Intelが汎用GPUに進出する。これまで同社はSoCヘテロプロセッサに自社製のGPUコアを搭載してきた例はあるが、GPU単独でチップ売りするのはこれが初めてとなる。NvidiaやAMDとまともにガチンコ勝負となる。しかもデザインルールが7nmのプロセスを使い、EUVリソグラフィ技術で製造する。Intelの7nmプロセスは、TSMCの5nmに相当すると言われている。

 図 これは写真ではない レイトレーシング技術によるフォトリアリスティックな画像 出典:Imagination Technologies
図 これは写真ではない レイトレーシング技術によるフォトリアリスティックな画像 出典:Imagination Technologies

このGPU(製品コード名:Intel Xe)はこれまでのGPUのような並みの性能ではない。このグラフィックスチップを使って絵を描くと、写真と見分けのつかないくらい美しい(フォトリアリスティックな)絵を描くことができるという優れものだ。映画などの写真は著作権の関係上、表示することができないが、髪の毛の1本1本がきれいに表現され、まるで生身の人間の写真のような画像・映像を創り出せる。しかもその画像処理がリアルタイムで行われる。

かつて、映画作り(例えば、生まれた赤ちゃんがお爺さんの顔をしており年をとるにつれ若くなるという「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」)でも、写真(動画)と絵(グラフィックス)の区別がつかないほどの映像を創り出す技術「レイトレーシング(Ray tracing)」は使われてきた。しかし、1枚のグラフィックスを描くために何時間もかかり、映画製作では大変な労力を強いられた。

ところが、昨年秋にNvidiaがリアルタイムで絵を描けるレイトレーシング用GPUを発表した。Intelも負けずに12月には、レイトレーシング用GPUのロードマップを発表したが、この時はまだ具体性に欠けていた。

このレイトレーシング技術は、対象物や周囲の壁に光が当たるとそこからの反射が生じ、さらに壁などに再反射し、再び対象物にも当たり、さらに光の反射過程を繰り返す、という極めて複雑な光の反射工程をたどる。これらの工程を全て計算するのだからその処理は複雑になり、その計算時間も必然的に長くなる。つまりプロセッシングパワーが必要なのだ。だから、Intelは7nmという最先端のリソグラフィ技術で製造し、最高の性能を得ようとする。

色のレンダリング(色塗り)や光のパスの反射の繰り返し計算に適したプロセッサがグラフィックスプロセッサGPUである。GPUは、集積したMAC(積和)演算器を大量に並列動作させて1枚の絵の色を塗る半導体チップなので、実はニューラルネットワークにおけるニューロンの超並列演算と似ており、AIの学習や推論にも使える。しかも、ベクトル演算とも言われるMAC演算回路を大量に常に動かすスーパーコンピュータとも共通する。このためIntelが注力するデータセンター応用にもぴったり向く。すなわち市場は、単なる映画作りだけではない。IntelがどこまでゲームPCに力を注ぐつもりかどうかは明確ではないが、データセンターだけではなく、ゲーム用PCにも使い道はある。NvidiaやAMDのGPUはむしろゲームPC市場で大ヒットしたチップである。

しかもIntelは数年前からMAC演算を必要とする数値演算回路をCPUの中に集積してきたというGPU設計の経験がある。GPUだけを切り出して一般売りする場合でも、プロの実績を積んできた。Intelのデータセンター向けハイエンドプロセッサのXeonにGPUを集積してきたが、その色塗りのソフトウエア工程を容易にするフレームワークである、Intel Rendering Frameworkと呼ばれるオープンソースのソフトウエアライブラリを持つ上に、映画ドリームワークスのMoonRayレンダラーなどのビジュアル効果を出すためのツールEmbreeをXeonプロセッサがサポートしてきた。

加えて、光の陰影をつけるためのシェーディング技術でもピクサーやソニーイメージワークスとも共同でOSL(オープンシェーディング言語)を使ってシェーディング性能を上げてきた。ここでもIntel AVX2やAVX-512ベクトル命令を使って並列性能を引き出してきた。

さらにIntelは、オープンソースのUSD(汎用シーン記述)言語のHydra OSPRayプラグインの最初のバージョンをリリースし、フォトリアリスティックな画像・映像をリアルタイムに創り出せる。このプラグインIntel OSPRayとIntel Open Image Denoiseを使ってアプリケーションを作製すれば数百GB~数TBの巨大なデータのレンダリングが可能になる。

Intelは、汎用GPUチップの販売だけではなく、それをプリント回路基板に実装したIntel Xeグラフィックスカードを後半にリリースすると見られ、それに合わせてカスタマイズするためのレンダリング・シェーディングのツールIntel OpenVKL (ボリュームカーネルライブラリ)も後半にリリースする予定だ。これによってIntel OSPRayは、大量処理可能なカーネルライブラリとして形を変え、Intel OpenVKLとなる。

このようにIntelは7nmプロセスで製造するGPUチップだけではなく、ボードに組み込んだグラフィックスカード、さらにカスタマイズするためのソフトウエアツールも揃えて、フォトリアリスティックな画像を見せるゲーム市場にやってくる。NvidiaやAMDは戦々恐々としているに違いない。一方、イマジネーションテクノロジーズ社は、モバイルにフォーカスしたレイトレーシング技術を開発しており、低消費電力をキープしている。