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トランプ大統領の北朝鮮への圧力は世界に何をもたらすのか?

津田栄皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト
(提供:US NAVY/ロイター/アフロ)

トランプ大統領の政策の中心は軍事・外交へシフト

アメリカにトランプ大統領が誕生して以来、4月29日で100日経った。この間、トランプ大統領は、政策の中心であった成長戦略や移民制限などで思うようにいかず、成果を得ようとして大統領令を連発しているが、空回りするばかりである。トランプ政権は、こうした内政の停滞を軍事・外交などで補おうとして、シリアへのミサイル攻撃、アフガニスタンのISへの超大型爆弾による攻撃、そして北朝鮮への空母派遣による圧力強化などに出ている。

こうしたトランプ政権の動きにより、世界は、この先どうなるのか、まったく見通せない霧のかかった重苦しい雰囲気に覆われている。トランプ大統領は、現在、低下する支持率を挽回するために北朝鮮への圧力を強めて国際的な緊張を高めているが、そのことで、先行きへの不透明感を生み、世界経済が不安定化しようとしている。ただ、日本国内では、今すぐに戦争が起きるのではないかと騒いているが、韓国には数万人とも言われる在韓アメリカ人に避難指示が出ているわけではないので、現時点ではそれはないと見ている。その点で、戦争がまだ現実的問題となっていないといえ、金融・株式市場は冷静であり、経済においても変調するような動きは見られない。

北朝鮮への圧力の結末は?

しかし、問題は、北朝鮮に向け振り上げたこぶしをどのようにして納めるのか、そしてまたこの緊張関係がいつまで続くのか、である。一旦始めた北朝鮮への圧力による緊張関係を、いつ、どのように終わらせるのかによっては、世界経済を大きく変化させることになる。しかしながら、トランプ政権としては、戦略的にこの緊張関係をどのように終わらせるかを想定しているのかというと、軍事か外交か軸足がぶれる発言がみられるように、どうもそうした戦略を持たずに始めたように見え、北朝鮮が折れるまでは、やり続けるのではないかと思われる。しかし、北朝鮮は、たとえ、中国から圧力をかけられても折れる気はない、なぜなら北朝鮮の存在目的は金王朝の存続にあるからだ。

もし、北朝鮮が、アメリカが本気で戦争を仕掛けてくる気がないと見透かしてしまえば、さらに緊張が長引くことになるし、アメリカは、北朝鮮、さらには世界各国になめられることになる。あるいは、かつての戦前の日本のように四面楚歌で耐えられなくなって北朝鮮が暴発するかもしれない。したがって、この緊張関係が長引けば、可能性としては、お互いにメンツが潰されないためにいずれ決断しなければならず、本当に戦争を起こさざるをえないという最悪事態が待ち受けているかもしれない。

結末の結果は?

こうした緊張関係の中で、世界や日本の市場は、何も起こらないと踏んでいるのか、これからも緩やかに経済成長するものだとして堅調な動きをしているが、本当にそうだろうか。甘く見過ぎているような気がする。この北朝鮮への軍事的・外交的圧力が長期にわたれば、北朝鮮問題に直接かかわる国を中心に資源が非生産的な軍事関係に傾くことから、モノの動きが徐々に停滞してくるはずで、その悪影響が世界経済にボディーブロウのように効いてくるであろう。

そして、この北朝鮮への圧力は、いずれどこかで終焉を迎えるか、もしくは長期化からうやむやに放置するかになるのだが、後者では、アメリカはお互いに真正面になって競争するチキンレースで実質的に降りて敗北したことになり、海外から見くびられて、アメリカの威信は失墜することになるので、今となってはトランプ大統領の性格からしてこの場合の可能性は低いと思われる。

前者であれば、どちらが降りるか、どちらも降りずに正面衝突、すなわち戦争になるかである。この場合、北朝鮮が降りて敗北を認めた時は、金王朝の崩壊となって、北朝鮮は混乱し、日韓中露に難民が押し寄せ、大きな負担となるが、今の北朝鮮の金主席にその選択はないと見る。もちろん、トランプ大統領も降りる選択はないと見れば、究極的には戦争の可能性が高くなる。

そうなれば、周辺諸国、特にアメリカに味方する韓国、日本に多大な犠牲と損害が発生することになり、それだけでなく、アメリカ、中国やロシアは戦争による緊張状態から、生産活動が低下することになり、世界経済は失速することになるかもしれない。そして、このことが、極東の一地域では収まらず、戦争が波及的に世界に広がるかもしれない。そうなれば、過去歩んだ忌まわしい歴史を、また人類は踏むことになる。

最悪事態を想定せよ

結論としては、今回のトランプ大統領の北朝鮮への軍事的圧力強化は、踏み込んではいけない道に踏み込み、後戻りができない状況に入りつつあるように見える。それが世界に過去の苦い経験を再びもたらすかもしれない。個人的には、そうなってほしくはないが、最悪事態を想定して、私たちは対応しておくのがいいように思われる。

最後に、最近のトランプ大統領の発言、あるいはアメリカの閣僚の動向を見ていると、もしかしたら別の道があるかもしれず、その場合には、これまで述べてきたことは杞憂に終わることになろう。ただし、別の意味で、世界に大きなしこりと分断をもたらすような気がする。それについては次回に述べたいと思う。

皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト

1981年大和証券に入社、企業アナリスト、エコノミスト、債券部トレーダー、大和投資顧問年金運用マネジャー、外資系投信投資顧問CIOを歴任。村上龍氏主宰のJMMで経済、金融について寄稿する一方、2001年独立して、大前研一主宰の一新塾にて政策立案を学び、政府へ政策提言を行う。現在、政治、経済、社会で起きる様々な危機について広く考える内閣府認証NPO法人日本危機管理学総研の設立に参加し、理事に就任。2015年より皇學館大学特別招聘教授として、経済政策、日本経済を講義。

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