退、2009年のトヨタF1撤退で、日本からF1へアプローチする道は実質的に絶たれてしまい、まさに彼らは梯子を外されてしまった。日本のメーカーのF1休止期に本来F1デビューしたい年齢を迎えていた伊沢拓也と佐藤公哉。「F1」というぶら下がっていた人参がどこかへいってしまった後も諦めずに努力してきたからこそ、彼らは今、F1への最後の関門に居るのだと思う。活躍を心から期待している。

伊沢拓也オフィシャルサイト

Campos Racing(佐藤公哉の所属チーム/スペイン語)

EURONOVA Racing(佐藤公哉の昨年の所属チーム/英語)

【GP2 Series】

F1直下のフォーミュラカーレース。2014年は全11大会が開催され、今年は全てF1の前座レースとなる。二コ・ロズベルグ(2005年)、ルイス・ハミルトン(2006年)、二コ・ヒュルケンベルグ(2009年)、パストール・マルドナード(2010年)、ロメイン・グロージャン(2011年)などチャンピオン経験者に現役F1ドライバーが多い。日本人としては小林可夢偉、中嶋一貴、山本左近らが参戦。小林可夢偉はGP2アジアシリーズのチャンピオンを獲得。また、自動車メーカーの支援を得ずに出場したドライバーとしては吉本大樹が2005年に最高位2位を獲得している。公式サイト(英語)

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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