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バニラエア運航終了まであと4日。社員一体のラストイベントが進行中。こんなに明るいラストは見たことない

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
10月5日に成田空港で開催された「ララララストフライト」プロジェクト(筆者撮影)

 ANAホールディングスが100%出資するLCC(格安航空会社)として設立されたバニラエアが約6年弱で幕を閉じることになった。同じくANAホールディングスが出資しているピーチと経営統合することになり、今後はピーチのブランドで運航される。機体も既にバニラエアからピーチへの塗り替えや機内仕様に変更され、バニラエアの多くの社員がピーチに転籍する。

2013年から約6年間運航したリゾートLCC

 今年6月より、バニラエア便からピーチ便への移管作業が続いていたが、10月26日(土)に最後のバニラエア路線として運航している成田~台北、福岡~台北の2路線が運航終了となることで、バニラエアのフライトは幕を閉じる。2013年12月20日に就航以来、成田を拠点に国内は新千歳、函館、関西、奄美大島、那覇、石垣島に就航、海外は台北、高雄、香港、ホーチミン、セブ島に就航した。成田発着路線以外では、関西から奄美大島と台北、那覇から石垣島と台北、福岡から台北への便を運航した。

 今回運航終了するバニラエアは、元々はANAとエアアジアが出資して設立されたエアアジア・ジャパン(現在のエアアジア・ジャパンとは異なる)が2012年夏から運航を開始したが、両社の経営方針の違いから運航開始から約1年後に合弁を解消し、ANAホールディングス100%出資として再出発したのがバニラエアのスタートだった。同じく成田空港を拠点とするジェットスター・ジャパンと共に成田空港でのLCC路線全体を成長させた航空会社である。

就航前の2013年10月1日に開催されたバニラエアの商品発表会。この日に色鮮やかな制服もお披露目された(筆者撮影)
就航前の2013年10月1日に開催されたバニラエアの商品発表会。この日に色鮮やかな制服もお披露目された(筆者撮影)

 バニラエアの初代社長だった石井知祥氏は当時について「バニラエアはANAホールディングスの100%子会社として再スタートしたのですが、それまでのジョイントベンチャーが上手くいかなかったことも踏まえ、社員の不安を取り除き、自信と希望を持たせることを心掛けました。ANAグループとしてのバックグラウンドを持ちつつも、LCCとして異端児でいること、そして社員一人一人がそれぞれの専門職においてプロフェショナルになるだけでなく、PRや営業、そして企画の担当者としての気持ちを持って活躍してもらい、皆さんの成長なくして会社の成長は無いと色々な機会に話していきました。役員の1人はみんなでハワイに飛ばすぞ!と口癖のように言ってましたが、これも一つのインセンティブづけだったでしょうね」と振り返った。

 「リゾートLCC」を掲げて立ち上がったバニラエアは、将来的には中型機でハワイへ飛ばす構想があったのだ。

2013年12月20日に成田~那覇線で運航したバニラエア。初便のゲート前でお客様へ向けて挨拶する当時の石井知祥社長(筆者撮影)
2013年12月20日に成田~那覇線で運航したバニラエア。初便のゲート前でお客様へ向けて挨拶する当時の石井知祥社長(筆者撮影)

ピーチと統合し、アジアのリーディングLCCを目指す

 ピーチは、2012年3月に関西空港を拠点に設立されたLCCで、就航当初はANAホールディングスの出資比率が低かったことから連結対象となっていなかったが、2017年に38.7%から67%に引き上げられたことでグループ会社となり、ANAホールディングスは2社のLCCを持っていたが、「アジアのリーディングLCC」を目指すべく、関西を拠点とするピーチと成田を拠点とするバニラエアが統合する。

 統合により、ピーチのブランドでライバルであるジェットスター・ジャパンの路線数・旅客数を上回り、まずは国内NO1のLCCとしての地位を固め、新生ピーチはアジアのリーディングLCCを目指すことになる。

ピーチ機。バニラエアの機体も順次、ピーチの機体に塗り替えている(筆者撮影)
ピーチ機。バニラエアの機体も順次、ピーチの機体に塗り替えている(筆者撮影)

