過去を美化しすぎずに言語化し、忘れ去るのではなく心の片隅に保存する

 誰にも失恋の記憶はある。告白すらできなかった片思いから憎しみ合って別れた離婚まで、恋の始まりは甘くてその終わりは苦いものだ。歳月が経てば少しずつ薄れていくけれど、ちょっとした拍子に思い出したりする。SNSをはじめとする連絡手段が発達した現代では、昔の嫌な記憶を忘れたふりして元恋人に連絡を取り、「やけぼっくいに火がつく」ことも少なくない。

 過去をやたらに掘り起こしても良くない結果に行きつくことのほうが多い。くっつく相手が同じなので、関係性の悪化と崩壊も同様の経緯を辿りやすいのだろう。前を向くためには、苦さもある過去を美化しすぎずに言語化し、忘れ去るのではなく心の片隅に保存しておくことが必要だと思う。そこで筆者は昨年から「失恋ミュージアム」という連載を始め、市井の人々の終わった恋の思い出を聞き取り、書き下ろしてもらった美しいイラストを添えて保存してきた。

 毎月1人とじっくり向かい合い、先月でちょうど10人目に達した。男性3人、女性7人。失恋調査と言えるほどの母集団ではないが、男女で明らかな傾向が見られるので忘れないうちにここに記しておきたい。

 男性はいずれも失恋相手に対して良い感情を抱き続けている。言い方を変えれば、未練がましい。10年前から同じ相手に何度も告白して断られているという男性からは取材を断られた。理由は「まだ終わった恋じゃないから」。下手をするとストーカーだ。

 女性のほうは、1人を除いてほぼ全員が失恋相手への怒りを語っている。相手の不誠実さを糾弾し、裏切りに憤る。そのうえで、現在はさっぱりとした表情で生活をしていることが多い。

なぜ男女で失恋への向き合い方が異なるのか。取材で見えてきた2つの原因

 この違いはどこから生じるのだろうか。2つの原因が考えられる。1つは恋愛における男女の力関係だ。男女平等が進んだとはいえ、現実の世界ではまだまだ大きな力の差がある。恋愛や結婚において、「泣きを見る」のは女性のほうが圧倒的に多いのだろう。実際、失恋ミュージアムで丁寧に取材をしていても、男性の思い出に登場する女性はズルさはあってもあくどさはない。一方の女性のほうは相当にひどい経験をしている。

 もう1つの原因は、男女の生理的な違いだ。男性は想念に生活を規定されやすく、女性はいま現在の生活を重視する傾向があると感じる。男性は甘くて苦い失恋の思い出に浸っていられる。それを語るときはほとんど涙目だ。女性は基本的に目の前のことに精一杯で、過去にはあまりこだわらない。だから気軽に取材に応じてくれ、自分の中でもほぼ消化している失恋ストーリーを淡々と語ってくれる。たまの息抜き、気分転換といった感覚だ。

 未練と息抜き。ミュージアムと言うよりも酒場の繰り言収集のようになっている。でも、人間模様が面白い。いまこの文章を読んでいる人もいつか遊びに来てくれたら幸いだ。