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円安は、日本経済の姿を反映したもの、何もしなければ、その先はさらに一段の円安となって苦しむことになる

津田栄皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

最近円高になる状況を受けて、円高を予想する人が多い。また政府の一部には110円台になると見るところもあるらしい。これまでは円高に慣れていて、円安になることをあまり経験してこなかったから、一過性だとみているのかもしれない。果たして本当だろうか?私には、最近のドル円相場を見ていると、もっと根が深く、急速に色あせてきている日本経済そのものが問題と感じる。

確かに、昨年は、ドル円相場は1月115/ドル円前後だったものが、9月には152円/ドル近くまで円が急落した。その後、日本の財務省・日銀の大規模な単独介入(アメリカは黙認か)によることもあり、年末には130円を一時割るまで円高に振れた。

これほどまで円安、円高と為替相場が大きく振れるのは、近年にない。なぜこんなに動いたのか、理由は、多くの人が言うように、インフレに対処するアメリカFRBの継続的な引き締め政策に対して、景気の回復が鈍い日銀は、ゼロ金利・量的緩和政策からマイナス金利政策、最後にはイールド・カーブ・コントロール(YCC)政策と超低金利政策を継続していることの結果、日米金利差が拡大したことにある。

しかし、それは表面的な理由に過ぎない。本質的には、経済の格差、国力の差から生じている。金利差は、それを反映しているに過ぎない。つまり、アメリカの景気が良すぎるのに、日本は一向に景気が回復しない。それが金利に現れているだけなのだ。だから、日本経済が本格的に回復しない限り、介入によって円高に振れてもそれは一過性であり、再び円安に振れる運命にあると言えよう。

もちろん、円安にポジションを傾きすぎていた反動が起きてもおかしくなく、それが130円割れまで円が戻っていることに現れている。そして、今後、アメリカはFRBのインフル抑制のために金利引き締めに強い意志を持っているから、景気減速、もしくはやり過ぎて景気失速の可能性があり、その時はアメリカの金利は低下してくる。そうなれば、日米金利差は縮小するから円高になる可能性はある。

しかし、それは、日本の金利がほぼゼロから来る縮小だ。つまり、日本の金利が下がる余地があまりなく、上にあるアメリカの金利が下がるから、金利差が縮小するだけなのだ。そして、もしアメリカの景気減速となれば、日本の景気も今より悪くなる。それは物価が上がるのに景気が悪いスタグフレーションという状況だ。

円安の状況を放置しているかのよう言われて、日銀の黒田総裁は、昨年末YCC政策を維持しながら、10年国債の利回りの変動幅を±0.25%から±0.5%に引き上げた(実質的な利上げ)が、円安の進行による物価の上昇が国民の生活に悪影響を及ぼし始め、国民からの批判を受けて、判断した面がある。しかし、実態は、これまでのアベノミクスのもとで行われてきた超低金政策が限界を超えてきていたためである。

10年前、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の三つの柱からなるアベノミクスは、日銀と政府が結んだ政策協定であるアコードのもとで、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現を目指したが、政府が本来やるべき第三の矢の成長政策をやらず、ほぼ日銀の金融緩和だけに政策の役割を押し付けてきた。政府がやらないから、黒田総裁は無理して異次元緩和をしてきたといえよう。(もちろん、デフレ要因の認識がが正しかったか、そのために行った異次元緩和が日本経済にどういう影響を与え、良い政策だったのか、検証する必要があろう。)

そのツケが、低成長を続ける日本経済にはもはや回復する力を失ってしまい、一方で世界的な金利上昇の中で、日本は低金利を続け、特に10年金利だけ低いいびつなイールドカーブを外国人投資家に狙われ、無理に高かった円の価値が急速に変更を迫られる形で現れて、金融・為替市場が大きく変動しているのであり、その責任は日銀だけにあるのではない。

個人的には、2012年自民党に呼ばれて故安倍首相(当時は2012年11月なので、総選挙前の自民党総裁だったが)に、アベノミクスの肝は第三の矢である成長戦略、それも大胆な経済の構造改革をいかに迅速にやるかであり、大胆な金融緩和政策や機動的な財政出動政策をやっても効果は2年で色あせる、しかも長期にやれば、モルヒネみたいな効果で、それらに甘えてしまい、日本経済は回復する力を失い、いずれ金利の急上昇と急激な円安に見舞われると伝えた。

安倍さんは頷いていたが、成長戦略を実行すれば痛みが伴うことから、反対勢力が多く、また国民から支持が得られないと感じたのか、結局成長戦略は不発に終わり、結果として世界に取り残されて、極端な低金利のもとで低成長を続ける日本経済となり、ここにいたって、予測通り、いびつな金利状況の修正と急激な円安に襲われたのである。今の金融・為替の動きは、当然の結果といえるし、今後もこの流れは大きく変わらいとみている。もちろん、ここで大胆な成長政策をするなら別である。

しかし、それは、時間が経つにしたがって、20年前の小泉・竹中構造改革時よりも、また10年前のアベノミクス時よりも、より一段と痛みが大きく、耐え難いものである。それでも、日本経済を立ち直らせるために、耐えてするかである。だが、今の岸田政権の政策を見る限りでは、むしろ成長政策からはかけ離れているので、日本は、一段の円安と高いインフレによる金利上昇に襲われ、さらに厳しい局面を、近いうちに迎えるのではないだろうか。

そういった意味で、日本経済を反映して、為替は、一時的な円高局面があっても長続きすることはないし、むしろ去年の安値を超えて、いずれ160円、180円の水準に行くのではないかとみている。

少し前だが、タレントの千秋さんが、海外から帰ってきて、『日本はやばい』と日本の危機感を感じながら、世界を知らな過ぎて日本を井の中の蛙とインスタグラムで発信していたが、まさに日本の置かれている状況を表現している。世界は急速に変化していく中で、日本は世界の流れに置いて行かれている。日本は変化することも成長することもしていないということだ。それが、まさに去年の為替の動きに現れているといえるのではないだろうか。

皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト

1981年大和証券に入社、企業アナリスト、エコノミスト、債券部トレーダー、大和投資顧問年金運用マネジャー、外資系投信投資顧問CIOを歴任。村上龍氏主宰のJMMで経済、金融について寄稿する一方、2001年独立して、大前研一主宰の一新塾にて政策立案を学び、政府へ政策提言を行う。現在、政治、経済、社会で起きる様々な危機について広く考える内閣府認証NPO法人日本危機管理学総研の設立に参加し、理事に就任。2015年より皇學館大学特別招聘教授として、経済政策、日本経済を講義。

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