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JAL機の成田空港での脱輪は「高速離脱誘導路」で発生。飛行機のタイヤにスタッドレスはない

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
今回、脱輪した機体と同型のJALボーイング787-9型機(2017年、筆者撮影)

 2月1日の午前7時前にインドのデリーから成田空港に着陸したJAL740便(ボーイング787-9型機)が、着陸直後に舗装されている誘導路からタイヤが脱輪したことで動けなくなっている。土の軟らかい芝生にタイヤがめり込んでいるようだ。既に乗客はタラップを使って飛行機からは降機している。

 脱輪から8時間が経過した15時現在においても機体は現場から動くことができない状況が続いているが、15時前にA滑走路の運用を再開した。

JAL便機長「ブレーキが効かなくて、滑った感覚があった」

 JAL(日本航空)によると、現時点では原因は調査中としているが、機長は「ブレーキが効かなくて、滑った感覚があった」と話す。昨夜から成田空港周辺は雪で事故発生時も氷点下となっていたことから凍結によるスリップの可能性も考えられる。

高速離脱誘導路上で脱輪した模様

 今回、JAL機がコンクリート上から外れた誘導路は「高速離脱誘導路」と呼ばれる。着陸後に一定のスピード以下になった段階で滑走路から離れ、その直後に走行する滑走路に対して斜めになっている誘導路であり、ある程度の速度が出ている状況にある。滑走路の運用効率を上げる意味でも過密ダイヤの空港を中心に運用されている一般的な方式だ。スピードが低速になる前に滑走路から離れる光景を目の当たりにしたことのある利用者も多いだろう。高速道路のインターチェンジで本線から離脱する場合のイメージに近い。JAL機においても一定のスピードが出ていた状態でブレーキが効かず、制御できずに誘導路から脱輪した可能性がある。

 地方空港では、いつでも停止できるスピードになってから直角に誘導路に入ることが一般的であり、滑走路を占領する時間が長くなることから、発着便数の少ない空港では高速離脱誘導路は必要ないが、発着便が多い空港では不可欠となっている。

凍結によるスリップが考えられる

 今回、どの程度のスピードで高速離脱誘導路に入ったのかは明らかになっていないが、機長はブレーキが効かずに滑った感覚があるという点から考えると、凍結によるスリップが考えらる。テレビの映像を見ても、凍結しているようにも見えた。

 ただ、運用開始となる朝6時過ぎから他の航空機も着陸しているほか、雪予報が出ていたことから空港会社では滑走路だけでなく、誘導路にも凍結防止剤を前夜にまくなどの対応を取っていたことから、JAL便だけスリップした理由は現時点では不明であり、機体を動かした後、検証されることになるだろう。

追記(19時20分):あるパイロットによると、通常(乾いている状態)は時速50キロ程度で滑走路から誘導路に離脱するが、雪が降っている新千歳空港などでは時速20キロ以下に減速してから離脱することが多いという。氷のある誘導路で特にカーブを速い速度で走行すると横に流されて脱輪する可能性があると話す。また、新千歳空港などでは誘導路面の滑りやすさの情報もパイロットに流れてくるそうだ。

飛行機にはスタッドレスタイヤはない

 航空機のタイヤにも冬用タイヤがあると思っている人もいると思うが、自動車でいうスタッドレスタイヤはなく、降雪や凍結が予想される時には凍結防止剤をまいたり、雪の場合には一旦滑走路を閉鎖させたり、運用時間外に除雪作業をすることで安全に運航できる体制を空港会社が中心となって整えている。今回、滑走路周辺の芝生は雪化粧していたが、滑走路や誘導路に雪は積もっておらず除雪レベルではなかったようだ。

 今回は着陸機であったが、出発便で雪が機体に残っている場合や凍結している場合、専用のディアイシングカーと呼ばれる車両を使って、除氷剤やお湯を機体に振りかけて雪や氷の塊を溶かして出発することになっている。

 原因究明にはしばらく時間がかかりそうだが、要因をしっかり分析して同様のケースが起こらないように願うばかりだ。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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