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Googleがカスタム半導体の民主化・自由化を推進

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

 誰でも気軽に半導体ICを持てるようになりそうだ。Googleが主導して、デザインハウスとファウンドリを手配し、シリコンチップ製品を作ってくれるというサービスが始まる。LSI設計言語を覚える必要がなく、こんなICが欲しいという要望を出せば作ってもらえる。つまりシリコンチップの民主化が米国から始まるのである。

図1 Googleが半導体の民主化を推進 筆者作成
図1 Googleが半導体の民主化を推進 筆者作成

 自ら半導体エンジニアを積極的に採用しているGoogleは、AIの機械学習を実行しやすくするためデータフローグラフを利用して数値計算するためのオープンソースソフトウエアライブラリ、「テンソルフロー」を提供したり、AIチップであるTPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)を開発したりしてきた。

 AIを効率よく実行しようとすれば、ソフトウエアだけでは消費電力が高くなりすぎるため、半導体AIチップを作る必要がある。今、AIチップベンチャー(スタートアップ)が雨後のタケノコのように世界中に現れている。とはいえ、半導体を設計するためのVHDLやVerilogは半導体設計を手掛けたことのない人にはなじみがなく、ゼロから習得しなければならなかった。本来、AIのアルゴリズムに集中したいのに、LSI設計言語まで習得するとなるとAIチップ開発にとても時間がかかる。

 そこで、LSI設計を肩代わりして請け負いましょう、というサービスが半導体デザインハウスである。今回、Googleとパートナーシップを組むデザインハウスは、クラウドファンディングでビジネスを始めようとするEfabless(イーファブレス)社だ。EfablessはApache 2.0を使って半導体設計のRTLからマスク出力のGDSまでを担当する。同社が設計した半導体チップを製造するのが米国のファウンドリSkywater(スカイウォーター)Technology社である。Googleが主導して、半導体の設計はEfabless、製造はSkywaterをそれぞれ利用することで、誰でも自分の欲しい半導体チップを手に入れることができるようになる。

 日本だけが半導体産業は斜陽産業だという認識を持っている人たちがまだいそうだが、世界ではほとんどいない。というのは、半導体こそがAIでも5GでもIoTでもクラウドコンピュータでもなんでも実現してくれるデバイスであることを知っているからだ。かつては、半導体産業が行き詰っているから、液晶に行こう、とか安易な方向に向かったが、液晶やディスプレイは所詮、見せるためのデバイスにすぎない。しかし、半導体はどのような機能でも実現できる「打ち出の小槌」のようなデバイスである。「打ち出の小槌」を捨てた産業に未来はあるか。長い間の低迷を抜け出せない要因の一つは実はここにある。

 Googleは半導体チップがインターネットに欠かせない重要性を熟知しているからこそ、力を入れているのだ。

 さて、Googleは半導体を作るためのコストを削減するため、GoogleがスポンサとなりMPW(さまざまな顧客から異なる半導体チップを1枚のウェーハで製造するためのプロジェクト)シャトルと呼ぶサービスでSkywater社に製造を依頼するというもの。半導体工場は、自分だけのチップを1枚のウェーハで製造すると、数千万~1億円という膨大なコストがかかる。このため、1枚のウェーハに複数社のチップを乗り合わせるという仕組みでコストをみんなで分担しようというもの。しかも、ファウンドリが提供するオープンソースのPDK(プロセス設計キット)を用意して、130nmプロセスのアナログデジタル混載LSIを作る。Skywaterは2017年に米Cypress Semiconductorからスピンオフしたファウンドリ企業。

 こういった半導体に必要なCPUはもちろん、オープンソースのRISC-Vコアであり、コンピューティングのOSはオープンソースのLINUXである。できるだけオープンなリソースを使って自分だけの半導体チップを安く作るのである。

 半導体ウェーハを処理するSkywaterは最近、米国の国防総省から1.7億ドルの援助を受けて、ミネソタ州ブルーミントンにあるファウンドリ工場を拡張、90nmプロセスの放射線に強い宇宙用半導体を開発することが決まった。米国政府は半導体製造を強化する。Googleも米国政府に協力する意思を示すためにもTSMCではなくSkywaterとのパートナーを重視した。最近、TSMCも米アリゾナ州に工場を建設することを公式に表明したが、米国政府から税制優遇などのインセンティブを受けたようだ。また、しばらくの間ニューヨーク州アルバニーの最先端プロセス開発から離れていたGlobalFoundriesも、最近Skywaterと協力して、米国での半導体製造を提供する約束を交わしている。

 今や半導体技術は微細化だけが技術ではない。Intelは10nmで作ったTiger Lakeの方が7nmで作ったCPUよりも性能を上げられることを発表している。また、性能よりも機能やUX(ユーザーエクスペリエンス)のほうが重要だ、という声もある。無理やりモノリシックに集積度を高めるのではなく、チップレットという無理のない大きさのチップに抑えて低コストで1パッケージに半導体を集積する手法も注目を浴びている。90nmでも競争力のある製品を作れる。また、TSMCを活用する7nmチップと、90nmや65nmチップを混在させるパッケージング技術も利用できる。半導体技術は民主化、誰もが独自チップを持てる時代に入った。日本だけが取り残されないように願う。

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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