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「梓」から「菊の御紋」へ 天皇陛下の即位後に変化した「お印」の刻印

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
天皇皇后両陛下(写真:ロイター/アフロ)

長い歴史を受け継いできた皇室には、独特の習わしが今も残っている。その一つが皇室の方々がご誕生の際に与えられる、その方独自のシンボルマーク「お印」だ。美智子さまや雅子さま、紀子さまのように、皇室に嫁がれた方はご結婚の際に決められる。

「お印」はデザイン化され、身の回りの品々などに記される。そのため、名前が書かれていなくても、その品が誰の物なのかが一目で分かるようになっているのだ。

例えば、愛子さまのお印は、春に真っ白な花を咲かせる「ゴヨウツツジ」。両陛下が「この純白の花のような、純真な心を持った子供に育ってほしい」という願いを込めて決められたという。

「お印」には樹木や花が選ばれることが多いが、全く違うものもある。ユニークなものとしては、彬子さまのお印は「雪」。妹・瑶子さまのお印は「星」だ。

そして上皇さまは、草花が豊かに繁るという意味を持つ、「榮(えい)」という漢字一文字だ。そこで今回は、天皇陛下の「お印」にまつわる、未だ不確定な真実について考えてみた。

◆天皇陛下が親しい人に配られた、お印入りの和三盆糖菓子

長年にわたって陛下と交流がある人のお宅を訪れた際、天皇陛下からいただいたという大変貴重な品を見せてくれた。それは、陛下のお誕生日にごく親しい人を招いて開催される、プライベートなお祝いの集まりで特別に配られた記念の品。

それは宝物のように、大切に冷蔵庫の中に保存されていた。白い箱を開けると、中に小さな正方形の和三盆糖菓子が6個並ぶ。菓子の一つひとつに、イチゴのように見える水玉模様をあしらった花と葉が立体的に刻印されていた。箱の中には「おしるしの「梓」の花をデザインしました」と書かれた紙が入っており、このデザインは天皇陛下のお印、「梓」を表していることを示していた。

天皇陛下のお誕生日に親しい人に配られた、お印入りの和三盆糖菓子(筆者撮影)
天皇陛下のお誕生日に親しい人に配られた、お印入りの和三盆糖菓子(筆者撮影)

しかし、後で「梓」とは、どんな樹木なのか調べると、実にいくつもの種類があって、その中のどれをモチーフにしているのか、判然としなかったのである。いくつかあげると「キササゲ」「トウキササゲ」「アズサミネバリ」「ミズメ」「アズサカンバ」「アカメガシワ」などあり、形や特徴がそれぞれ微妙に違うのである。

そこで、この和三盆糖菓子の文様に照らし合わせたのだが、デフォルメされたデザインとあって、樹木図鑑の資料にぴったりとあてはまるものはなかった。花弁はどうやら楕円形の形をしており、中の小さな点々が印象的だ。図鑑の中で「似ているな」と思ったのは、「アカメガシワ」だった。

災害などで荒地となった後に逸早く自生する生命力の強い落葉高木であり、春に赤い新芽をつける植物だというところが、陛下の前向きなお人柄にもぴったりだ。しかし、確証は無い。

◆記念硬貨の裏面に刻まれた「梓」の文様

そこで筆者は、梓の種類を限定する、もう一つのモチーフを確認してみたのである。

それは、令和元年に天皇陛下御即位を記念して発行された、500円記念貨幣。裏面には、皇室の菊の御紋とともに、天皇皇后両陛下のお印である梓とハマナスが描かれているが、梓のデザインは、長い枝の両側に楕円形で先が尖った形の葉がついており、和三盆糖菓子のものよりリアルなデザインだ。

天皇陛下御即位を記念して発行された500円貨幣(筆者撮影)
天皇陛下御即位を記念して発行された500円貨幣(筆者撮影)

枝葉の一つひとつをじっくり凝視すればするほど、「アカメガシワ」とは別の種類のように見えてくる。その形状をトレースし、再び図鑑と照らし合わせたところ、「ミズメ」に最も似ている・・・というより、「ミズメ」そのものであるように思える。ミズメは国内に多く生え、日本固有種でもある。

ただし、植物は門外漢である筆者がそう思うだけで、断言するには至っていない。

◆「梓」から「菊の御紋」への文様の変化

上記の和三盆糖菓子を見せてくれた方から、さらにこんな情報を教えてもらった。令和になってから、記念に配られる和三盆糖菓子の模様が変わったというのだ。

即位後は、皇室のシンボルである菊の御紋を入れるようになられた。皇太子時代は、個人の裁量で贈答品を贈られていたが、天皇になられると、そうはいかないのだろうと想像できる。天皇という「私」よりも「公」が優先されるお立場が、個人的なお印ではなく、菊の御紋という公の紋章の使用に表れているようだ。

中身は以前と同じものでも、刻印されるお印が変化するところが、実に皇室らしい。ちなみに、コロナ禍になってからは、陛下が親しい人を招かれたお誕生日を祝う会は催されていない。

天皇陛下(写真:ロイター/アフロ)と即位後に配られた和三盆糖菓子(筆者撮影)を筆者加工
天皇陛下(写真:ロイター/アフロ)と即位後に配られた和三盆糖菓子(筆者撮影)を筆者加工

「雅子さまのお召し物に国際親善への思い ファッションから読み取れるメッセージ」https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20220817-00310267

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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