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有吉弘行氏が「ロース」「ヒレカツ」の品切れでとんかつ店に激怒! その怒りは本当に正しいか?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

有吉弘行氏がとんかつ店へ訪問

今年も残すところ、40日を切りました。寒さも深まってきたところで、油や脂などを含んだ、こってりしたものが食べたくなるというもの。日本にはおいしいものがたくさんありますが、寒い時に食べたくなるのが、サクサクとした衣とジューシーな豚肉の佳味を堪能できる、とんかつ。

タレントの有吉弘行氏が、あるとんかつ店へ訪れたところ、理不尽に感じることがあったといいます。

有吉弘行 とんかつ屋の〝無礼〟に激怒「知らねえよ! アホッ!!」「めちゃめちゃ腹立った」/東スポWEB

その時のことをJFN系ラジオ「SUNDAY NIGHT DREAMER」で話し、反響がありました。

ドリンクオーダーと品切れに対して不満

東スポWEBによると、有吉氏はとんかつが好物で、11時30分開店のとんかつ店に11時20分から並んだといいます。入店すると、ドリンクを注文するように促されたのでウーロン茶を注文。

メニューには「特別リブロース」「特別ヒレカツ」「特別ロース」「ロース」「ヒレカツ」がありました。「ロース」や「ヒレカツ」をオーダーしようとしましたが、残念ながら品切れ。高価な2,500円の「特別リブロース」しか用意できないといわれたので諦め、ウーロン茶が運ばれる前に退店しました。

有吉氏は、とんかつ店にもかかわらず昼の開店時から「ロース」「ヒレカツ」がないこと、先にドリンクをオーダーさせたことに対して、腹が立ったといいます。

この事案について考察していきましょう。

ドリンクの注文

有吉氏は料理よりも先にドリンクをオーダーすることに対して不満を述べていました。

客が飲食店で注文することは、法的にいえば、あるメニューをある金額で提供してもらう契約を締結することです。

通常の飲食店では、料理は決めたりつくったりするのに時間がかかるので、最初にドリンクをオーダーしてもらってすぐに用意し、その間にメニューを見てもらって考えてもらいます。したがって、最初にドリンクを尋ねることは、おかしいことではありません。

分水嶺となるのは、1ドリンク制であるかどうか。カフェなどドリンクが主体の業態、居酒屋やバーであれば、ドリンクが必須となります。ほとんどのファインダイニングでは、ドリンクをオーダーしなくても、最低でも水=ミネラルウォーターは注文することになるでしょう。

とんかつ店のような専門店におけるランチであることを考慮すれば、1ドリンクのオーダーが必須となることは、ほとんどありません。したがって、件の事案ではスタッフの訊き方が悪かったのか、恣意的であったのかはわかりませんが、有吉氏がドリンクのオーダーを断っても問題なかったように思います。

オーダーの流れ

飲食店におけるオーダーの流れはどうなっているのでしょうか。

席だけではなく、料理まで予約していれば、予約時に指定した内容について確認され、指定していないことについて尋ねられます。たとえば、予約時にコースだけ指定していれば、コースについて確認があり、ドリンクはどうするか尋ねられるという具合です。

席だけの予約、もしくは、予約していないウォークイン客であれば、テーブルに着いた時に料理とドリンクについて訊かれます。

ファインダイニングであれば、メニューがなく、口頭で尋ねられ、値段もはっきりとわからないまま、選択を迫られることもあるでしょう。メニューがあったとしても詳細が不明な場合も少なくありません。おまかせコースしか提供されていなければ、選択の余地はないので、アレルギーや苦手のある食材、および、アルコールをどうするか尋ねられるだけです。

カジュアルダイニングはファインダイニングと異なり、ウォークインの客が多く、行列ができることもあります。その場合には、オペレーションを最適かつ円滑にするためにも、並んでいる客に対して、入店前に人数や注文を尋ねておくものです。そうすることによって、キッチンスタッフが事前に業務を進められて効率的だからです。スタッフが並んでいる客に応対する際には、どのメニューがどれくらい残っているかを把握しておき、注文可能かどうかも伝えます。

