Yahoo!ニュース

現実のIoTは2021年でも200億個未満

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

「将来の予想なんて、水晶玉の占いのようなものだけど、Ciscoの5年前の予想は見事に当たった」とはにかみながら語ったのは、通信ネットワーク機器メーカーのシスコシステムズ社戦略・技術・イノベーション担当VPのダグ・ウェブスター氏(図1)。5年前の2012年にシスコは、2011~2016年の世界の通信トラフィックの伸びを年平均成長率CAGRで29.1%と予測した。2017年のレポートでは、実際に29.9%と10%以内の誤差に収まっていた。

図1 シスコシステムズ社戦略・技術・イノベーション担当VPのダグ・ウェブスター氏
図1 シスコシステムズ社戦略・技術・イノベーション担当VPのダグ・ウェブスター氏

 このほどシスコは、2016年から2021年にわたる通信トラフィックの見通しについて語った。最初に通信ネットワークの4大トレンドを紹介。一つは帯域幅がさらに伸びること、二つ目のトレンドはIoTがネットワークをけん引すること、三つ目は5G対応、四つ目がセキュリティだ。中でも帯域幅増加のトレンドは、通信トラフィックのそれとモロに関係する。世界のインターネットトラフィックは、CAGR24%だが、日本は26%となり、世界全体で3.3ZB(ゼタバイト)にも達すると予測する。ちなみにZBは、GB(ギガバイト)の1000倍のTB(テラバイト)、さらに1000倍のPB(ぺタバイト)、さらに1000倍のEB(エクサバイト)、さらにEBの1000倍であり、10の21乗にもなる。

日本はトラフィックで世界をリード

日本のインターネットトラフィックは2016年の48EBが2021年には約3倍の168EBになると予想する。この伸びは日本ではブロードバンドが世界よりも普及しており、さらにインターネットにつなげる機器のインターネットユーザー数に対する割合が大きいからだ。2016年におけるブロードバンドのデータレートは世界が平均27.5Mbpsであるのに対して、日本は67.4Mbpsと高い。2021年にはこれが世界では53Mbpsになるが、日本は103.8Mbpsにもなると予測する。

 IoTのモバイルデバイスの伸びも著しい。スマートフォンやパソコン、タブレット、ファブレット、非スマホの携帯電話(ガラケー)、M2M(典型的なIoTデバイス)などモバイルデバイスでは、M2Mの伸びが最も大きい。これらモバイルに対する各デバイスのシェアは、M2Mが2016年に10%が2021年には29%に伸びる。次にスマホも2016年の38%が43%に伸びる。つまり、モバイルデバイスの内、スマホとM2Mが2021年には72%のシェアを占めることになる。このことはスマホの次もまだスマホを意味する。

IoTは2021年でも200億個未満

 これらモバイルデバイス全体では、2016年は80億個が2021年に110億個に伸び、そのCAGRは8%程度だとみている。IoTにはデスクトップパソコンやBluetooth LEにつながるウェアラブル、サーバーなどもその数として計算しているが、どう見積もっても、もはやせいぜい200億個にも満たない。かつて2020年に500億個と見積もった予想は見事に外れそうだ。これに対して、現実的な数字としてみるようになったためで、当初は花火を打ち上げたのである。この数字が勝手に独り歩きして、今でも500億個のIoTとぶち上げる人もいるが、その数字の意味を理解していないため、まるで違った未来を描くことになる。

 先月、セミコンポータルでデータの読み方、というチュートリアルなワークショップを開いた(参考資料1)。同じ数字でも見せ方によって解釈の仕方が違うことを説明した。近いうちのその解説を取り上げよう。数字、データの読み方は、十分注意しなければ、見事に外れて恥ずかしい思いをするので注意した方がよい。

日本はLPWAより4G+

 さて、M2Mの接続数を2G、3G、4G+、LPWAでみると、世界では2017年中に4G+が3Gを抜き、そのまま4G+ネットワークがもっと多く使われ、2021年には全ネットワークの46%を占めるようになり、LPWAは4G+を下回ったまま2021年も31%で2番目に多いネットワークになると予想されている。

 一方、日本では2018年にLPWAが4G+を抜き去り、2021年では49%を占め,4G+の39%よりも上に来る。これに対して、ウェブスター氏は、日本にはアーリーアダプタ(最初に新製品・新規格をすぐ採用する企業や人のこと)が多く、最初はセルラーネットワーク(4G+)から使っていくが、やがてLPWAに代わるとみている。4G+とは5Gも含むセルラーネットワークであり、そのネットワーク上でNB-IoTやCAT-M1などのIoT専用の低データレートで長距離のネットワークが構築されると想定している。

 「5Gでは、もはや固定ブロードバンドを一掃することになる」とウェブスター氏は見ており、10Gbpsというデータレートと同様に1ms以下のレイテンシが極めて重要だとする。半自動運転では接続中のレイテンシが短く、ほとんどリアルタイム動作として扱えることになる。ドローンの自動制御にも5Gは重要で、ドローンの応用範囲を広げるだろうとみている。

DDoS対策必須

 最後のセキュリティも、通信トラフィックにとってのサイバー攻撃としては、DDoS(Distributed Denial of Service)が毎年増えていくとみている。DDoS攻撃とは、1台のターゲットコンピュータに対して複数のコンピュータから一斉に重い負荷で攻撃する手法。ネットワークのトラフィックを占有するため、たとえコンピュータを乗っ取らなくてもその動作は遅くなる。認証、暗号、ソフトウエアからハードウエアまであらゆる対策を講じる必要がある。

                                                      (2017/08/11)

参考資料

1. 第4回SPIワークショップ「市場・統計データの読み方」

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

津田建二の最近の記事