10年後の未来を見据えたMicronがよく見えたMicron Insightイベント

 メモリ半導体メーカーのMicron Technologyがこの10月24日(現地時間)、カスタマやサプライヤーなどのパートナーとプレスを招待して、Micron Insightを開催した。基調講演とパネルディスカッションをメインにしたイベントである。NANDフラッシュだけで比較すれば、キオクシア(旧東芝メモリ)よりも売り上げ順位は低いものの、会社全体の半導体売り上げを比べると、圧倒的に売り上げが多く2019年度では234億米ドル(約2兆5000億円)を得ている。世界第4位の半導体メーカーである。利益は公開していないが、Fotune 500(米国の経済誌Fortuneが選ぶ世界のトップ500社)の105位に位置する立派な企業になった。

図1 Micron CEOのSanjay Mehrotra氏
図1 Micron CEOのSanjay Mehrotra氏

 世界18カ国、13カ所に研究開発実験施設を置き、従業員3万7000名を擁している。同社は従業員のことをチームメンバーと呼んでおり、社員への心遣いを忘れない。チームという言葉は、ラグビーの日本チームが言ったワンチームと共通する。さらにラグビー日本チームと同様、外国国籍の社員も多く、今回、サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフで開催されたイベントに参加している社員の顔も国籍もさまざまだ。社長が南アジア系のSanjay Mehrotra氏(図1)であり、世界中から優秀な人を集めている。個別インタビューした人たちには1~2年前に入社したばかりの役員も多い。

 このイベントでは、Micronが最近のITトレンドを見ながら企業方針を、成長技術や分野に合わせて変えていっていることがよくわかる。メモリだけだとコンピュータとすそ野を広げる組み込み系(Embedded systems)だけにとどまっていたが、今やIoTやAI、5G、自律化、そしてセキュリティといったITメガトレンドに合わせるような製品やサービスが相次いだ。

 「IoT」では大量のデータを発生し、それらをクラウドに送るための通信ネットワーク(「5G」)、さらにクラウド上でデータを意味のある情報に分析するための「AI」技術、そしてIoTのエッジに情報としてフィードバックする、という一連の流れがある。その後は、「自律的」にシステムを動かすようにするか、データを可視化して人間が判断しやすくするか、コストや人員との兼ね合いで決まる。このIoTのサイクルの中で、メモリとストレージが果たす役割が明確になってきた。

 これを見据えて、DRAM、ストレージクラスメモリ(3D-Xpoint:3Dクロスポイントと呼ぶ)、ストレージ(NANDフラッシュ)を数年前に用意した。それでもこの3つだけでは、速度やバンド幅(一度に読み出せるデータ数)でギャップが生じており足りない。そこで、DRAMというレイテンシ(遅れ)の小さなメモリ、その下にバンド幅の広いNVDIMM、その下に3D-Xpointパーシステントメモリ、その下にストレージが来る。ストレージの中もTLC(3ビット/セル)とQLC(4ビット/セル)という読み出し中心の動作が期待される半導体チップに分かれる。

 そして単なる半導体メモリを作るだけではなく、SSD(半導体ディスク)というストレージディスクデバイスも揃えている。それもポータブルSSDからデータセンター用のNVMeインターフェイスを持つSSDまで持っている。

 今回明らかにしたのは、セキュリティ認証のためのコンピュータブートデバイスも開発していることだ。しかもNANDではなくNORフラッシュを使う。NANDではコンピュータの立ち上げが遅くなるためだ。いくら認証用デバイスといっても認証に時間がかかるようでは使いものにならない。だからこそ、敢えて容量の低い高速NORフラッシュを認証デバイスAuthenta(オーセンタと発音)に搭載する。しかもビジネスモデルをクラウド利用とした。つまり、MicronはNORフラッシュメモリを使うAuthentaを開発し、Authentaのカギを管理するサービスをクラウドで利用するようなビジネスモデルを立てている。そこで、Authentaを単なるデバイスではなく、SaaS(Security as a Service)と位置づけ、運用するためのパートナーを募りエコシステムを構築する。

 もう一つ、半導体メーカーなのに、発表したシステム寄りの製品は、やはりAI(ディープラーニング)アクセラレータボードだ。Micronは、AI企業のFwdnxt(Forward Nextと発音)社を買収したことを明らかにした。AIアクセラレータボードはFwdnxt社の製品だ。この開発ボードを使えば、ディープラーニングのTensorFlowやCaffeなどのフレームワーク上でアルゴリズムを開発しやすくなる。しかもAIとメモリとは相性が極めてよく、ディープラーニングのニューラルネットワークの演算に必要なMAC(積和演算)回路とメモリとは近づければ近づけるほどAIの学習も推論も速くできるようになる。ここにDRAMが生きる。さらに不揮発性の3D-Xpointメモリとコンビで使えば、AIシステムの高速性を維持しながら、超低消費電力のAIを実現できるようになる。だからMicronはAIアクセラレータボードを次の10年をにらんだメモリ新市場を生み出すデバイスとして手に入れた。

 半導体チップで見ると、DRAM、3D-Xpoint、NANDフラッシュの3つを揃えているメモリメーカーはMicronしかいない。SamsungやSK HynixはDRAMとNANDのみ。キオクシアだとNANDフラッシュしか持っていない。未来をどうやって広げていくのか、残念ながら東芝メモリがキオクシアになっても見えてこない。2017年、18年のメモリバブルで大儲けしたから東芝メモリは、本体を再建するためにやむなく切り離し巨額の資金を得て東芝再生に向けた。しかしメモリバブルがはじけた今、旧東芝メモリは四半期決算で赤字を出すようになった。

 Micronの優れた経営陣は、半導体バブルで浮かれていたわけではなかった。そして、半導体メモリを単なる3種類そろえただけでもない。アクセス速度やバンド幅、レイテンシなどで得意・不得意な製品をメモリからストレージまで隙間なく埋めていくことができるようになることだ。それもメモリだけの半導体メーカーではなく、メモリを中心としてパートナーとの協業によるシステム装置の開発にも力を入れていくことだ。今回の個別インタビューでも、「次の10年は」という言葉がインタビュイーの口から何度も出てきた。つまり、どの製品が3年後、5年後、10年後なのかを意識しながらロードマップを描き未来を切り開く様子が手に取るように見えてくるのである。

                                                      (2019/10/25)