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映画『ラッシュ』はF1マニア向けの作品ではない!先入観なく見て欲しい良作ドラマ。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
映画「ラッシュ/プライドと友情」

2014年2月7日(金)から全国の映画館で話題の新作「ラッシュ/プライドと友情」(原題:RUSH)が公開されます。ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞をはじめ、世界各国の映画賞レースにノミネートされている話題の作品。既に国内の試写会などで鑑賞した人からの評価も高く、Yahoo!映画の評価4.38点(満点は5点、2月1日現在)の高得点を獲得するほどの人気です。

舞台は1970年代後半のF1グランプリ。破天荒なプレイボーイの英国人ドライバー、ジェームス・ハントと真面目で一直線な性格のオーストリア人ドライバー、ニキ・ラウダがチャンピオンをかけて闘志むき出しで争った実話を、「アポロ13」「ビューティフル・マインド」「ダ・ヴィンチ・コード」などの名作を手がけたロン・ハワード監督が手がけています。

F1というモータースポーツが舞台ということで、「マニアックな作品ではないか?」「予備知識が必要なのではないか?」そんな心配をされている映画ファンの方も居るかもしれませんね。今やF1も地上波でテレビ中継が行われていないですし、F1の走る姿を目にする機会も少なくなりました。そういう意味では抵抗を感じる人が多いかもしれません。

しかし、この映画の舞台は1970年代。今からおよそ40年前の話ですから、今のF1と「世界チャンピオンを狙って、誰よりも速く走る」という基本は変わらないのですが、実際には大きく異なる部分が多く、ストーリー展開も非常に分かりやすい作品になっていますから、全く予備知識無しでも楽しんで頂ける映画になっていると思います。

なぜモータースポーツファンが絶賛するのか?

試写会で映画「ラッシュ」を観た人の多くは、やはり熱狂的なモータースポーツファンではないかと思います。ただ、この時代のレースをリアルタイムで観ていた人はすでに50歳を超える年齢の方々ですし、今のモータースポーツファンの多くはバブル期のF1ブームからのファンです。とても意外なのは、20代の若いモータースポーツファンがレトロなF1の世界を見て、感動し、SNSで発信していること。マニアックな作品ではないか、と最初は僕自身も心配していましたが、リアルタイムで知らない分、すんなり入って行く事ができました。

実は監督のロン・ハワードは生粋のレースファンではありません。この映画を撮る前に真剣にF1を見たことは無かったそうです。史実に基づいた映画作を得意とする脚本家ピーター・モーガンがストーリーを書き上げ、それにロン・ハワードがリアリティあふれる映像で最高の味付けをすることで、迫力のレース映像が生まれました。モータースポーツを普段から観るものにとっては、この2人の映像や映画に対する探究心は相当なものだと驚かされます。なぜなら、モータースポーツの映画は「リアリティ」が大事だからです。

これまでも数多くのモータースポーツの舞台を題材にしたフィクションの映画やドラマがありました。しかし、近年の作品はほぼ全てがモータースポーツファンをガッカリさせるものでした。「それは実際のレースではありえない」と思う演出が随所にあり、ドラマとしても素直に観れなくなるものばかりだったんです。この映画「ラッシュ」は実話のストーリーですから、史実を変えることはできません(だから、観る前に結末を調べない方がベター)。ストーリーを変えられない分、リアリティで勝負した所にこの作品の素晴らしさがあると思います。登場するマシンは現存する当時のマシンを実際に使用、登場する人物もホンモノそっくりの俳優を起用しているコダワリぶりに、モータースポーツファンの多くが大いに感動しているのです。まさにタイムマシンに乗った気分と言えるでしょうか。

ハント役のヘムズワース、ラウダ役のブリュール共に本人にソックリのキャスティング
ハント役のヘムズワース、ラウダ役のブリュール共に本人にソックリのキャスティング

ヒューマンドラマとしての魅力

日本での公開作には「プライドと友情」というサブタイトルが付けられています。これは単なるF1映画だと思われないための配給会社の配慮かと思いますが、実際にこれがこの映画の見所でもあるのです。

スポーツの世界にはどんなジャンルでも強烈なライバル関係というのが存在します。フィギュアスケートの浅田真央とキム・ヨナ、テニスのロジャー・フェデラーとラファエル・ナダル、そしてF1で言えば、アイルトン・セナとアラン・プロストの確執と格闘が有名です。この名選手同士のライバル関係というのは不思議なもので、試合中は絶対に目を合わせなかったり、お互いを牽制するコメントを記者に投げかけたり、マスコミがそれを取り上げて騒いだり、と強い敵対心が観るものを緊張へと導きます。

ハントは女性にモテモテ、ラウダはいつもひたむきにレースに全てをかけた。
ハントは女性にモテモテ、ラウダはいつもひたむきにレースに全てをかけた。

映画の主人公、ジェームス・ハントニキ・ラウダの関係もまさにそんな強いライバル関係にありました。この時代、ハントとラウダの2人以外にも、速いドライバーは他にも数多く居ました。しかし、当時のF1マシンは今のF1マシンに比べると安全性が著しく低く、将来はきっとライバルとしてワールドチャンピオンを争うはずだったドライバー達が数多く命を落としていきました。現在のF1は安全性が高く、1994年のセナの事故以来、20年間に渡り、一度も死亡事故は起きていません。そういう意味では、「命がけ」でドライバー達が争っていた70年代のF1は人間同士の心の葛藤が色濃く映ります。ロン・ハワード監督も脚本家のピーター・モーガンもその部分に魅力を感じたのでしょう。

この映画「ラッシュ」はアメリカ映画。意外に思われるかもしれませんが、アメリカではF1はさほど人気のあるスポーツではありません。アメリカには映画「カーズ」のモデルになったNASCAR(ナスカー)やインディ500といったアメリカ発祥のレースがあり、そっちの方がポピュラーです。ハントやラウダなどの当時のヨーロッパ系のF1ドライバーはアメリカでは決して有名人ではありません。ただ、それでも作り手の2人はこの作品に情熱を注ぎました。その理由をF1の公式サイトでのインタビューに垣間みることができます。

「興行成績は心配していなかった。僕はこの話に敬意を表したかったんだ」(ロン・ハワード監督)

映画「ラッシュ/プライドと友情」では1970年代のF1で実際に生まれた強いライバル関係とトップドライバーの気持ちの変化を、見事に再現された迫力のレース映像と共に楽しんで頂けたらと思います。アメリカはもちろん、日本でもさほど有名ではない実話のストーリーをピュアに楽しんでください。そして、この映画を機にF1やモータースポーツに興味を持って頂けたなら、いつでもサーキットで歓迎させて頂きます。

公式サイト

当時のF1について詳しく知りたい方は

All About「モータースポーツ」:「映画RUSHを見る前に学ぼう、F1の世界」(執筆:辻野ヒロシ)

【映画 ラッシュ/プライドと友情】

2013年・アメリカ。ロン・ハワードが手がけたヒューマンドラマ作品。1970年代後半のF1グランプリを舞台に強いライバル関係にあったジェームス・ハント、ニキ・ラウダのチャンピオン争いをドラマ化。決着の舞台は日本の富士スピードウェイ。日本で初めて開催されたF1レースで起こった劇的なチャンピオン争いの幕切れとは?2人のトップドライバーの対照的な性格とスタイル、心の葛藤などが当時を再現した迫力のレースシーンと共に描かれる。2月7日(金)より、全国のTOHOシネマズ、109シネマズ、イオンシネマ、ユネイテッド・シネマ、MOVIXなどで公開。配給:GAGA

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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