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ガレージから始まったHPのDNAを受け継ぐKeysightと新技術

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
図 スタンフォード大学で見かけたヒューレット氏とパッカード氏の説明 筆者撮影

 ウィリアム・ヒューレットとデビッド・パッカードの二人がパッカードのガレージで電子計測器を開発した始めた1939年に、Hewlett-Packard社が生まれた。HP社はHPE(HP Enterprise)と共に今やコンピュータメーカーになってしまったが、そのルーツは電子計測器である。HPから分離してAgilent Technology社が生まれ、さらにAgilentが電子計測器メーカーのKeysight Technologyと半導体のAvago(現Broadcom)に分離した。

 先日、Keysight は、最新のテクノロジーを見せるKeysight Worldを東京御茶ノ水のソラシティで開催した。来日したCEOのSatish Dhanasekaran氏の話を聞き、測定器メーカーHPを思い出した。ずいぶん前のことだが、ある半導体メーカーで高周波デバイスの開発に携わった経験があり、HPのネットワークアナライザを使ってsパラメータを測定したことを思い出した。半導体エンジニアだった当時、高価なHPの測定器を使うときは必ずノートに使用時刻、終了時刻を書き込んでいた。計測器の稼働時間をデータとして残すためだった。当時はHPではなくYHP(横河ヒューレット・パッカード)であった。日本政府が米国資本の上陸を嫌い、単独出資を認めなかったため、日本の横河電機との合弁として創立された。今から60年前の1963年のことだ。日本TIがソニーとの合弁で日本に進出した時と同様だ。

図1 Keysight Technology社長兼CEOのSatish Dhanasekaran(サティッシュ・ダナセカラン)氏 筆者撮影
図1 Keysight Technology社長兼CEOのSatish Dhanasekaran(サティッシュ・ダナセカラン)氏 筆者撮影

 その計測器メーカーのDNAを持つのがKeysightである。電子計測器は、半導体デバイスを測定するために使うため、計測器の性能は半導体よりもずっと性能が高い。シリコンよりも原理的に性能が高いGaAs(ガリウムひ素)ICを最初に開発・実現したのはHP社だった。残念ながら、同じ設計ルールならGaAsの方が高性能なのに、シリコンよりも微細化できなくて結局は負けてしまったという苦い経験が化合物半導体技術者にはある。

 そしてKeysight Worldは日本発のイベントだという。今や世界中にあるKeysightの拠点で開催されるようになった。Keysightの強みは何といっても高周波技術である。このため5Gや6Gの測定技術に定評がある。データレートの高速化ではGbpsから将来のTbpsへの進化を取り入れるだけではなく、コネクティビティ+コンピューティング+セキュリティをセットで進化させることを考えている。このテクノロジーの進化のキモとなるのは半導体であり、独自の半導体チップはもちろん開発する。

計測器もAIや自動車、サステナビリティへ

 計測機器にもコンピューティング技術が載るようになってからずいぶん経つが、テストするデータ解析を容易にするツールPathWaveでのテストの自動化にもAIを導入する。このためにAIがこれまでの専用的なAIであるNarrow AIから生成AIの登場で汎用AI(AGI: Artificial General Intelligence)、さらにAIのリスクを排除するASI(Artificial Super Intelligence)というロードマップまで描き出している。

 Keysightが狙う市場として、これからの5Gを取り入れる自動車市場にも2015年から参入している。当初はコネクテッドカーというべきV2V(Vehicle to Vehicle)やV2X(Vehicle to Everything)から入り、この技術が5Gで本格化する。そして今や充電システムやBMS(バッテリ管理システム)、さらにはトラクションインバータ用のSiC・GaNなどの高速パワー半導体の測定も手掛けるようになった。

 パワー半導体からサステナビリティにもこれから力を入れる。「電気自動車はゼロエミッションというサステナビリティの良いユースケースになる」とDhanasekaran氏は述べている。サステナビリティも成長分野であり、世界中が一斉に取り組み始めた分野でもある。

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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