Yahoo!ニュース

モトローラから独立、クルマ市場で稼ぐオンセミ

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

オン・セミコンダクター(ON Semiconductor)という半導体メーカーを知っているだろうか。1999年にモトローラ社から独立し、ディスクリート半導体やアナログIC、標準製品など、地味な半導体を扱ってきた企業だ。その後、さまざまな小さな企業や大企業の1事業部を買収して成長してきた。2014年の売上額は32億ドル程度になった。

一方、同じモトローラから独立したフリースケールセミコンダクターはマイクロプロセッサや、マイクロコントローラなど先端的な半導体製品を扱ってきた。IBMのPowerPCアーキテクチャをサポートしてきた。その後はARMアーキテクチャにも対応した。マイクロプロセッサのニュースは、改良点が明確でわかりやすい。このためメディアはこぞってフリースケールを採り上げてきた。しかし、2013年まで赤字続きで、2014年はようやく黒字に転換した。財務はあまり良くない。日本の大企業とよく似ており、リストラなどの改革のスピードが遅く、世界の流れについて行けなかった。NXPセミコンダクターからの買収提案を受け入れ、まもなくNXPの傘下に入る。

では親会社のモトローラはどうなったか。通信機メーカーのモトローラの設立は1922年とかなり古い。かつては通信用半導体にも力を入れており、世界の半導体市場のトップに立ったこともある名門だ。モトローラは、1990年代前半当時世界で最も小さな携帯電話機「マイクロTAC」を製造した企業でもある。携帯電話市場もかつてはモトローラが支配した。その後、ノキアに抜かれ、そのノキアはサムスンに抜かれ、モトローラの携帯電話部門モトローラ・モビリティはグーグルに買収された。昨年、グーグル傘下のモトローラ・モビリティはレノボに売却された。通信の内、通信基地局向け製品部門はモトローラ・ソリューションとなり、現在はこの部門だけの会社になった。

オンセミは、地味ながら着実に進化してきた企業である。ディスクリートトランジスタやダイオード、標準アナログ、ロジックなど標準品を扱う組織として分離独立した。今でもモトローラの株式所有比率は10%程度あるとオンセミのコーポレートマーケティングオートモーティブ戦略副社長のランス・ウイリアム氏はいう。標準品だけでは競争力が付かないため、独立した1年後にチェリーセミコンダクターを買収、PMICや自動車用ASSPなどを手に入れた。2006年にはLSIロジックの旧富士通セミコンダクターの工場を買収した。2008年にはAMI、カタリストセミコンダクターを次々買収、2010年にはカリフォルニアマイクロデバイス、2011年にはサイプレスのイメージセンサ事業部門と、三洋半導体を買収した。昨年、CCDイメージセンサのトゥルーセンス、CMOSセンサのアプティナを買収した。

モトローラは日本企業とよく似ており、かつては世界の頂点を極めた製品が多かったが、リストラを完了させるまでの時間が長くスピード競争になっているモバイルビジネスには向かない大企業病に陥っていた。世界の勝ち組企業とは全く違っていた。フリースケールのマイクロプロセッサは携帯電話のベースバンドに使われたが、モトローラが携帯で失敗するとフリースケールも引きずられた。フリースケールもリストラに時間がかかりすぎる「大企業」だった。

オンセミは地味なのに、車載用のCMOSイメージセンサ市場では世界のトップだという。車載用の半導体ICは、必ずクルマメーカーの認定が必要で、それなしでは納入できない。CMOSイメージセンサでは、世界トップのソニーはクルマ用のCMOSセンサの認定を取得していないらしい。もっぱらスマートフォン向けのセンサしか作っていない。

クルマ向けにこれから、CMOSセンサは多数入るようになる。主にクルマの安全性を高めるためである。例えば、前方に障害物を見つけると自動的にブレーキがかかる仕組みがあるが、その場合は1台あるいは2台のCMOSカメラで障害物との距離を測り、クルマの速度に応じてブレーキをかけている。駐車する時には、まるでクルマの上から見ているかのように画像や映像を合成するアラウンドビューモニター機能を使うが、この機能では左右前方に4台のカメラをそれぞれに配置し、撮影した映像を4枚合わせる。また、米国ではバックモニター用のカメラは設置を義務付けられるようになった。

バックミラーも液晶に
バックミラーも液晶に

図 バックミラーを液晶パネルに置き換え、後ろをもっと広角に見る

さらには、バックミラーの鏡を液晶に替えて、後方の景色を全て死角なく見えるようにしようという動きもある。昨年の「人とクルマのテクノロジー展」で日産自動車がデモ展示をしていた(図)。ドアミラーは停止したクルマの周囲を歩く場合には邪魔になる。ここにも1cm角程度の大きさしかない、小さなCMOSカメラセンサを設置し、横と後方の様子を前方のディスプレイで見るようにするテクノロジーも提案されている。

クルマのテクノロジーと言えば、自動運転を想起する人が多いだろうが、自動運転は免許の有無、自動車学校の解体、警察の仕組みの変換、法律の変更など社会全体への影響が極めて大きいため、そう簡単には市街地走行が許可されない。2020年どころか、2030~2040年の頃を念頭に置いたプロジェクトとなる。社会的な問題が解決されない限りは、本格的な実用化にはならない。しかしながら、駐車場での自動走行などの実用化だと、このような社会問題にまで踏み込まなくても済む。こういった応用は早い時期に実現されるだろう。

クルマのテクノロジーが進化すると、2030年ころのCMOSセンサの数は1台当たり20個を超えているかもしれない。オンセミは2020年に1台当たり19個設置されると予測している。

(2015/07/11)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

津田建二の最近の記事