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リーガデビューを果たした柴崎。ピッチでの20分間を監督はどう見たか。

豊福晋ライター
デビューまでひと月半、柴崎はピッチの外から眺め続けた。(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

ベンチ前にいたテネリフェのマルティ監督が、アップを続けていた柴崎を呼んだのは後半26分のことだった。

スコアは0−1。テネリフェと同様、1部昇格のプレーオフ圏内入りを狙うレウス相手に、ホームでは負けられない試合だ。

コーナーフラッグからゆっくりと走ってくる柴崎に、スタンドから歓声がかけられる。マルティ監督は柴崎の肩を叩き、励ますように何かを語りかけた。

加入からひと月半が過ぎていた。マルティ監督は焦らずに、柴崎に適応のための時間を与えた。加入直後、いつ頃デビューさせるつもりかと訊いた時には「彼はヨーロッパに来たばかり。しっかりと準備ができた段階でデビューさせたい。すぐにプレーすることはないだろう」と話していた。

3月も下旬に差しかかり、監督としても、ようやくその時が来たと感じたのだろう。

レウス戦でピッチに立った20分間、柴崎は常に冷静だった。的確に、淡々と、前後左右にパスを散らしていく。ポジションは4−4−2の左ボランチ。短い時間だったが、最終ラインからボールを引き出し、前の選手に縦パスを当て、サイドに展開するプレーを繰り返した。

マルティ監督が柴崎に求めるのは、まさにこれらのプレーだ。指揮官は「柴崎は今のテネリフェにはいないタイプの選手」と話しているように、現チームには、視野の広いオーガナイザー的な選手はいない。2トップの個人能力を最大限に活かすチームのスタイルの中で、柴崎はやや毛色の違う選手でもある。1点を追いかける展開で、監督は柴崎の展開力、崩しの一歩目のパスを期待していたわけだ。

試合終盤にかけてテネリフェは攻め続けたものの、1点が取れず、結果的に試合は0−1で敗れている。

しかし柴崎個人にとっては、ポジティブなデビュー戦だった。冷静さは相変わらず。常に首を振り、周囲を確認しながら、パスをつないでリズムを作る。ボールを展開する方向をチームメイトにジェスチャーで指示するなど、すっかり溶け込んでいる印象だ。少なくとも、チームにやってきた新人、とは思えなかった。彼がボールタッチするとスタンドが沸くなど、ホームのサポーターも好印象を持っている。

当初は過度に心配された適応に関しては問題ない。今後は、どれだけ前線で決定的なプレーができるかだ。

試合後、マルティ監督は柴崎についてこう語っている。

「もう少し前のエリアでプレーしてもらいたかった。ボールに触ろうと、やや引きすぎていたかもしれない。柴崎には相手エリア付近でラストパスを出したり、ゴールチャンスを作ったり、相手守備陣を揺さぶる仕事を求めている。チームメイトとの関係も深まっているし、ヨーロッパのサッカーに適応しているところだ」

2ボランチの一角ということもあり、バランスを取る場面もあったが、監督としては1点を追う中で、持ち味の攻撃面をより出してほしかったのだろう。

ちなみに過去にマルティはこうも話している。「ボランチもいいが、柴崎が最も適しているのはトップ下だ」

現行の4−4−2を変え、例えば柴崎をトップ下に置く4−2−3−1なども、今後はオプションとして見られるかもしれない。

20分間でチームに結果をもたらすことはできなかった。

しかし柴崎にとってこのデビュー戦がポジティブな第一歩になったのは間違いない。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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