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羽田発ヨーロッパ深夜便は「時短フライト」。ANAが2月17日から羽田~ウィーン線就航で選択肢が増える

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
ANAは2月17日に羽田~ウィーン線を開設した(筆者撮影)

 ヨーロッパへ出張や旅行で出かける人も多い中、時間を効率的に使えることで人気があるのが、羽田空港を深夜時間帯に出発しヨーロッパに早朝に到着する直行便。24時間空港である羽田空港が国際化し、成田空港からは飛べない23時以降に国際線を運航することが可能になったことで誕生した便だ。

 現在、羽田空港からのヨーロッパへの深夜便として、エールフランス航空が23時50分にパリ行き、ANA(全日本空輸)が深夜0時55分発のフランクフルト(ドイツ)行き、JAL(日本航空)が深夜2時45分発のロンドン(イギリス)行きが運航されており、2月17日(日)より新たにANAが深夜1時55分発のウィーン(オーストリア)行きを就航させた。

■羽田空港発ヨーロッパ行き深夜便一覧(3月30日までの冬ダイヤ)

エールフランス航空 AF293便 羽田22時55分発 パリ4時35分着(翌日)

ANA NH203便 羽田0時55分発 フランクフルト5時20分着

ANA NH205便 羽田1時55分発 ウィーン6時00分着

JAL JL41便 羽田2時45分発 ロンドン6時25分着

■羽田空港発ヨーロッパ行き深夜便一覧(3月31日からの夏ダイヤ)

エールフランス航空 AF293便 羽田23時50分発 パリ4時50分着(翌日)

ANA NH203便 羽田0時10分発 フランクフルト5時20分着

ANA NH205便 羽田1時20分発 ウィーン6時00分着

JAL JL41便 羽田1時55分発 ロンドン6時25分着

11月中旬からクリスマスまではウィーンでも市庁舎を中心にクリスマスマーケットが開催され、多くの人で賑わう(2018年12月、筆者撮影)
11月中旬からクリスマスまではウィーンでも市庁舎を中心にクリスマスマーケットが開催され、多くの人で賑わう(2018年12月、筆者撮影)

深夜のANAフランクフルト行きは約95%の搭乗率

 ヨーロッパへのフライト時間は約12時間。時差がドイツとオーストリアは日本時間マイナス8時間(サマータイム時は7時間)、イギリスは日本時間マイナス9時間(サマータイム時は8時間)となっている。飛行時間が約12時間前後であることから、羽田発深夜便はヨーロッパ各都市に早朝に到着する。特にANAのフランクフルト行き203便は、深夜0時55分にに羽田を出発し早朝5時20分にフランクフルトに到着することから、そのまま乗り継ぐことで朝8時~9時にはヨーロッパのほとんどの主要都市に到着することができる。

 結果、午前中から動けることから特に出張者にとっては寝ている間に移動でき、飛行時間は昼間便と同じだが、昼間の時間を無駄にしない「時短フライト」になることで、無駄のない動きができることからリピーターの利用者が多い。ANAによるとフランクフルト行き深夜便の平均搭乗率は約95%(ボーイング777-300ER型機で運航)となっているそうだ。実際に出張者からは予約をしようと思っても満席で予約できない日も多く、仕方なく日中便を選ぶという声も聞こえる。

 JALも2017年10月末に運航を開始した羽田~ロンドン線の深夜便も就航直後から利用者は順調に推移している。

JALは2017年10月より羽田~ロンドン線の深夜便運航を開始した(2017年10月、筆者撮影)
JALは2017年10月より羽田~ロンドン線の深夜便運航を開始した(2017年10月、筆者撮影)

かつてはエールフランスが成田から深夜便を飛ばしていた

 ヨーロッパ行きの深夜便については、かつてエールフランス航空が「スターウイング」と呼ばれる深夜便を成田~パリ線で就航していた。成田空港を21時55分に出発しパリに翌朝4時15分に到着する便を運航していた。時間を有効に使いたい人に人気があった。成田空港が23時までの運用時間になっていたことから、21時55分に成田空港を出発する時間だったが、そのまま最短距離で飛行すれば、午前3時頃にはパリに到着してしまうことから、通常よりも1時間程度飛行時間を長くして、パリに朝4:15に到着するスケジュールとなっていた。羽田から深夜時間に飛べるようになったことで、現在は「スターウイング」という名称もなくなり、パリ行き深夜便は羽田から運航されており、出発時間が遅くなったことで遠回りせずに最短距離で飛んでいる。

ANAのウィーン線の強みは乗り継ぎ時間30分

 ANAが2月17日に就航するウィーン線の最大の魅力はウィーンでの乗り継ぎ時間の短さにある。最短30分での乗り継ぎが可能なのだ。ウィーン空港のターミナルはコンパクトに作られており、日本から到着後はシェンゲン協定に入っていないイギリス行きを除きヨーロッパ内へ乗り継ぐ際には入国審査はウィーンで行うことになるが、それを含めても最短30分で乗り継ぎが可能となっている。筆者も何度か利用しているが、ウィーンが目的地の際に他の空港に比べて荷物が出てくるまでの時間が圧倒的に短く、乗り継ぎ時もスムーズに荷物を乗り継ぎ便に搭載している。荷物を含めての最短30分になっている。フランクフルトにおいてはANAは45分の最低乗り継ぎ時間を設定しているが、更に短い。