GWから社員企画のラストイベント。WEBでも楽しめる

 本来であれば、静かにバニラエアの6年の歴史に幕を閉じるのかと思いきや、社員が企画したラストへ向けたイベントが盛り上がっている。まずは、今年のゴールデンウィーク前からスタートした最初のキャンペーン「最後まで全力運航中!バニラエアForever!!」。特設ページも開設されているので、是非チェックして欲しいが、このページを読んでいるだけでも前向きな気持ちになることができるのだ。

特設サイト:https://www.vanilla-air.com/jp/campaign/vanillaair_forever/

「バニラエアForever!!」での注目点は以下の通りだ。(バニラエアのホームページより抜粋)

●今年10月で運航終了・・・だけど、笑顔で明るく元気なバニラエア社員の姿

●運航は終了しても、バニラエアでの経験や培ってきた技術はずっと生き続ける

●バニラエアで働くパイロット、フライトアテンダント、整備士、グランドスタッフが、 お客様へのメッセージを込めた動画撮影に初挑戦!

●社員 約300人の「キャッチコピー付きフォト」を撮影、特設ページで随時公開

●社員のフォトの中から40人分が「カードくじ」に。機内で引くと高確率で景品が当たる!

●キラカードが出たらスペシャルラッキー!「航空券1万円分クーポン」をプレゼント!

出典:バニラエアホームページより

今年4月に特設サイトが開設された(バニラエアのホームページより)
今年4月に特設サイトが開設された(バニラエアのホームページより)

 特設サイトにも書かれているキャッチコピーである「最後まで全力運航中!バニラエアForever!!」の言葉通り、全力でラストまで突き進んでいるバニラエア社員の明るい姿の動画が堪能できるほか、社員約300人のキャッチコピー付きフォトも面白い。筆者もバニラエアの会社設立から約7年間取材してきたが、アットホームな雰囲気の会社で社員同士の仲もよい会社だったと思う。社員のほとんどがバニラエアを愛していただろう。そんなバニラエアを愛するファンも多く、運航終了が決まった際には惜しむ声が多く寄せられたそうだ。

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社員約300人のキャッチコピー付きフォトも話題に(バニラエアのホームページより)
社員約300人のキャッチコピー付きフォトも話題に(バニラエアのホームページより)

 初代社長の石井氏は「特にシフト勤務で、毎回メンバーも入れ替わる運航乗務員や客室乗務員には出来るだけ一人一人に声がけをする様に心掛けていました。地上職も含めて彼ら彼女らから元気で明るい笑顔で挨拶を貰うことが私のエネルギーになっていました。今回、これまで支えて頂いたバニラエアファンのお客様の方々がとても惜しんでいただいていることに、改めて感謝を申し上げたいです」と話すなど、バニラエア社内の明るさ、社員の人の良さが多くの人を元気にしたのだろう。

アットホームなミュージックビデオが話題に

 ラストフライトまで2ヶ月を切った9月からは、みんなのメモリーがメロディーになる「ララララストフライト」プロジェクトが始動した。お客様と社員からメッセージを集めて歌詞を作詞し、プロのボーカリストが熱唱し、社員出演のミュージックビデオを制作し、10月5日に成田空港内の格納庫に集まったバニラエアの社員とその家族の前でお披露目された。筆者も現地で取材をしていたが、機体をバックにミュージックビデオが流された際には歓声に包まれ、涙している社員の姿も見られた。このミュージックビデオはバニラエアの社員のアットホームな部分が伝わる映像になっており、YouTubeでも配信されている。

特設サイト:https://www.vanilla-air.com/jp/campaign/lalala_lastflight/

「ララララストフライト」プロジェクト楽曲を社員と社員の家族の前でお披露目した(筆者撮影)
「ララララストフライト」プロジェクト楽曲を社員と社員の家族の前でお披露目した(筆者撮影)

 ピーチの機体に塗り替えられる前のバニラエアの機体をバックに記念撮影をする光景もあちこちで見られた。最後にはバニラエア就航時に行われたバニラアイスでの乾杯で締めくくった。

機体をバックに記念撮影するバニラエアのパイロット(筆者撮影)
機体をバックに記念撮影するバニラエアのパイロット(筆者撮影)
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就航初便の際にバニラアイスで乾杯したことから、この日もバニラアイスで乾杯した(筆者撮影)
就航初便の際にバニラアイスで乾杯したことから、この日もバニラアイスで乾杯した(筆者撮影)

