国葬反対の80%は大陸からだったのか?
国葬反対8割大陸説
10月2日に,安倍元総理の国葬に反対するSNS発信の80%が大陸からのものだったという衝撃的なツイートがありました.
(10月5日以降非公開)
ツイートしたのは三重県議会議員の方ですので,公的な人物からの発信という事で一部で大きな話題になりました.
さらに,10月4日には,
(10月5日以降非公開)
と,この情報が自民党総裁選にも出馬されたことのある自民党国会議員の高市氏からのものであるというツイートもなされ,ツイッター面白発言界隈では大きな話題となっています.
一方,高市氏は,
とツイートしています.
これが先の8割大陸のことを指しているのかどうかはわかりませんが,このツイート通りだと考えれば,少なくとも日本政府が調査した結果を知って三重県議会議員の方がツイートしたとは言えないということになるでしょう.また毎日新聞の取材に対して発言したことを否定しているようです.
10月6日には議員もツイートの内容に誤りがあったとして撤回し、陳謝したとのことです.
ツイートの分析
「国葬反対の8割が大陸から」という発言自体は否定されたわけですが,実際に安倍元総理の国葬に反対するツイートを投稿した人たちの中に「大陸」の人たちはどのくらい含まれていたのでしょうか.手元にあるデータで簡単に調べてみました.
今回の対象は安倍元総理の国葬に反対するハッシュタグ「#安倍晋三の国葬に反対します」を含む2022年07月09日~10月05日に投稿された926,925ツイートを対象に分析しました.
まず,ツイートを行ったアカウントに登録されている使用言語の分布を見てみました.果たして何語を主に使っているアカウントがツイートをしていたのでしょうか.
この結果,88%が日本語,11%が不明という事になりました.それ以外だと英語が0.14%中国語が0.036%でした.従って,言語情報からは大陸からの投稿が8割ということは示せませんでした.
次に,ツイートを行っているアカウントに登録されている「場所」情報を分析してみました.
結果,アカウントの58.7%は場所を空白にしていました.「場所」が空白ではないツイートから上位30件を見ると以下の様な分布になりました.
1位は「日本」の4.77%で,それ以外にもベスト30には「大陸」の地名はありませんでした.
念のため全体の25%を占めるようになるまで上位358位まで根性マイニングの手法(筆者が頑張って目で見る)を用いて分析しましたが,「大陸」であることをしめす地名はほとんど見つかりませんでした.
強いて言えば,moon,Manhattan, NY,スエデーン,Здесьがあったくらいです.ただし,これら全部合わせても1%に満たない数でした.
ここからも「大陸からが8割」とは言えないことが分かりました.
最後に,ツイッターの投稿は設定次第では投稿場所を記録することができます.
そこで,投稿場所が記録されているツイートについてどこからツイートされたものかを調べてみました.
その結果,場所情報が含まれているツイートの99.2%は日本からのツイートでした.・・・とはいえ,99.67%のツイートには場所情報は含まれていませんでしたのでどこまで正確な情報かと言われるとかなり微妙ですが.
というわけで,TwitterAPIを使ったデータから調べた結果,少なくとも「大陸からの投稿が8割」という情報が支持される結果は得られませんでした.
投稿した国は分かるのか
OSINTの限界
というわけで,TwitterAPIで調べてみた限りほとんどの投稿は日本からであるということになりそうです.
しかしながら,ツイッターを使っている方であれば
言語情報や場所情報は自分で変えられるのだから,日本からの投稿であるという証拠にはならないのではないか?
と思われるかもしれません.
実は全くその通り,「大陸から」のツイートが言語情報や場所を偽装していれば「大陸から8割」である可能性もわずかながら残っています.
しかし,それは逆に言えば偽装可能な情報で大陸からのツイートが8割に見えたとしてもそれもまた疑わしい情報であるという事になります.
つまり,少なくともツイッターで一般的に手に入る情報からは投稿場所を特定することは出来ないため,そもそも「どこからのツイートが何パーセントだった」などということを言う事はできないわけです.
したがって,いわゆるOSINTレベルでは今回のような分析は困難だったと結論付けられます.
より高度な分析の可能性
それではどうすれば投稿場所を特定することができるでしょうか.
おそらくやり方としては,アプリケーションレイヤーであれば投稿元IPアドレスの分析がありえるでしょう.IPアドレスが分かればおおよそどこの国から投稿されたのかが分かります.ただ,IPアドレスの情報はTwitterであればTwitter社しか持っていないものですので,簡単に手に入るものではありません.開示請求はできますが,果たして犯罪行為でもない投稿への開示請求にTwitter社が応じてくれるかと言われるとかなり難しいのではないかと思われます.少なくとも,プロバイダ責任制限法に該当するような事例ではないと思われます.また,本気で工作をしようとするならばIPの偽装くらいはしている気もします.
それ以外には,もっと下位レイヤーでパケットの動きを解析するという手も考えられますが,ツイートの内容と結び付けてパケットの動向を分析するのも,暗号化されているパケットの中身を読むことは出来ませんし,結局Twitter社の協力なしでは不可能なため基本的には無理でしょう.
もっともこの辺は専門ではないので確かな事は言えませんが.CIAとかが超頑張れば何とかなる可能性があったりするんですかね.知らんけど.
というわけで,「特定のツイート群が特定の国から投稿されたものである」ということを調べる手段は相当限られており,「国葬の反対派の正体を暴く」程度の分析をわざわざするかと言われるとコストに見合わない気がします.
結論
というわけで,少なくともツイッターに関しては「大陸からの投稿が8割」という証拠は見つけることができませんでしたし,そもそも証拠を見つけることは困難であるといえるでしょう.
もちろんTwitterでしか分析はしておりませんので,どこかのSNSでは国葬反対の8割が大陸からの投稿という事もあるかもしれませんが,日本のSNSにおいてそういったことが起きたという可能性は極めて低いかと思います.
まあ,ツイートをした議員も高市氏も否定していることではありますので,このような事実はなかったと結論付けてよいのではないでしょうか.
ちなみに,ここ2日くらい一生懸命大陸からの投稿が8割ではない証拠を見つけるためにもうちょっと高度な(大陸からではない証拠を示すための)分析をしていたのですが,結局発言自体が取り下げになってしまって,ボツになりました.ファクトチェックは難しい!