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天皇陛下の大好物「カレーライス」 おかわりされた絶品と雅子さまのエピソード

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
天皇皇后両陛下と上皇ご夫妻(写真:ロイター/アフロ)

皇室の方々が召し上がっている料理というと、豪勢なものをイメージするかもしれない。だが、日常生活で召し上がっているものは、国賓を招いた晩さん会など以外は、むしろ私たちと同じような、ごく普通の家庭料理がメインと言われている。

特に天皇陛下の大好物は、平成も令和も共通して、日本人の国民食と呼ばれるカレーライスなのだそうだ。

◆上皇さまがおかわりした絶品カレー

天皇陛下が召し上がったカレーとして今も語り継がれているのが、チャーリー・チャップリンやヘレン・ケラー、ジョン・レノンなど外国の著名人たちも宿泊し、海外にも名を馳せる由緒あるホテル、箱根富士屋ホテルのカレーだ。

ちなみに、懐石料理をいただける別館の「菊華荘」は、かつて皇室の方々がご静養に滞在された旧御用邸。戦後に富士屋ホテルに払い下げられ、以来、別館として大切に活用されている。

別邸の菊華荘(筆者撮影)
別邸の菊華荘(筆者撮影)

そんな皇室とゆかりの深い箱根富士屋ホテルに、1964年(昭和39年)、上皇ご夫妻は神奈川県で開催された冬の国体に出席した際に宿泊された。

その時、上皇さまが召し上がったのが、不動の人気を誇る名物のビーフカレーだった。こだわりぬいたコンソメをベースに、何種類ものスパイスをブレンドし、手間と愛情をかけたというその味わいは、優しくてまろやか。上質なフレンチの一品のような、格調高い美味しさなのだという。

そこで筆者も、夏休みを利用して実際に訪れ、ビーフカレーを食べてみることにした。

箱根宮ノ下にある本館は、明治時代の様式を今に伝える、和洋折衷の木造建築。堂々とした唐破風の望楼を見上げながら中へ入り、3階のレストラン・カスケードへ。

食べたいものは決まっていたので、席に着くなり注文すると、しばらくしてホールスタッフの女性が恭しく運んできた。

ここでは敢えてスプーンを希望しない限り、カレーライスはフォークで食べる。後で聞いたところによると、西洋料理ではスープ以外にスプーンを使うことはないため、カレーにはフォークを出すのが富士屋ホテルの伝統なのだという。確かに、カレーの具は大きくゴロゴロしているので、フォークのほうが合理的だと思えた。

肝心のカレーの味は、フルーティな風味が爽やかで、これまで食べたことのない美味しさだった。付け合わせとして、ラッキョウや福神漬け、ゆで卵、フライドオニオン、ココナッツ、チャツネの6種類が出され、いろんなアレンジを楽しめるのも満足感を高めてくれる。

上皇さまはあまりの美味しさにおかわりをされたというが、確かに納得の味であった。

レストラン・カスケードのビーフカレー(筆者撮影)
レストラン・カスケードのビーフカレー(筆者撮影)

◆天皇陛下と雅子さまが仲睦まじく召し上がった山荘カレー

天皇皇后両陛下にも、カレーにまつわるエピソードがある。陛下の趣味は山登りであることは広く知られているが、ご結婚から2年後の1995年(平成7年)、雅子さまと一緒に東京都の最高峰である雲取山に登山した際、休憩を取った山荘で、両陛下が召し上がった昼食もカレーライスだった。

当時、お二人にカレーライスを出した雲取山荘の元主人、新井信太郎さんに話を聞いた。

「陛下は何回か雲取山にいらっしゃいましたが、雅子さまが来られたのはその時が初めてでしたね」

と、新井さんは当時を振り返る。食事は何を出せばいいか、事前に宮内庁へ確認したところ、カレーでお願いしますという答えがあったという。カレーだとご飯にかけるだけなので、手間がそれほどかからないことから、気を遣わせないようにと思われたのだろうと、新井さんは感じた。

両陛下にお出しした新井さんお手製のカレーは、どんなものだったのかを詳しく聞いてみると…。

「家庭で作るのと同じ、ごく普通のカレーですよ。たまねぎ、にんじん、じゃがいも、お肉を使った、当たり前のカレーです」

そして、両陛下がそのカレーを召し上がっている時、新井さんは、ご夫妻の微笑ましいご様子を目撃したと言う。

「量が少ないと失礼だろうと思い、雅子さまにもたくさん盛ってお出ししました。全部食べきれずに残されたのですが、そのお皿を陛下が手に取って、雅子さまが残した分を召し上がったんです。陛下はお優しいんだなぁと思いましたね」

両陛下が召し上がったカレーライスをぜひ食べてみたいところだが、現在、新井さんは雲取山荘の切り盛りを息子に譲っており、「家庭で作るのと同じ、ごく普通のカレー」を想像することしかできない。

皇室の方々は被災地をお見舞いされる際、昼食は何をご用意しましょうかと事前に尋ねられた時、カレーをリクエストされることが多いと聞く。カレーなら手間をかけず、どこでも作ることができ、大量に用意することも可能だ。

そこには、訪れた先にできるだけ気を遣わせないようにというご配慮とともに、実際にカレーがお好きだということもあるのだろう。日本人の国民食・カレーライスには、国民とともに歩まれる天皇陛下のさりげない思いやりが託されているのだ。

「雅子さまのお召し物に国際親善への思い ファッションから読み取れるメッセージ」https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20220817-00310267

「『梓』から『菊の御紋』へ 天皇陛下の即位後に変化した『お印』の刻印」

https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20220816-00309958

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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