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中国経済は今後も順調に成長するのか?

津田栄皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト
順調に成長が続く中国経済、下期は鈍化?(写真:ロイター/アフロ)

中国経済は順調?

 17日に発表された中国の4~6月期のGDP(国内総生産)は、1~3月期から横ばいで、実質で前年同期比6.9%の成長であった。堅調な個人消費と、政府の道路や空港などのインフラ投資がけん引した。これを見る限りでは、中国経済は、当初目標とする6.5%前後を上回り、順調に成長し、不安がないように見える。

 しかし、本当に中国経済に不安がないのであろうか?一部のエコノミストは、年後半以降再び減速すると見ている。何が問題なのであろうか?

中国経済は政府に支えられた成長

 今年は、中国では、10月に5年に1度の中国共産党大会が開催され、最高指導部の人事が決定される。この党大会で、習主席はこの5年の政権運営における成果を内外に示さなければならない。そして、2022年まであと一期5年、自分にとってやりやすい人物を周りに固めた人事を行って政権を盤石にしたいと考えている。そのためにも、経済が順調に成長していることを見せなければならない。

 それが、今年初めから行われてきた、大規模なインフラ投資である。この結果、今年の1~3月期、4~6月期のGDPでは2四半期連続で前年同期比6.9%を実現し、今年の経済成長目標である「6.5%前後」の達成にほぼメドが立ったといえる。もちろん、GDPの目標達成には、堅調だった個人消費が6割超も貢献したことが大きいものの、道路や鉄道、空港などインフラ投資が、予算の9割を前倒しして執行した景気押し上げ効果がなければ、目標に届かなかったといえる。その点で、この6.9%成長は政府の政策によって意図的に作られた成長と言えよう。

 そして、個人消費は、経済成長による所得の向上から、中間層が拡大し、消費のけん引役となったこと、その中心が、ネット消費、ネット決済を積極的に行う若者であることなどの特徴がある。一方で、百貨店やスーパーなどの実際の店舗での消費は苦戦している。こうした傾向は、アメリカの個人消費と同じである。個人消費の点では、中国の経済は急速に成熟化が進んでいるのかもしれない。今回は、昨年に続く減税に加えて、物価が比較的安定している中で労働環境が良好で賃金が上昇していたことを背景にネット販売が前年同期比33%と爆発的に伸びたことが大きく貢献している。

中国の景気は、依然として輸出で稼ぐことで回っている面がある。それが好調であれば、最終的に労働者の所得の増加につながる。そして、輸出を伸ばすために、中国政府は実質的に為替を操作して安定化させている。また、不動産や株式などの上昇による資産効果も、個人消費を押し上げている。そして、不動産市場や株式市場には、政府が関与して、堅調に推移させてきた。つまり、ここでも政府が市場を実質的にコントロールしているといえる。

こうして見てくると、個人消費の堅調な動きも実質的に政府によって作られているといえる。逆に、輸出や資産市場がおかしくなれば、所得が伸び悩み、消費にブレーキがかかる。そして、経済成長が止まれば、さらに個人消費が停滞し、経済の流れが逆回転し始めることになる。

このまま順調にいかない中国経済

 この1~6月期では、中国政府は、想定通りの経済成長を達成してきたが、今後は、高い成長を維持できるか微妙である。そして場合によっては、波乱が起きる可能性もありうる。

 その一つ目は、成長に貢献したインフラ投資が一段落して、景気の下支えにつながらなくなるからだ。共産党大会に向けて実績作りで中央・地方の政府が行ってきたインフラ投資は、ほぼやり尽したといえ、予算上残り1割程度である。

二つ目は、投機的になってしまった不動産投資に対する規制と金融引き締めである。昨年景気減速が見えたために、マンションなどの不動産の購入規制を緩和し、景気を好転させたが、逆にマンション価格の高騰を招き、もはや一般人が買えないほどの価格になってしまったため、再び購入規制をかけ始めた。そして、融資を抑制するために、金融引き締めも行われている。

その結果、大都市部における不動産価格は、頭打ちになりつつあり、今後は下落する可能性がある。地方は、まだ不動産価格が堅調に推移しているが、社会安定のためには購入規制を強化し、金融引き締め効果が浸透することで、地方の不動産価格もいずれ伸び悩み、下落に転ずるかもしれない。それが、不動産の売却を収入としている地方財政を悪化させ、地方景気の下振れにつながるかもしれない。

