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ザッケローニが見た日本対ポーランド。終盤の時間帯、あの決断の評価。

豊福晋ライター
0−1で敗れたものの日本はベスト16進出を決めた。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 日本代表はポーランドとの試合を0−1で終え、ベスト16進出を決めた。

 勝ち点でセネガルと並んだ日本だが、突破を決めたのは「フェアプレーポイント」。警告の少なさが幸いし、無事ベスト16に駒を進めることになった。

 この試合最大のトピックは、ポーランドの得点でも、川島永嗣の好セーブでもなく、試合終盤の出来事にあった。

 日本は0−1で負けていたが、西野朗監督は試合を終わらせることを決断し、後方でリスクのないボール回しを指示した。他会場ではコロンビアがセネガルを1−0でリードしていた。このまま終われば、フェアプレーポイントにより突破するのは日本になるー。

 時間つぶしのボール回しはスタジアムの激しいブーイングを呼んだ。後方で時間を使う日本と、引いた相手を追わなかったポーランド。ある意味で試合を放棄した両チームに罵声が飛ぶ。現場で大会を見ていても、これほどのブーイングを耳にしたことはなかった。

 この事象に関してはすでに世界各国で議論が起こっている。批判的なものもあれば、結果を優先した判断と理解を示す見方もある。

 日本代表監督として前大会を指揮したアルベルト・ザッケローニは、この特殊な試合をどう見たのかー。

複雑な状況が影響した試合内容。川島への思い

 試合直後に話を聞くと、セネガル戦後の歓喜の声とは違う、やや複雑そうな、低いトーンが聞こえてきた。

「何よりも、日本がグループリーグを突破したことが嬉しい。世界のベスト16の中に入るというのは素晴らしいこと。あの終盤については、いろんな考え方があるだろう。が、私は何よりもこの結果を素直に喜びたい」

 ザッケローニは、この試合は通常の1試合として評価するのは難しいと付け加えた。

「今日の試合、ピッチの上の選手たちはプレーしにくかったはずだ。彼らの頭の中には様々なことがあったからだ。時間、得失点差、警告、他会場の動向。内容的にはもちろんセネガル戦の方が良かったが、この2試合を単純に比較することはできない。先発メンバーを半分入れ替えたことは連係面で影響したかもしれないが、何よりも今日は精神的な部分の負担が大きかった。あの試合終盤だけじゃない。選手と監督の頭には、”勝つのは理想だがそれよりも負けたくない”という思いもあり、最後はそれが”1点差の負けならよし”と変化していった。そんな中でプレーするのは非常に困難だ。それはプレーにも表れていた。難しい状況下で、最終的にこれ以上ない結果を手にしたのは本当に素晴らしいことだと思う」

 個人として真っ先に名前を挙げたのは、ゴールマウスで輝きを見せた川島永嗣だった。

「エイジには拍手を送りたい。今日のプレーは素晴らしかった。あのセーブがなければ、失点を重ねていたかもしれない。彼にとっては難しい試合だった。第二戦のセネガル戦ではパンチングのミスをしていたからね。批判も浴びたことだろう。しかし自信を失ってパフォーマンスを落とすこともなく、数日後にチームを救う活躍を見せてくれた。川島のことは評価すべき。個人的にも彼の好セーブは嬉しかった」

「あれは大きな賭けだった」

 終盤の出来事について、ストレートに聞いてみた。

 あなたが監督であれば同じことをしましたか?

 ザッケローニははっきりと言った。

「もう私は日本代表の監督ではないし、あの状況に立たないと分からない部分だってある。西野監督はあの時点での0−1を受け入れ、時間を進めることを選択した。それが最終的には成功した。それまでだ。どんな形であったとしても、私はベスト16進出を決めたことが嬉しいし、それを評価したい。当然、あの決断にはリスクもあった。終盤、セネガルが何かの拍子に1点を取っていればどうなったか。日本はもう追いつくための時間も残されていないわけだ。さらに日本がもし警告を受けていたら・・・。接触を避けようと思っても、計算できない警告を受ける時もある。大きな賭けだったのは間違いない」

 試合中はテレビの前で汗をかいたという。コロンビア戦の結果を気にしながら、画面で進められる、少し奇妙な試合を追い続けた。

「これで日本代表が勢いをつけて、決勝トーナメントで素晴らしい試合を見せてくれることを願っている」

 日本の試合はザッケローニにとって今ワールドカップで一番の楽しみだという。

 4年前に自らは立つことのなかったベスト16の舞台。

 

 まだしばらく続くことになった日本のロシアでの戦いを、ザッケローニはイタリアからしっかりと見つめている。

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ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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