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厚労省の雇用統計不正は、日本にとって深刻な問題だ!

津田栄皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト
外国人の日本株売りで、株式市場の戻りが鈍いのは・・・(写真:ロイター/アフロ)

 4月30日に平成を終え、5月1日令和の時代を迎えた。この令和時代が素晴らしい時代になることを願っている。しかし、平成の最後に大きな問題を抱えて、日本は、本当にいい時代になるのであろうか?

日本株式市場の戻りが鈍いのは・・・

 今、日本株式市場の戻りが鈍い。アメリカの株式市場は、史上最高値を更新し、欧州や中国の株式市場も、日本より大きく戻っている。確かに、言われるように、米中貿易摩擦などで、輸出に大きなマイナスの影響を受け、業績が悪化するからという理由があるかもしれないが、それだけであろうか。

 最近、米中貿易摩擦が緩和に向かうのではということで、世界の株式は戻り歩調にあった。それでも日本の株式は戻らない。取引高の7割を占める外国人は昨年末から3カ月余り売り続けている。最近売りが止まったように見えるが、それでも現物株は手放しているようだ。

 これだけ日本株は割安だといわれ、また3月末の配当がもらえるのに、外国人は日本株を手放している。彼らが売る理由は別にあるように思える。それは、日本と日本企業に対する見方がネガティブになったように見える。その大きな理由の一つに厚生労働省(厚労省)の統計不正があると考えられないか。というのも、昨年末前後から3カ月近く外国人の本格的な売りが続いた。ちょうど厚労省の統計不正が見つかり、日本が大騒ぎしていた時期に重なるからだ。

何もなかったように忘れられていく厚労省の雇用不正問題

 昨年12月末に発覚した厚労省の雇用不正問題は、当初は天地がひっくり返るほどの大騒ぎになった。しかし、4カ月経った現在、話題にもならない。

 この問題は、国民にとって、過少に給付されていた雇用保険や労災保険が追加給付されるというわけで何か被害があったわけでもなく、そういえばそういうことがあったなということで、もう過去のこととして忘れ去られようとしている。しかし、果たしてそれでいいのか、忘れてしまっていい問題なのだろうか?

こんな深刻な問題はかつてない

 厚労省の雇用統計の不正は、個人的には、日本にとって深刻な問題だと捉えている。日本の、しかも国が行う統計がでたらめということは、著しく日本に対する信頼を損なうことになるからだ。これまで企業の検査不正や会計不正などが噴出してきたが、一企業の問題だ。また昨年は財務省の文書改ざん事件も起きているが、経済とは関係ないことであった。

 しかし、厚労省の統計不正は、経済に関する問題であり、しかも過去15年にわたってなされてきたため、経済の実情を正確に捉えられず、また一部で統計の不連続から過去との比較ができない状況にある。このことは、根底から日本全体に対する信用を失墜させる問題である。こうした事態は、途上国や社会主義国であれば仕方がないかもしれないが、先進国ではありえないことである。つまり、日本は、途上国か社会主義国か、あるいはそれ以下に見られるということだ。

 ところが、国民も政治家も、危機意識を持っていない。これまで、政治の舞台では、野党は、忖度した結果だ、その責任は安倍政権にあるとして追及している。一方の与党は、なんとか切り抜けてうやむやにしようとしている。また、国民も、そしてマスコミも、大した問題と捉えず、もう一過性の過去の問題として忘れようとしている。国民も、政治家も、自分の問題として捉えていない。

 企業だけでなく、国まで不正をし、それを問題として正さないということは、日本が劣化している証拠である。このまま、この深刻な問題を根本的に解決せず、放置していくのであれば、日本の劣化のスピードが上がるだけでなく、世界から信用されなくなり、日本は途上国並みに堕ちていくことすら起きよう。

何が問題なのか?

 厚労省の統計不正の発覚の後、統計の点検でいくつも統計不正が報告されている。しかし、政府見解は、修正しても大した違いがない、経済への影響は軽微だという。問題を大きくしたくないということだ。

 しかし、これは大きな問題なのである。これのどこに問題があるかだが、厚労省という政府機関が基幹統計である毎月勤労統計で長期にわたって不正を行っていた、そのことが、日本政府が行う統計全般に対する信用に疑念を抱かせたことが問題なのだ。つまり、日本政府の発表する経済統計そのものが信用できないということになる。

 しかも、厚労省は、不正で間違ってきた統計データを、過去にさかのぼって正そうとせず、かつこれまでの一連の内容についても公表しないとした。その結果、04年からの8年分の統計資料を廃棄したため数値自体が不明となっており、もはや統計そのものが空白で断絶したことになり、経済実態がつかめなくなっている。特に今回のこの毎月勤労統計になると、GDP(国内総生産)の雇用者所得などにも関わるほど、重要な統計である。ということはGDPも正しく経済を表していないことになる。

問題の結果は・・・

 この結果、この不正問題は、深刻な問題をはらんでいる。海外からは、日本経済の実態が捉えられなくなったといえる。賃金所得などの経済実態が検証不能となれば、アベノミクスは上手くいっているのか、日本経済が本当に回復しているのか、不透明になってしまったことになる。

 投資は、何が起こっているかまたは何が起こるか分からない不透明さを最も嫌う。このことから、最初に述べたように、海外投資家は、日本を投資対象として疑問を持ち、現物株の持ち高を減らしてきているのではないだろうか。それが世界の株式市場が回復してきていても、日本の株式市場の回復は鈍いことに表れている。最近は、企業の不正だけでなく、国まで不正を行っていては、投資家としては、間違っているかもしれない統計数字などを信じて投資するのはとても難しい。海外投資家は、もはや日本に投資できないと判断していてもおかしくない。

 そして、問題が深刻なのは、そうした統計の重要さに気付かない、あるいは無視する政府である。統計は、信用の基礎である。それが正しくなければ、どんなに言葉で言ってみても信用する数値という証拠がない。不正をして統計をないがしろにしているのでは信用しろといっても無理なのである。

 そういう意味では、厚労省の、過去に遡って、統計数値を修正して正しくするようなことはしないという判断は、統計を軽視し、日本の本当の姿を示すことを拒否していると見られてもおかしくなく、今後の検証でいくつもの統計不正が見つかり、このような修正しない姿勢を取り続ければ、本当に日本は海外から途上国扱いされ、投資が来なくなって、没落することになろう。

 その点で、厚労省の統計不正は、不正をしたことだけでなく、間違った統計を修正しないという姿勢を含めて、罪が重い。そして厚労省の統計不正の罪は、そのほかにも、いくつかの深刻な問題をはらんでいる。それは次回述べたいと思う。

皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト

1981年大和証券に入社、企業アナリスト、エコノミスト、債券部トレーダー、大和投資顧問年金運用マネジャー、外資系投信投資顧問CIOを歴任。村上龍氏主宰のJMMで経済、金融について寄稿する一方、2001年独立して、大前研一主宰の一新塾にて政策立案を学び、政府へ政策提言を行う。現在、政治、経済、社会で起きる様々な危機について広く考える内閣府認証NPO法人日本危機管理学総研の設立に参加し、理事に就任。2015年より皇學館大学特別招聘教授として、経済政策、日本経済を講義。

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