迅速な周知の必要性

有吉氏が並んでいる際に、オーダーしたいものが品切れであることが判明すれば、入店しない選択肢もあったでしょう。飲食店と客のミスマッチは、互いに時間と手間の無駄であり、場合によっては金額的な損害も生じます。

こういったミスマッチを避けるためにも、飲食店は情報をできるだけ早く開示し、客に確認するべきです。特にシグネチャーディッシュがなかったり、シェフが休みであったりする場合には、迅速に周知するべきだと思います。

なぜならば、多くの客は、名物料理を食べたかったり、シェフに腕をふるってもらいたかったりするからです。前者であれば足を運ぶ手間が無駄となり、後者であれば値段が同じであるにもかかわらずつくり手が異なるからです。

品切れの背景

どうして品切れが起きるのでしょうか。

営業時間中であれば、たまたま注文がそのメニューに集中し、数が不足したので提供できないということがあります。しかし、この事案のように、オープン時から品切れしているのは、客にとっては理解しがたい事象です。

品切れの理由として、まず考えられるのが、期待する食材を仕入れられなかったから。

昨今のコロナ状況や、世界的な食材の仕入れ競争などによって、以前よりも仕入れが難しくなっていることは確かです。ただ、思い描く完璧なメニューとは違うものの、広範囲で探したり、レシピを見直したりすれば、産地や部位が異なっていても、代替品によって補うことも可能。そういった妥協を一切したくなければ、提供を中止することもあります。食材を仕入れることができたとしても、求めるクオリティに達していなければ、同様の決断をすることもあるでしょう。

次に考えられるのが、仕込みのミス。仕込みを経てから調理される食材では、仕込みの時点で何かしらの失敗があった場合に、調理段階へと進むことができません。レシピと違っており、目指す品質に達していなければ、提供することを諦めるでしょう。

スタッフが起因することもあります。スタッフに何かしらの問題が起きれば、通常の仕込みおよび調理ができないので、特定のメニューが提供できません。

アクシデント以外に考えられるのが、繁忙期のアップセル。多くの客が訪れる賑やかな時期に、飲食店はメニューのグレードを上げることがあります。つまり、内容と値段を上げるということです。安いメニューは提供されず、高いメニューしか提供されないので、品切れとなることがあります。

有吉氏がオーダーできなかった理由

これまでのことを踏まえた上で、有吉氏の事案について考察してみましょう。

件のとんかつ店では「特別リブロース」「特別ヒレカツ」「特別ロース」「ロース」「ヒレカツ」が提供されていました。下味や衣の付け方、揚げる温度や時間が異なることもあります。ただ、ある料理人だけしか、あるメニューをつくれないというほど、属人的な要素があるようには感じられません。しかも、「ロース」や「ヒレカツ」は揚げられないのに、高級部位の「特別リブロース」だけ揚げられるのは想定しづらいです。

したがって、オープン時に「特別リブロース」しか用意できないのは、仕込みのミスやスタッフの不足ではなく、仕入れに問題があったと考えられます。

仕入れに関していえば、魚介類は当日の朝になって入荷しないことがわかるのは仕方ありません。しかし、肉類が当日の朝になって、入荷も在庫も全くないとわかるのは、疑問が付されるところ。前日までに提供できないと判明していたのであれば、公式サイトやグルメサイト、SNSや店頭で告知するべきだったでしょう。最低でも、入店前に伝えておくべき重要事項であると思います。

食体験のマッチング

人気店からすれば、客はいくらでも訪れてくれ、どの客も同じように感じられることがあります。ただ、それぞれの客にとっては、人生において有限となる食事の中で、何をどこで食べようかと考え、飲食店に訪れているのです。

飲食店、それも人気の飲食店であればあるほど、利用する客としっかりコミュニケーションをとり、素晴らしい食体験が提供できるように確認をとっていただけたら嬉しく思います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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