Yahoo!ニュース

井手口陽介が振り返るスペインデビュー戦。「自分がチームを引っ張るくらいの意志でやっていければ」

豊福晋ライター
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 試合後、オサスナのスタジアムの通路に姿を現した井手口陽介は開口一番にいった。

 「日本にない雰囲気で、負けはしましたけど楽しい時間でした」

 チームは敗れ、順位も下げた。井手口に与えられた時間もロスタイム含め12分間と短かった。

 しかしその時間の中でポジティブな感触もつかんだ。スペインに到着してから10日で公式戦のピッチに立てたことはプラスだ。観客が盛り上がるポイントや応援のスタイルも、日本とはまるで違う。それらを肌で感じられた意味は大きい。

 見せ場もあった。

 ファーストプレーでは右サイドのスペースへ走り抜ける味方に綺麗なロングボールを通した。こぼれ球を遠い位置から思い切りよく狙い、シュートも一本記録している。

 「対人では絶対負けない」と語っていたように、人への激しさも目立った。

 中盤でのハイボールの争いでは、相手選手の体に飛び乗り、そのまま押し倒す勢いで競った。自陣深くに戻った際にはクロスを止めようと伸ばした足が当たり、相手選手がピッチに倒れた。その場面では警告も受けている。

 ピッチを馳け回る、いきのいい金髪の若者の登場に、スタンドは「誰だあれは?」とざわついた。

 得点につながったわけではない。しかし井手口陽介の存在を示した12分間だった。

「自分のプレースタイルをみんなに知ってもらう」

 ルベン監督に求められたのは守備だったという。

「前半、チームは4−3−3だったんですけど、後半途中からは5−2−3のような形になった。言葉もまだあまり分からないので、システムが変わると大変な部分はあります。監督にはまずは守備の方を求められているので、そこを表現しながら、攻撃はできるだけバランスを見ながらいける時にいけたらいいと思います」

 現チームの核であるMFジェライの隣で2ボランチの一角に入った。バランスを見ながら低い位置取りをキープする。まずは失点を減らしたいチームにおいて、しばらくはそんなバランサーとしての役割が求められるだろう。

 しかし彼の持ち味は引いてバランスを見ることというよりも、その先にある。

 ボール奪取後に前へ行く能力が高いことはルベン監督も把握している。今後チーム内で連携が構築されるにつれ、守備だけでなく攻撃時の貢献も期待されるようになるはずだ。

 チームを引っ張るくらいの意志を持つー。井手口はそれが今後の鍵だと考えている。

「もっとコミュニケーションをとって、守備も攻撃もできればさらにやりやすくなると思う。自分のプレースタイルをみんなに知ってもらって、いかし合うような関係を作ることができれば。いち早くチームに溶け込んで、もっと上の順位に行かせるために頑張って、自分がチームを引っ張るくらいの意志でやっていければいいと思います」

次節で目指す先発出場

 当然ながらまだスペイン語は話せないが、チームメイトとの関係は良好だ。

 「練習からすごく楽しい」と笑顔で語るように、言葉の壁があると知りながらチームメイトは次々と彼の元へやってくる。スペイン語で何かを教えたり、ジェスチャーで伝えたり。「みんな井手口と絡もうとする。好かれているんだ」とルベン監督は明かす。

 監督の細かい指示の理解など課題もあるが、スタートは順調だ。

 次節はホームでのセビージャ・アトレティコ戦(1月28日)が待っている。次に目指すのは先発でピッチに立つこと。そうなればこの試合以上に井手口らしさを見せることができるだろう。

 「ああいう雰囲気の中で、自分も90分間早くやりたいという気持ちが強い。今週しっかりコンディションを上げて、先発で使ってもらえれば」

 12分間の”楽しい時間”は先発出場への意欲をさらにかき立てた。現在、クルトゥラル・レオネサは降格圏のひとつ上の19位。低迷するチームを引き上げる起爆剤として、井手口への期待は高まっている。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

豊福晋の最近の記事