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JAL便、福岡空港門限後の22時以降に同じ羽田発で着陸できた便と引き返した便があった。その違いは何?

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
2月19日は羽田空港強風の影響で多くの便が遅延していた(2月19日、筆者撮影)

 2月19日(日)、羽田空港発福岡空港行きのJAL(日本航空)331便(エアバスA350型機)が福岡空港の門限である22時に間に合わなかったことで福岡空港に着陸できずに引き返した。しかしながら、ネット上では前後に羽田空港を出発したJAL便が22時過ぎに福岡空港に着陸しており、疑問の声が上がっていた。なぜ、JAL331便だけが福岡空港に着陸できなかったのかについて考える。

当初は18時30分に出発する予定の便が約1時間半遅れ、福岡空港に着陸できずに羽田に深夜2時50分に戻る

 JAL331便は、当初羽田空港を18時30分に出発し、福岡空港に20時30分に到着する予定だった。しかし、この日は日中に羽田空港周辺が強風に見舞われていたことから、多くの便で30分~1時間、便によっては2時間近い遅れも出ていた。定刻に出発する便がほとんどない状況だった。最終的にJAL331便は羽田空港を20時01分に出発し、20時18分に離陸をして福岡空港へ向かったが22時の門限に間に合わず、羽田空港へ引き返すことになった。羽田へ戻る燃料が足りなかったことから一旦関西空港に向かい(22時59分到着)、その後、給油と機体整備を済ませ深夜1時44分に再出発。羽田空港に深夜2時50分に到着した。

筆者はこの日、三沢から羽田へのJAL便を利用していたが、羽田からの便が強風の影響で遅れたことで、1時間弱の遅延で到着した(2月19日、羽田空港にて筆者撮影)
筆者はこの日、三沢から羽田へのJAL便を利用していたが、羽田からの便が強風の影響で遅れたことで、1時間弱の遅延で到着した(2月19日、羽田空港にて筆者撮影)

同じく2月19日22時頃の羽田空港第1ターミナルの到着案内版。ほとんどの便が1時間前後の遅れになっていた(筆者撮影)
同じく2月19日22時頃の羽田空港第1ターミナルの到着案内版。ほとんどの便が1時間前後の遅れになっていた(筆者撮影)

住宅地の中にある空港には騒音対策を目的に門限がある。福岡空港の門限は22時

 今回、福岡空港の門限が話題となった。羽田空港や関西空港、中部空港(セントレア)など24時間運用可能な空港もあるが、住宅地が近い空港においては運用時間が設定されており、成田空港では6時~24時、伊丹空港では7時~21時、そして今回のJAL便が降りる予定だった福岡空港では7時~22時が運用時間になっている。原則としては、門限を1分でも過ぎると着陸は認められず、出発地に引き返すか着陸可能な空港に目的地変更(ダイバート)をすることになる。福岡空港では22時が門限となる。

 時々起こるケースとしては、羽田空港発伊丹空港行きにおいて、最終便の出発が遅れると伊丹空港の門限となる21時ギリギリの着陸となる。間に合えばそのまま伊丹空港に着陸し、間に合わない場合には関西空港に目的地変更することが時々発生している。

天候不良や天災などが理由の場合は空港の許可があれば門限後も着陸可能

 門限を1分でも遅れると着陸が許可されないのだが、これは航空会社が原因で遅れた場合である。例えば出発準備(飛行機への搭乗、荷物の搭載)が遅れた場合や出発前に機体故障が発生した場合などは、門限を過ぎての着陸は原則認められない。しかし、天候(台風や降雪)や天災、飛行中の病人発生や機体トラブルなどの緊急時においては、着陸する空港の許可を得ることで門限を過ぎても離着陸を認めるのが一般的だ。

 門限を設定している理由は、空港周辺に住んでいる人の睡眠を邪魔しない為の騒音対策であり、門限を設定している日本国内の空港では、不可抗力のケース以外は厳密な運用をしている。

 その中でネット上で話題となっているのが、前後に出発した同じJAL便が22時を過ぎて福岡空港に着陸しているという点である。JAL羽田→福岡のラスト3便の2月19日の運航状況は以下の通りである。

■2月19日(日)、羽田発福岡行きのラスト3便の発着状況

JAL331便(羽田出発時91分遅れ) 

(定刻)羽田空港18時30分発 福岡空港20時30分着

(実際)羽田空港20時01分出発・20時18分離陸 福岡空港 着陸できず

※関西空港へ一旦向かい(22時59分到着)、給油や整備を行った後、関西空港を深夜1時44分に羽田空港へ向けて出発し、羽田空港深夜2時50分着

JAL333便(羽田出発時35分遅れ) 

(定刻)羽田空港19時15分発 福岡空港21時25分着

(実際)羽田空港19時50分出発・20時11分離陸 福岡空港22時13分着陸・22時17分到着

JAL335便(羽田出発時36分遅れ)

(定刻)羽田空港19時30分発 福岡空港21時40分着

(実際)羽田空港20時06分出発・20時27分離陸 福岡空港22時16分着陸・22時21分到着

今回のJAL331便はエアバスA350型機で運航していた(イメージ写真、筆者撮影)
今回のJAL331便はエアバスA350型機で運航していた(イメージ写真、筆者撮影)

後続のJAL333便と335便は天候理由による遅延が認められ、門限から15分前後遅れで着陸

 これを見ると、今回羽田空港に引き返したJAL331便よりも後に出発する予定だった2便は福岡空港に到着しており、着陸はJAL333便で22時13分、JAL335便は22時16分となっている。門限を15分前後過ぎているが、福岡空港を運営する福岡国際空港株式会社によると、JAL333便・335便については羽田空港強風の影響による遅延という天候が理由ということで、出発前に運用時間を過ぎて着陸することを申請して受理されたことで22時過ぎの着陸が認められた。

