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皇室に入られて30年 雅子さまの「柔らかな笑顔」と「流した涙」のワケとは…

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
皇后雅子さま(写真:ロイター/アフロ)

国賓としてインドネシアを訪問された天皇皇后両陛下のご様子が、連日、伝えられた。

当初、雅子さまのご体調を心配する声もあったが、伝統布地のバティックを身にまとったり、ろうけつ染めを体験したりなど、終始にこやかな笑顔を浮かべていらっしゃった。

両陛下は残留日本兵らが眠るカリバタ英雄墓地にも訪問し、照り付ける南国の日差しの中、2分近くも黙とうを捧げられた。

その日の午後には、天皇陛下おひとりで訪問される予定だったダルマ・プルサダ大学と職業専門高校へ、雅子さまのご判断で急きょ、ご一緒に訪問されることになった。

このご様子から、ご体調に取り立てて変化はなく、むしろ体力的にはとても安定されているように見受けられた。

雅子さまの笑顔も絶えないことから、同行した宮内庁職員らも「あんな(明るい)ご様子は初めて見た」と驚いているという。

国際親善を目的とした外国ご訪問は、実に21年ぶりとあって、雅子さまも心に期すところがあったのではないだろうか。

雅子さまが皇室に入られて30年、その日々の中で雅子さまが見せられた心からの素敵な笑顔は、実は涙とともにあった。

◆母となられた喜びの笑顔と涙

2001年12月1日、両陛下のご結婚から8年目、愛子さまが誕生された。初めて国民にお披露目された時、愛おしそうに愛子さまを抱かれる雅子さまの笑顔は、母となった幸せに包まれていた。

愛子さまご誕生についての記者会見で、雅子さまが感極まって涙を見せられたシーンを覚えている人も多いだろう。

それは、雅子さまがこのように話された時だった。

「無事に出産できましたときには、ほっといたしますと同時に、初めて私の胸元に連れてこられる生まれたての子供の姿を見て、本当に生まれてきてありがとうという気持ちで一杯になりました。今でも、その光景は、はっきりと目に焼き付いております」

と、思わず涙ぐまれた雅子さま。隣にいる陛下が、優しく励ますようにそっと手を差し伸べられると、再び雅子さまに満面の笑顔があふれていらっしゃった。

  ご誕生間もない愛子さまを抱かれる雅子さま(写真・ロイター/アフロ)
  ご誕生間もない愛子さまを抱かれる雅子さま(写真・ロイター/アフロ)

◆女の子の作文に心を寄せて

涙があふれるのは、悲しい時や嬉しい時だけではない。人びとの思いに共感し、感動の涙がこぼれることもある。

2017年12月、「障害者週間」に合わせて開かれた表彰式に、両陛下が出席された時のこと。小学生の女の子が読み上げる作文に耳を傾けられていた雅子さまは、目を潤ませられた。

その作文には、障がいがある弟が突然一人で外へ出かけてしまい、家族で探し回った末、無事に見つかって泣きながら抱きしめたエピソードが綴られており、こう締め括られていた。

「弟はかけがえのない家族の一員です。小学生になって一緒に学校に行くのが楽しみです。ゆうちゃん大好きだよ」

まだ小学生ながら、きょうだいを大切に思い、できる限り自分が守ろうとするまっすぐな気持ちが、雅子さまの琴線に触れられたのだろう。

雅子さまご自身も、二人の妹がいる「姉」である。幼い頃に妹たちを甲斐甲斐しくお世話していた、懐かしい日の記憶に重ねられたのかもしれない。

幼い子どもたちや若い世代に対して、雅子さまは常に優しいまなざしを向けられる。

純真で一生懸命な子どもたちの心に触れられる時、雅子さまは柔らかで包み込むような笑顔の上に、一条の涙がこぼれ落ちるのだ。

     雅子さまの笑顔(写真・ロイター/アフロ)
     雅子さまの笑顔(写真・ロイター/アフロ)

◆祝福に包まれた即位のパレード

令和の時代となり、2019年11月10日に即位のパレードが行われた。沿道には約12万人が集まり、雅子さまは人びとに応えようとオープンカーから、晴れやかな笑顔で手を振り続けていらっしゃったが、パレードの途中、ハンカチを出して涙をぬぐわれた。

この時の思いを、雅子さまはお誕生日に際してのご感想でこう綴られている。

「天皇陛下のご即位以来、5月の皇居での一般参賀や、11月の国民祭典、祝賀御列の儀などの折に、多くの国民の皆様から、思いがけないほど本当に温かいお祝いを頂きましたことに、心から感謝しております」

「思いがけないほど」という言葉に、雅子さまの涙のワケが込められているように感じられる。

ご体調が優れないために公務を務められないことが多く、そのことでもしかしたら多くの国民から否定的に捉えられているのでは…と思っていらっしゃった雅子さまにとって、この時の歓声と祝福は、何ものにも代えがたいエールとなったのではないだろうか。

インドネシアでの笑顔も、令和の皇室の新たな一歩を踏み出したことへの喜びとともに、支えてくれた周囲の人びとへの感謝と、できる範囲でやるべきことができたことへの大きな自信の表れなのだろう。

「雅子さまとインドネシア大統領夫人を繋ぐ歌 『ブンガワンソロ』とは?」

https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20230616-00353997

「天皇陛下とジョコ大統領が話題にした『ヒレナガニシキゴイ』 外国人観光客を魅了するワケとは」

https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20230619-00354012

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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