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天皇陛下とジョコ大統領が話題にした「ヒレナガニシキゴイ」 外国人観光客を魅了するワケとは

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
天皇皇后両陛下(写真:ロイター/アフロ)

天皇皇后両陛下が国賓としてインドネシアを訪問し、19日はジョコ大統領夫妻主催の午さんにご出席。

去年7月、両陛下が来日中だったジョコ大統領夫妻とお会いになった際、話題に出たのが、日本とインドネシアに関係した、ある生き物のことだった。

陛下が「コイは今でも元気です」と述べられると、ジョコ大統領も「陛下がお育てになっているので、元気に育っているのだと思います」と笑顔で話したという。

実は2015年にジョコ大統領夫妻が来日した時、陛下は皇居東御苑の池に案内された。そこには、黄金色やプラチナ色に輝きながら、優雅に泳ぐ美しいコイの姿があった。

それは私たちが知る錦鯉と違い、まるで天女の羽衣のように尾ビレが長く流れているコイだ。それが、日本とインドネシアのコイを交配して生まれた、「ヒレナガニシキゴイ」である。

いったいどのような姿なのか、筆者は早速、皇居東御苑に行き、実際に見てみることにした。

◆外国人観光客も驚く「ヒレナガニシキゴイ」の魅力

「ヒレナガニシキゴイ」の誕生は、1962年、皇太子時代の上皇さまがインドネシアを訪問した際、日本にはいないヒレナガゴイを鑑賞されたことから始まる。

その後、1977年に上皇さまが埼玉県水産試験場(現在の埼玉県水産研究所)を訪れ、「インドネシアにヒレの長いコイがいるので、日本のニシキゴイと交配してはどうか」と提案された。

これをきっかけに、水産試験場では品種改良に着手。研究を重ねた末、尾ビレや胸ビレ、背ビレなどヒレの長さが一般のコイの2倍に及ぶ、新たな品種が生まれたのだった。

日本とインドネシアのコイを交配させた、まさに両国の友好の結晶ともいえる「ヒレナガニシキゴイ」は、皇居大手門を入ったところにある「皇居東御苑」で見られるという。今や皇居は、大勢の外国人観光客であふれ、人気の観光スポットだ。

建て替え工事中の三の丸尚蔵館の前を通り、自然豊かな緑が広がる「二の丸庭園」へ。

庭園には、初夏の訪れを告げる花菖蒲が、青や紫、ピンクなど鮮やかに咲き誇る。

その奥に目指す池があり、ほとりには大勢の人びとが集まっていた。

近づくと、池の中で元気に泳いでいるコイの姿が見えた。黄金色のコイもいれば、紅白のコイもいる。興味深そうに眺めるアメリカ人観光客の夫婦に、感想を聞いてみると……

”What a beautiful carp!Gorgeous colors”

(なんて美しいコイなのだろう。色が豪華だよ)

”This carp swims very elegantly”

(このコイの泳ぐ姿は、とても優雅ですね)

……と驚いていた。

ヒレナガニシキゴイは、外国人観光客にも人気のようだ。通常のコイより動きがゆったりとしてエレガントに見えるのは、ヒレが長いためなのであろう。普段目にするコイよりも、ゴージャスな印象だった。

◆ヒレナガニシキゴイが大きい理由

実際に見てみると、もう一つ気づいたことがある。どのヒレナガニシキゴイも長さがあり、全体的にサイズが大きいことだ。

これには、ある理由があった。上皇ご夫妻は1991年、皇居を訪れる人たちに楽しんでもらいたいと、二の丸庭園の池に「ヒレナガニシキゴイ」を放流されたが、その後、カワウなどの鳥に食べられるなどして数が減少。上皇さまは散策する際に、コイが見当たらないことに気づき、心配されていたという。

そこで2012年と退位前年の2018年に、今度は体長約40センチの、カワウにのみ込まれない大きさに育った、ヒレナガニシキゴイを選んで放流されたという。

二の丸庭園の池で泳ぐコイのサイズが大きいのは、こうした対策を講じているからなのだろう。

皇室とインドネシアの長年にわたる友好の証しが、小さな池の中に息づいていることを、ジョコ大統領夫妻も嬉しく感じているに違いない。

そして、今回の両陛下のインドネシアご訪問では、ヒレナガニシキゴイが大切に育てられてきたように、インドネシアとの友好関係もより一層深まることだろう。

この機会に皆さんも、皇居東御苑・二の丸庭園の池を訪れ、あの優雅で美しいコイをご覧になって、両国が紡いできた友好の物語の一端を感じていただきたいと思う。

「雅子さまとインドネシア大統領夫人を繋ぐ歌 「ブンガワンソロ」とは?」

https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20230616-00353997

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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