場合によっては景気下振れも

 

金融引き締めは、また企業の資金調達を厳しくし、工場や建物などの設備投資にも悪影響となりつつある。そして、企業の抱える負債の負担も重くなる。そのことが、最近ニュースにあった不動産大手の大連万達集団の約1兆円の資産売却による借金返済につながっている。こうした負債の返済が相次ぐようになれば、景気にはマイナスになろう。

今、民間の企業と家計が抱える債務は、22兆ドル、対GDP比で210%(2016年末)に達し、日本のバブルの水準を越えているともいわれている。また政府の抱える債務も、対GDP比で43%、国営企業の債務も加えると同180%とも言われ、もはや無視できない規模に達している。こうした中で、不動産規制、金融引き締めにより不動産価格が下落すると、設備投資、個人消費は伸び悩み、政府のインフラ投資による支出も停滞して、景気は下振れするかもしれない。

もちろん、資本主義経済を採用しながら国家が経済に対して主導的に関与して市場をコントロールしようとする国家資本主義の典型である中国が、市場に再び関与して、不動産規制の緩和、金融緩和など政策の総動員で景気下振れを抑えにかかるかもしれない。その結果として、バブルが再燃し、問題を先送りして深刻化させ、経済のゆがみは拡大することになろう。

最悪は、2015年のチャイナショック以上

 中国の国内として政策で解決できるなら、問題は大きくならないであろう。多くのエコノミストは、年後半の景気については、減速しても、緩やかなものになろうと見ている。確かに、世界が大きく変化しなければ、そうであろう。しかし、世界の金融経済、国際政治に大きな変化が起きようとしている。

 一つは、欧米の金融政策の変更である。秋以降、欧米は金融緩和の縮小へ舵を切る。その時、中国に何が起きるだろうか。誰も予測できない。もし、欧米の金融引き締めで新興国から資金が流出することになれば、国際経済は混乱に陥るかもしれない。そしてその時、経済的にゆがみを抱えている中国から、大量の資金が流出し中国元安を招き、それを抑えるために対抗的に金利引き上げ、資本移動抑制を行えば中国の国内景気は大きく下振れしよう。また世界的な経済の混乱は、世界貿易を停滞させ、中国の輸出は減退し、国内経済にマイナスに働こう。

 もう一つは、アメリカの中国に対する不信である。北朝鮮問題、鉄鋼などの貿易問題における中国に対するアメリカのいらだちは、大きくなりつつある。アメリカは、いらだちが高じれば、今後、輸入制限などを行い、不測の事態に至るかもしれない。もしそうなれば、これまでと違い、中国の政策で景気下振れを防ぐことができないであろう。

それは、国内の景気失速懸念や政策変更、シャドーバンキング問題など内部的な問題で上海株式や中国元の暴落を招いた2015年のチャイナショックの規模を超えるかもしれない。あの当時も世界的に株式が大幅に下落するなど大きな影響があったが、今回は、日米欧、中国などの政府は大きな債務を抱えていて、簡単には動けず、また金融緩和政策もすぐ限界が来るなど、政策に自由度がない分、思いがけない世界的な不況をもたらすかもしれない。

最後に

その意味では、順調に見える中国経済は、この秋以降、欧米の金融政策やアメリカによる貿易制裁などが実施されたとき、正念場を迎える可能性があろう。そして日本経済にとっても、アメリカや中国への輸出などに影響を受けて大きな試練を迎えることになろう。

皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト

1981年大和証券に入社、企業アナリスト、エコノミスト、債券部トレーダー、大和投資顧問年金運用マネジャー、外資系投信投資顧問CIOを歴任。村上龍氏主宰のJMMで経済、金融について寄稿する一方、2001年独立して、大前研一主宰の一新塾にて政策立案を学び、政府へ政策提言を行う。現在、政治、経済、社会で起きる様々な危機について広く考える内閣府認証NPO法人日本危機管理学総研の設立に参加し、理事に就任。2015年より皇學館大学特別招聘教授として、経済政策、日本経済を講義。

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