 JAL便だけでなく、ANAやスターフライヤーの便でも22時以降に着陸した便もあった。これらの便も同様に天候理由の遅延で着陸が認められたようだ。

JAL331便は、強風による影響があっても門限に間に合うと判断した模様

 それに対して、JAL331便は定刻が18時30分であったが、強風による影響でこの便で使用する機体の到着が遅れることから当初は19時10分に出発時間を変更するという発表が乗客に対してあった。19時10分に出発できれば、余裕を持って福岡空港に22時前に到着できるはずだったが、だが実際には出発準備に時間を要したことで更に51分遅れ、20時01分の出発となった。そして20時18分に羽田空港を離陸した。

夜の時間帯の羽田→福岡の平均的な飛行時間は1時間30分~40分

 夜の時間帯の羽田発福岡行きの直近1週間の飛行時間を見ると、羽田空港の滑走路を離陸してから福岡空港の滑走路に着陸するまで1時間30分~40分で飛行している便が多く、20時18分に離陸すれば、通常であれば門限ギリギリにはなるが22時に間に合う可能性が高かった。筆者の推測にはなるが、22時に間に合うことを前提に離陸を強行した可能性が高いだろう。

JAL331便が着陸できなかったのは、福岡空港側から天候理由でないと判断

 しかしながら、航路途中の向かい風が強かったことや各便が遅延していたことで福岡空港周辺も含めて沢山の飛行機が飛んでいたこともあり、福岡空港の手前で22時を過ぎてしまった。福岡国際空港株式会社に筆者が取材したところ、JAL側から運用時間外の着陸申請があったが、天候理由ではないことから着陸を認めなかったとのことだ。

 推測にはなるが、定刻の18時30分出発から強風理由による遅延で19時10分に出発を変更し、その後出発準備に時間を要して20時01分の出発となったが、最初の40分は天候理由、19時10分以降の51分の遅延は出発準備による遅延(いわゆるJALの責任)という判断をした可能性が高い。

 このような理由から、定刻の出発時間ベースで後続となる2便は福岡空港に着陸でき、それよりも早いJAL331便が着陸できなかったということになる。羽田空港を離陸した順番は、JAL333便、331便、335便であるが、真ん中で飛行していた331便だけが着陸を認められなかった。

福岡空港の到着ロビー(2022年5月、筆者撮影)
福岡空港の到着ロビー(2022年5月、筆者撮影)

一番の被害者は335人の乗客。週末を東京で遊んだ旅行者、単身赴任者などで混雑

 福岡空港側の対応としては、ルール通りの運用をしただけであるので責められない。しかしながら国内線の多くの便が大幅遅延になっている状況で、羽田空港の地上のオペレーションもイレギュラー運用になっていた可能性が高く、天候理由での遅延という扱いをしてもいいのではないかという声が他の航空会社関係者からも聞かれた。JAL側も離陸後に門限に間に合わないことを認識した可能性もあることから、JALにも責任はある可能性が高いが、今回の一番の被害者はJAL331便の利用者である。

 日曜日の夜ということで、羽田から福岡へ向かう便は週末を東京などで遊んだ旅行者の帰りや福岡に単身赴任をしている人の戻りなどで混雑しており、335人が搭乗していた。当初の予定よりも1時間半近く遅延し、福岡空港上空まで飛行して着陸できず、更に関西空港に一旦着陸して給油後に羽田へ戻り、羽田到着が深夜2時50分になってしまった。

 これまでも到着地の天候不良で着陸をトライしたが着陸できずに出発地に引き返すという物理的に着陸できないことでの引き返しはあるが、運用時間を過ぎての特別対応で着陸できる便とできなかった便が混在したケースは筆者が知る限り聞いたことはない。

環境的にもコスト的にも大きな無駄

 航空業界は、CO2削減に取り組むなど環境問題に力を入れており、JALでもSAF燃料などを使って環境に配慮したフライト(サステナブルフライト)を実施するなど、地球環境を守るための取り組みを積極的に行っているが、今回のように滑走路は利用できるが、運用時間を過ぎてしまったことで着陸できずに出発地に引き返したことは、まさに環境問題を無視した行為でもある。ジェット燃料を無駄に消費したことになる。

 今回、同便に搭乗していた乗客の複数のSNSでは、現金2万円と羽田空港近くのホテルが用意されたとのことだが、仮にホテル代を1万円とすると、乗客一人あたり3万円で335人が乗っていたので単純計算で1000万円となり、更に燃料や人件費、着陸料などのコストを考えると、着陸できなかったことでの金銭的損出も大きい。これも着陸できていれば必要なかった経費である。

もう少し柔軟な対応をしてもいいのではないかという声

 イレギュラーな状況でない場合(通常時)は、空港周辺の地域住民を最優先に当然着陸を認める必要はなく、24時間運用可能な空港への目的地変更や欠航にすべきであるが、日本の空全体が乱れている時はもう少し柔軟な対応をしても良いのではないかという声が関係者からは聞こえる。例えば平均飛行時間を算出した上で、離陸の時点で平均飛行時間内で目的地の空港に到着できるのであれば、門限を過ぎても着陸できるという方法もある。1分でも遅れたら着陸できないという現行ルールは、パイロットにとってもプレッシャーとなる。

 今回のトラブルは、運用時間のイレギュラー時におけるルールを改めて考えるきっかけになりそうだ。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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