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ザッケローニが見たドイツ戦。「日本は世界の強国を前にやれるんだ」

豊福晋ライター
ザッケローニが信頼を置いた吉田麻也が守備を統率した(写真:ロイター/アフロ)

 日本対ドイツ戦を見て、私はこれ以上ない誇り高い、最高の気分でいる。

 今大会はFIFAに招待され、大会の技術分析班として各試合を見回っている。分析班のメンバーは豪華だ。現役を引退した世界の有名選手や監督たち。そんな彼らに試合前、私は色んなことを言われていた。日本は成長しているが、ドイツには叶うわけがない。ドイツとスペインというグループに入ったのは不運でしかなかったね。同僚たちはそんな言葉をかけてきた。

 元日本代表監督として、その度に私は首を振った。君たちは間違っている。まあ見ているがいい。今の日本は大国を前にも対等にやれるんだ、と。ドイツのクリンスマンは驚いていたよ。

 実際、ドイツを前に日本は最高の試合を見せてくれた。

 ポイントとなったのは、1失点をした後にメンタル面でずるずると落ちなかったこと。あの後、ドイツは勢いに乗って押しこんできた。あの時点で2点目を許さなかったことが鍵だった。ドイツ相手に失点することなどどんな国にでもあるわけだ。スペインでも、イタリアでも、それこそブラジルでも。世界の舞台での経験が豊富な選手たちで構成された日本代表は、もうそれを分かっていた。

 これまでの日本なら、そこで頭を下げていただろう。しかし今回は違った。1失点など大したことはない、残りの時間で十分に返せる。そんな自信がこのチームにはあった。日本は失点後のドイツの猛攻にも耐え、後半の勝負にかけた。

 個人的に嬉しく思うのは、今から8年前、2014年ワールドカップで私が率いていた時の選手たちがチームの核としてこの日本を支えていたことだ。吉田麻也はディフェンスラインの中心で素晴らしい統率を見せていた。板倉とのコンビはドイツのアタッカーを前にひるまなかった。後半に冨安が入ってからの3枚のセンターの安定感。日本にこのレベルのセンターラインが出てくれば将来は明るい。酒井は右サイドで献身的に攻守に動き、ハイボールをライン際で競る強さを見せてくれた。

 日本人の特長は走れ、俊敏性があり、さらにチームプレーができることだ。これは他の強国にはない強みで、世界に誇れることだ。ドイツ戦でもそれが如実に出た。

 監督の采配も的確だった。日本代表監督をしていた頃、広島にいた森保監督と会ったことがある。その頃から有能な指揮官だと知っていたが、ドイツ戦の采配は素晴らしかったね。後半に躊躇することなく選手を入れ替えシステムを変える決断。配置が変わり、明らかにドイツはやりにくくなっていた。耐える時間が長かったが、それが終盤の日本の勢いにつながった。堂安の同点弾と浅野の決勝点に、私は興奮を抑えきれなかった。

 何度も言うが、日本は世界の強国を前にも十分にやれるんだ。何よりも重要なのは、ピッチの上での自信と信念だ。残念ながら、私が率いていた2014年の日本代表には強く信じる力が足りなかったように思う。しかしあの時の経験、苦い記憶は今にもつながっている。キャプテンの吉田に代表される、長くこの代表を支えてきた選手たちがあってこその結果だった。

 外から見ている私にまで誇りを感じさせてくれた日本代表には感謝している。ただ、ここで終わったわけではない。次のコスタリカ戦でも今の日本代表の力を発揮してほしい。過去の日本が達成できなかったことをこの大会で成し遂げられる。私はそんな気がしている。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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