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国交省公表の事故前交信に欠けた「C5出発要求と承認」

タワーマン元航空管制官
(写真:アフロ)

羽田空港事故から1ヶ月。事故調査、関係者への聞き取り、事故対策の検討が少しずつ進み始めているが全容が明らかになるのは数ヶ月後あるいは1年以上かかるとも言われている。ナンバーワンやハリーアップが原因ではないか、という単純で分かりやすい部分にばかり焦点が当てられないよう、メディアが指摘していない事実を解説しておきたい。それは、インターセクションディパーチャーの要求と承認についてのルールについて。

航空機は基本的に滑走路の全長を使用して離陸を行う。それは航空管制の大原則が先着順であるから。離陸の順番で言えば、滑走路の末端に接続された誘導路に先に到着する機が優先されるし、到着の順番であれば、最終到着で使用される経路の開始点に最も近い機が優先される。しかし、ある特例においては、この先着順の原則に従わないことがある。その一例が、今回のようなインターセクションディパーチャーを適用するケースに当たる。

航空管制は公平性、中立性が重んじられる。一部のVIP機や緊急機を除いて優先的に取扱うことは起こり得ない。ただし、離陸順番を変えても他機の運航にさほど影響がない場合や、むしろ順番を入れ替えることで全体効率が上がる場合には「安全かつ円滑な航空交通の確保」を行うと定められた航空法96条の条文にも合致するため、管制官は原則と異なる指示を与えられる裁量を持つと考えられる。

通常、インターセクションディパーチャーでC5という誘導路から滑走路に入る指示を出すに当たっては発生するやり取りがある。それは、パイロットからの誘導路C5の指定を含む具体的なインターセクションディパーチャーの要求と、それを管制官が承認する交信である。例文としては、以下のようなものになる。

C5誘導路に近づく前

パイロット:

(if possible/if no delay) Request intersection departure at(from) C5.

管制官:

① (判断に時間かかるとき) Roger, standby.

② (即判断できるとき) C5 intersection approved. (※誤認防止のためここではintersectionの後ろにdepartureは付けない)

パイロット:

C5 intersection approved.

インターセクションディパーチャーの承認後

管制官:

Taxi to holding point C5.

パイロット:

Taxi to holding point C5.

C5誘導路に近づく頃

管制官:

風向風速、Runway 〇〇 at C5 cleared for take off.

パイロット:

Runway 〇〇 at C5 cleared for take off.

国交省が公表した交信には「C5誘導路に近づく前」に行われるやり取りが欠けている。管制官は航空機の離陸重量やローテーション速度(浮き上がるために必要な離陸滑走速度)を知る由もないため、パイロットが要求してこない限りどこのインターセクションから離陸できるかは認知できない。交通状況を見て管制官側からお伺いを立てて確認することは可能であるが、それは遅延なく離陸させられる確信があるときにしか提案しにくい。

現在公表されているのはあくまで事故直前の滑走路担当の管制官の交信のみである。憶測を公言することは控えるため、本来行われる上記のやり取りがどのタイミングで行わたのかについては言及しないが、私は公表された交信ばかりに着目してはならないと思っている。仮に聞き取りで、海上保安庁の機長がナンバーワンを取り違えたと発言していたとしても、もっと前のそれこそコックピットに乗り込んだ出発準備段階までは最低でも遡って、運航全体の環境を事細かく調査しなければ真に有効な対策は打てないと考える。管制官側についても同様である。

私は現役の管制官だった頃に自分が不具合事象に関わった経験を持つ。その時の経験と今回の件を同列比較はできないが、そういった事象の本人ですら、なぜそうなったのか確信を得られないのがヒューマンエラーであり、それもまた人間が持つ性質であると思う。

元航空管制官

元航空管制官で退職後は航空系ブロガー兼ゲーム実況YouTuberとなる。飛行機の知識ゼロから管制塔で奮闘して得た経験を基に、空の世界をわかりやすく発信し続ける。

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