 ピーチのCEOで昨年11月からバニラエアの社長を兼務している井上慎一社長は「昨年11月からご縁ができ、皆様(社員)の様子を拝見してきたが、いかにこれまで安全運航に関わり、新しいLCCにチャレンジしてきたことを感じた。皆様の頑張りは、半年に寄せられたお客様からのメッセージを見ると、明確に評価されていることがわかった。昨年3月にバニラエアがピーチと1つになるという発表された際には、不安に思われたことと思うが、世界で成功しているLCCは実は同じようなことをしている。我々も成功をするための1つのプロセスであり、サウスウエスト航空やライアンエアーなども同じような統合を繰り返して、そのエリアのNO1のLCCになっている。お互いの強みを活かし合う、バニラエアとピーチのお互いの強みを活かし、一緒になってアジアのNO1を目指していきたい」と話した。

ピーチのCEOでバニラエアの社長を兼務する井上慎一社長(筆者撮影)
ピーチのCEOでバニラエアの社長を兼務する井上慎一社長(筆者撮影)

バニラエアが開拓した奄美大島と台北

 バニラエアが開拓した象徴的な場所は奄美大島と台北だろう。元々はJALグループ便のみだったが、バニラエアが2014年7月に就航したことにより片道1万円以下で買えるようになった。夏の繁忙期は毎日満席状態で、約5年間運航された成田~奄美大島線の最終搭乗者数も約55万人を記録した。2017年から運航を開始した関西~奄美大島線も含めるとバニラエアだけで5年間で約75万人が利用した。数年前にバニラエアを取材した際にバニラエア就航における奄美大島全体の経済効果が年間42億円となり、「バニラエア効果」という言葉も生まれたほどだ。バニラエアを引き継ぐピーチは10月1日よりピーチ便として成田~奄美大島線の運航を開始し、関西~奄美大島線も12月に就航する。

バニラエアが開拓した奄美大島への路線はピーチに引き継がれる(2014年、筆者撮影)
バニラエアが開拓した奄美大島への路線はピーチに引き継がれる(2014年、筆者撮影)
奄美空港に駐機するバニラエア機。一部の機体は黄色ではなく白い機体もあった(2014年、筆者撮影)
奄美空港に駐機するバニラエア機。一部の機体は黄色ではなく白い機体もあった(2014年、筆者撮影)

 台北については成田からの最大便数を誇っていたこともあり、特にインバウンド(訪日外国人)の取り込みに成功した。筆者は10月20日に台北から成田まで利用したが、その際にも乗客の約8割が台湾人であり、リピーターも多く、既にマーケットを確立しており、運航終了翌日の10月27日からピーチ便として運航される。

台北・桃園空港のバニラエアチェックインカウンター。多くの台湾の方が大きな荷物と共にチェックインの列に並んでいた(10月20日、筆者撮影)
台北・桃園空港のバニラエアチェックインカウンター。多くの台湾の方が大きな荷物と共にチェックインの列に並んでいた(10月20日、筆者撮影)
台北・桃園空港のバニラエア便の搭乗ゲート(10月20日、筆者撮影)
台北・桃園空港のバニラエア便の搭乗ゲート(10月20日、筆者撮影)
台北→成田線の深夜便機内(10月20日、筆者撮影)
台北→成田線の深夜便機内(10月20日、筆者撮影)

いよいよあと4日で運航終了

 石井氏も「バニラエアのブランドは無くなりますが、私はあまり感傷的にはなっていません。というのもピーチとの発展的合併によるものであり、多くのバニラエアスピリッツを持った社員がこれからも活躍してくれるのですから、新生ピーチの発展を楽しみにしているところです」と話す。いよいよ10月26日にラストフライトを迎えるバニラエア。10月22日現在、運航終了日となる26日までの成田~台北線、福岡~台北線ともに空席がある。どうしても乗り納めをしたい人もまだ間に合う。最終日は土曜日ということで、成田空港の展望デッキや周辺の滑走路が一望できるスポットから最後の雄姿を見届けるのもありだろう。本当のラストへ向けたカウントダウンが始まった。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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