 羽田出発は深夜1時55分発でウィーン空港の到着は朝6時となっている。つまり朝6時半以降のウィーン発のヨーロッパ各都市行きの便に乗ることができる。筆者は昨年12月にウィーンを訪れた際に、朝6時30分発のオーストリア航空ミュンヘン行きに搭乗したが、朝6時台・7時台のヨーロッパ各都市行きの便が豊富にあり、ウィーン空港全体に朝から活気があった。ヨーロッパ主要都市の多くに乗り継げることで、ANAとしてはフランクフルト便が混んでいる時にウィーン便でウィーン乗り換えという新たな選択肢ができることで、出張者を中心に既に予約は堅調に推移しているようだ。

ウィーン空港到着ロビー(2018年12月、筆者撮影)
ウィーン空港到着ロビー(2018年12月、筆者撮影)
朝6時過ぎのウィーン空港。ヨーロッパ各都市への便が早朝から運航されている(2018年12月、筆者撮影)
朝6時過ぎのウィーン空港。ヨーロッパ各都市への便が早朝から運航されている(2018年12月、筆者撮影)

 2月16日の就航セレモニーでANAの平子裕志社長は「ウィーンは当社にとって、ヨーロッパでは7番目、世界では44番目の就航都市になります。ウィーンは昨年、世界で最も住みやすい都市に選出されました。今後益々、観光・ビジネス需要が増えていくものと期待しています。オーストリアはヨーロッパ大陸の中央に位置しており、東西の交通の要所として益々の重要性を発揮しています。このフライトは、パートナーのオーストリア航空の協力でウィーン経由でヨーロッパ各都市にスムーズに乗り継げます」とオーストリアの魅力と乗り継ぎの利便性を語った。

ANAの平子裕志社長(2月17日、筆者撮影)
ANAの平子裕志社長(2月17日、筆者撮影)

ウィーンは東欧の玄関口としての役割を果たす

 昨年12月にANAのウィーン支店で近藤寛之支店長にお話を聞いた。羽田~ウィーン線利用者は、就航当初の予約は日本発の利用者が中心で「今後はウィーン発の利用者をプロモーションやメディアでの情報発信を通じて増やしていきたい」と話す。年間で平均搭乗率75%を目指したいとしている。

 更にビジネス出張だけでなく、オーストリアを含めた東欧への旅行の玄関口としての役割を果たしていきたいと近藤支店長は語る。「ANAのヨーロッパ就航都市でウィーンは一番東になります。オーストリア、チェコ、ハンガリーなど観光素材が非常に豊かであり、オーストリア航空を含むルフトハンザグループと共同事業(ジョイントベンチャー)を中心とした連携により、中央ヨーロッパ、東欧をはじめとする欧州域内のネットワークが活用できます」とパートナーであるオーストリア航空との提携の意義についても話した。

ANAの近藤寛之ウィーン支店長(2018年12月、筆者撮影)
ANAの近藤寛之ウィーン支店長(2018年12月、筆者撮影)

国交樹立150周年の年。オーストリアでの知名度アップを目指す

 ただ、ANAの知名度はオーストリア国内では限りなく低く、知名度アップも近藤支店長の使命となる。「まず、しっかり地場に入り込むようなアプローチをして、日本が大好きなオーストリアの方を起点とし、文化・芸術に加えて、スポーツも含めたいろんな形で日本を訴求する方法はあると思ってます。ANAが東京に飛んでいることを知ってもらうために、地場の人脈づくりと、できるだけ可能な限り広範囲のプロモーションをオーストリア国内から始め、その後は、オーストリアのみならず、その周辺国も含めて展開していきたい」とインバウンド誘致へ向けての活動がこれから本格化する。

 今年は日本とオーストリアが国交を結んでから150年の記念の年であり、日本オーストリア友好150周年を記念したイベントも両国で開催される。また、ウィーン国立歌劇場も1869年5月25日にこけら落とししてから150周年を迎える。近藤支店長は「150周年の年にANAが飛べるというは、大きな意味があると思います。マーケットも含め、非常に注目される1年になるのでしっかりと関わっていきたい」と抱負を語った。

ウィーンのシンボルでもあるウィーン国立歌劇場(2018年12月、筆者撮影)
ウィーンのシンボルでもあるウィーン国立歌劇場(2018年12月、筆者撮影)
ウィーンで日本人も多く訪れるホテルザッハーのザッハトルテ(2018年12月、筆者撮影)
ウィーンで日本人も多く訪れるホテルザッハーのザッハトルテ(2018年12月、筆者撮影)

 ウィーン線は羽田からのヨーロッパ各都市への深夜移動の利便性を高めることはもちろん、東欧からの訪日旅行者(インバウンド)にとっても大きな役割を果たす路線になりそうだ。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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