4月21日~22日、東京・両国でMEMS Technology Forum 2015が開かれた。その中で、なぜ日本はMEMSが弱いのか、という議論が語られた。その中で大学の先生が、三つの理由を挙げられていた;(1)バルクMEMSに固執しすぎ、(2)国との連携が不十分、(3)投資やビジネスでのディシジョンが遅い、という3点だ。この内、(1)と(2)に関しては同意できない。なぜか。

(1)は技術的な手法に関する問題であり、だからと言って日本が技術に弱い訳ではない。技術的には日本が優れている点は極めて多い。つまり、研究開発のフェーズでは日本の技術は劣っていない。しかし、ビジネスが世界から見て遅れている。

(2)は、国と連携すればビジネス的に強くなれる、と言っているようなものだ。これは全く違う。国家プロジェクトをたくさん作って、日本の半導体産業がますます弱体化してきた歴史があるではないか。国に頼るようなビジネスマインドでは世界とは戦えないのである。

(3)の経営判断が遅い、という点では全くその通りだが、この点は外国の方から言われたという。

つまり、以上のことから、大学の先生方は市場経済ビジネスを本当に理解しているのだろうか、と首をひねりたくなる。日本の国家プロジェクトに頼る体質と、かつて米国が連邦政府に頼って失敗した初期のSEMATECHプロジェクトとは共通する。市場経済は、企業が自分の判断で、責任を持ってビジネスを遂行するものだ。誰かに頼るとか、誰かのせいにするものではない。市場があるかどうか、自分でコストをかけて調査し、判断するものである上、市場が求めているアイデアを具現化し、製品化するのが基本だろう。

日本の大手半導体メーカーがMEMS市場に出遅れたのは、市場をきちんと把握しなかったからである。このためIoT(Internet of Things)をベースとするセンサ革命の大きなトレンドを逃がそうとしている。MEMSに対しては、深いシリコンエッチングやメッキなどでシリコンLSIのクリーンなプロセスを汚したくない、という生産技術者の声もかつて聞いた。これは技術者が強く、技術を最重要視し市場を無視してきた態度であるといえる。つまり、MEMSプロセスがLSIプロセスを汚さないようにする方法を技術者が考えるという前向きの態度にならなかった。

これまでのMEMSビジネスは、インクジェットプリンタのヘッド(MEMS技術で作った微細な穴からインクを押し出す)や、テキサスインスツルメンツ(TI)が大成功を収めたDLPディスプレイ(DMD(デジタルミラーデバイス)のミラー部分をMEMS技術で作った投射型ディスプレイ)、自動車エアバッグ用の加速度センサ(微細なカンチレバー構造をMEMS技術で作る)、その他工業用のMEMSの圧力センサなどが主なMEMS製品だった。このため、プリンタビジネスに強いHPやエプソン、TIなどがMEMS市場のトップを占めていた。

MEMS市場の世界トップ30社 出典:Yole Developpement
MEMS市場の世界トップ30社 出典:Yole Developpement

ところが、MEMS市場は、スマートフォンに加速度センサが導入されてから一変した。スマホの画面を縦から横にすると画像も一緒に動いてくれるが、これはMEMSによる加速度センサが地面に対して垂直方向の重力加速度を検出することを利用している。スマホに導入されると、1台にたとえ1個のMEMSが使われたとしても年間で数億個の生産が求められる。つまりコストダウンが強く求められ、特にSTマイクロエレクトロニクスなどはこの要求に応え、スマホに載せることができ、2013年の世界市場をボッシュと並んでナンバーワンの地位を獲得した。日本の半導体産業は、この動きについて行けていない。

MEMS技術によって安価なセンサができるようになると世界はどう変わるか。これまで価格の高い工業用のセンサも安価にできるようになると、これまで巨大な装置に3個しか搭載できなかったセンサを30個搭載できるようになる。工業機械に大量のセンサを付けられるようになると、ダウンタイムゼロの機械を運転できるようになる。これがGEの提唱するIndustrial Internetである。機械が故障する前にMEMSセンサで機械の異常を発見できるため予防保守(preventive maintenance)が可能になる。そうすると、例えば風力発電のタービンに多数のセンサを付けておき予防保守ができれば、何kW発電するたびに料金をもらうというビジネスモデルが可能になり、売りっぱなしの製品ではなくサービス込みのビジネスができるようになる。

だから今、センサ革命が始まった、と言われるゆえんである。残念ながら、日本の半導体大手はセンサ革命の認識さえなかった。しかし、希望はある。中堅の半導体企業である新日本無線(NJR)は1年数ヵ月の間にMEMSマイクロフォンを2億個生産し出荷した。もちろん、用途はスマホである。現在のスマホにはMEMSマイクが1台に3個程度入っている。スマホにはクラウドベースの音声認識機能がある。認識率を上げるためには周囲のノイズを打ち消す機能は必須だ。マイクを2個使い、周囲の騒音を二つのマイクで拾い、その内の一つのノイズを180度位相反転させるとノイズを打ち消せる。あるいは複数のマイクからのノイズを打ち消すためのアルゴリズムを開発している企業もある。

MEMS技術は、市場を見ながら開発していれば、ビジネスを成長させることができる。MEMSとそのセンサ信号から意味を抽出するアルゴリズム、そして楽しいユーザーエクスペリエンスと組み合わせると、面白いことができそうだ。これに音楽や楽器、映像などを載せるデバイスは、きっと楽しいユーザーエクスペリエンスを実現するだろう。このためにはソフト、ハード、サービス、ビジネスモデルなどの各得意なところとコラボレーションすることになる。仲間探しは極めて重要だ。アルゴリズムの得意な企業、IT系のユーザインタフェースに長けた企業など、これまでのハードだけのモノづくり産業の外にいる企業を見つけなければならない。セミナー、コンファレンス、講師との会話などなど、コラボの手がかりにコストをかけることを理解できる上司を説得する「粘り」も必要となる。とにかく、若手が外に出て、IT系の人たちと話せる環境を自ら作り出す努力が必要であろう。

(2015/4/28)