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トランプ大統領の目指す世界は何か?

津田栄皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

外交的手段で解決に向かう北朝鮮問題

この連休の間に、北朝鮮問題は、大きく急転回しているようである。アメリカは、軍事的圧力を強めながら、外交的手段で解決しようとしていることが見えてきた。前回(「トランプ大統領の北朝鮮のへの圧力は世界に何をもたらすのか?」)の最後に、軍事による解決ではなく、トランプ大統領の発言、閣僚の動向から別の道があるかもしれないと書いたが、それが現実になりつつある。そのトランプ大統領のやり方だが、いずれ経済においても行われると思われるので、北朝鮮問題のこれまでの経緯を、推測も入れながら少し説明したいと思う。

その外交的手段とは

まず外交的圧力が表面化したのは、4月6~7日の二日間行われた米中首脳会談であったと思われる。トランプ大統領は、この会談の前に、台湾の蔡英文総統との電話会談で関係を確認し、対貿易赤字最大の中国への高関税課税、為替操作国認定をするかのような発言を行うなど、すでに中国に対して外交的な攻勢に出ていた。そして、焦らしたうえで米中首脳会談に臨み、その際に、トランプ大統領は、北朝鮮への制裁強化に協力させるために、北朝鮮への単独攻撃の可能性を言及し、晩餐会中にシリアへのミサイル攻撃を通知、本当に北朝鮮への攻撃をやりかねないという恫喝をして、最後まで習近平主席を翻弄させた。

その結果として、米中会談後の中国の言動、そしてトランプ大統領の豹変となって表れている。中国は、会談前から、2月北朝鮮の外貨獲得となる石炭の輸入を禁止して、輸入量は3月には従来の200分の1まで激減(5月6日朝日新聞報道)させていた。会談後は、北朝鮮に対して核実験を強行すれば、石油供給を含む制裁措置を行うと警告、従わなければ相互軍事援助を約束した中朝友好互助条約の破棄まで匂わせて北朝鮮に核実験停止を迫るなど強硬な態度に変化している。しかも、中国は、アメリカのシリア攻撃については化学兵器使用という理由で賛意を表明し、国連でもシリア非難決議に、いつもの反対から棄権に回って、アメリカに実質的に賛成している。

トランプ大統領も、会談前は貿易問題や為替問題で中国を厳しく批判していたが、会談後は一転批判をやめ、貿易問題は先送り、為替操作国認定は見送りして、習主席を持ち上げるほど態度が豹変している。しかも、中国の協力を引き出すために、中国が提唱した米中の新型大国関係(太平洋を挟んで米中の二大国でアジア及び世界に影響を与えようという関係で、日本など懸念していた)を確認し、中国の人権問題については、従来のように中国へ明確に非難することはせず、黙認する姿勢に変化している。

もう一つ、アメリカは北朝鮮問題でロシアの協力も引き出すために外交的に布石を打っている。それは、米中首脳会談後に、国務長官ティラーソンがロシアを訪問、定例的なラブロフ外相との会談とは別に、プーチン大統領と2時間も会談をしていることであるが、その内容については一切表に出てきていない。もちろん、アメリカのシリアへのミサイル攻撃の後だけに、シリアを支援するロシアとは対立したであろうが、北朝鮮問題についても、ティラーソン国務長官はトランプ大統領の意向をプーチン大統領に伝え、突っ込んで話し合いをしたはずである。その結果として、北朝鮮を経済的に支援するロシアは、2日米ロ首脳の電話会談後、アメリカの意向を配慮してか、万景峰号の定期航路開設を延期するなど、アメリカへ協力する動きが見られる。ただ、その見返りは何かまだ見えない。それが、ロシアの米大統領選介入疑惑を捜査しようとするコミーFRB長官解任であれば、問題が大きいと言える。

トランプ大統領の瀬戸際外交の結末は

トランプ大統領は、こうして、軍事的圧力を強めながら、中露を利用して、外交で平和的な解決を目指しているかのように見える。1日北朝鮮の金正恩委員長と「適切な状況下」(9日のニュースでは、核・ミサイル開発を放棄することを条件として)であれば会談する用意があると発言し、そうすれば米朝首脳会談を開き、体制を保障すると中国を通じて北朝鮮に伝えたとしている。しかも、それを受けてか、米朝の間で非公式接触を行っているとも流れている。北朝鮮に核・ミサイル開発放棄による降伏か戦争かを迫るトランプ大統領の瀬戸際外交は上手くいっているように見える。しかし、北朝鮮は、中国に見放され(3日中国を初めて非難)、ロシアにも距離を置かれて、四面楚歌の状態にあって、追い詰められているが、降参するか戦争に打って出るか、まだ予断を許さない。トランプ大統領の瀬戸際外交は、どちらにしても危ない橋を渡っていると言える。

トランプ大統領の瀬戸際外交のやり方が経済に向けられると

これまでトランプ大統領の北朝鮮に対する軍事・外交の圧力を述べてきたが、問題は、こうして脅したり、妥協したりして、自分たちに有利な条件にもっていこうとするビジネス流のやり方を、トランプ大統領は経済においても同じようにしてくる可能性が高いことである。それは、自分に利益があるなら、相手が誰であろうと組み、相手が価値観や理念が同じ同盟国であっても、自国に不利益なら、脅して強要するなど、価値観や理念は関係なく、利益を基準に取引するやり方である。それが、トランプ大統領のいう自国の利益を第一に考えるアメリカンファーストなら、以前から行っている自国第一主義である中国、ロシアに続くことになり、今後、世界は、益々保護主義的になっていき、これまでの国際秩序を壊すことになって混乱を起こす恐れがある。

そして、アメリカが自国第一主義に傾いて、保護主義が世界に広がれば、各国の利益が衝突して混乱と対立を招くことになろう。すなわち、戦前自国第一主義が最終的には利益の衝突で戦争になったことの反省から、国際協調の下で自由主義を発展させ市場のグローバル化を進めてきたが、その道を逆走して再び自国第一主義の世界に戻るということだ。そして世界各国が自国の利益を追求すれば、いずれまた衝突して同じ過ちを歩むことになろう。つまり、これまで世界を支配してきた資本主義のルールが、協調から対立と大きく転換することになる。それがトランプ大統領の目指す世界と言うことになろう。

最後に

今、日本は、トランプ大統領の日本を守るという言葉を信じてアメリカに追随してきている。しかし、北朝鮮問題が一応の解決を見たら、次は経済がメインの問題になってくるはずであり、その時もトランプ大統領は日本に優しく接するのだろうか。次回はトランプ大統領の下で日本はどうなるのか論じたいと思う。

皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト

1981年大和証券に入社、企業アナリスト、エコノミスト、債券部トレーダー、大和投資顧問年金運用マネジャー、外資系投信投資顧問CIOを歴任。村上龍氏主宰のJMMで経済、金融について寄稿する一方、2001年独立して、大前研一主宰の一新塾にて政策立案を学び、政府へ政策提言を行う。現在、政治、経済、社会で起きる様々な危機について広く考える内閣府認証NPO法人日本危機管理学総研の設立に参加し、理事に就任。2015年より皇學館大学特別招聘教授として、経済政策、日本経済を講義。

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