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4回目の緊急事態宣言で新型コロナに関する社会的感情に変化はあったのか

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
(提供:barks/イメージマート)

新型コロナの蔓延が止まりません.

ワクチンが救世主になるかと思いきや,死亡率は減少したものの感染者数はいまだピークアウトしたとは言いきれない状況のようです.

デルタ株や,人々の油断,コロナ疲れなど様々な影響が言われています.そこで,ソーシャルセンサの考えを用いて,ツイッター上での人々の感情がどのように変化しているのか分析してみました.

ツイート数と感染者数

まず,コロナ感染者数とツイート数の関係についてみてみましょう.

感染者数とツイート数(著者作成)
感染者数とツイート数(著者作成)

これより,やはり感染者数の増加に伴って関連ツイートも増加していることが分かります.ツイッター上でのコロナに関する投稿はそれなりに社会的状況を表しているといえるでしょう.

感情の類似性の変化

では,次に,人々がどのような感情を持っていたのかツイッターから推定してみましょう.

ここでは,ツイートに含まれている感情を抽出し,その変化を見てみました.一週間ごとのツイートを使って,各ツイートに含まれる感情語をML-Askを用いて抽出しています.

なお,人々の感情を分析する際に,リツイートやニュース記事などURLを含んだツイートはノイズとなってしまうため,オリジナルツイートかつURLを含まないツイートのみを対象として分析をしてみます.

ここで得られた感情が過去のどの時点と類似しているかによって,どんな感情だったのかを見てみましょう.また,直近で最も感染者が少なかった2か月前の6月24日の感情も併せて比較してみます.

その結果がこちら.

感情の変化(著者作成)
感情の変化(著者作成)

まず,2021年8月24日現在の感情がいつと類似しているかを青い線で表しています.1に近いほどその日と8月24日が類似していることを示します.

青い線を見ていくと,比較的似ているのはいずれも感染者数が増加傾向からピークに達するあたりであることが分かります.その意味では,今の状況が過去と比較して大きく油断している状況であるとは言えなそうです.特に類似しているのが第1波と第3波のピーク付近ですので,比較的緊張感が大きく出ているといえるのではないでしょうか.

さらに,7月8日に一気に感情が変化していますが,この日はまさに緊急事態宣言が出された日です.「緊急事態宣言に慣れてしまって効果が無くなっている」と言われていますが,感情面から見る限り緊急事態宣言にも一定の効果はあったといえそうです.

一方,感染者数が少し抑えられた6月24日との類似性を見てみましょう.これは緑のラインで示されたもので,1に近いほど類似していることを示します.

これより,第4波の終わりかけから類似した感情となっていますが,ここと最も類似した感情が出ているのはなんと2021年の元旦です.大晦日~元旦はかなり特殊な感情が表出する「浮かれた」時期なのですが,それと類似した感情だったということは,ワクチン接種が進んだことや感染者が減少傾向にあったこと,オリンピックなどが影響していたのかもしれません.具体的な因果関係は分かりませんが.

感情パターンのクラスタリング

最後に,類似した感情が出た日を分類して,どのような感情パターンがあったのかを見てましょう.

一日ごとに表出した感情の割合に基づいてX-Meansという手法を使ってクラスタリングを行いました.その結果,9個のパターンが得られました.それぞれの感情パターンがいつ出たのかを示したのが次のグラフです.

感情パターン(著者作成)
感情パターン(著者作成)

一日ごとに9種類の感情パターンのうち何が出ているのかを示してます.

これを見ると,第5波が始まったころから緑のパターン5が増加していることが分かります.また,数か所茶色のパターン7が見られます.

これらのパターンにはどんな感情が含まれているのか示したのがこちら.

各パターンに含まれる感情(著者作成)
各パターンに含まれる感情(著者作成)

これを見ると,パターン5に含まれる感情は怖が多く表出しており,パターン7では昂が多く表出していることが分かります.パターン7になっている日は,7月23~25日,8月8~9日ですのでこれは明らかにオリンピックの開会式閉会式の影響でしょう.一方でそれ以外の日はそこまで「昂」の感情が大きいわけでもないことから,オリンピックの最初と最後はさておき,期間中ずっと浮かれていたわけではなさそうなことが分かります.

さらに,オリンピックが終わって感染拡大が止まらない8月19~22日あたりでは第3波,第4波が増加傾向にあるときに出ていたパターン2が多くみられ,危機感が上昇している可能性が示唆されます.特にパターン2は全体的に多くの感情が含まれていることから,8月前半と比較して感情的内容を含むツイートの割合が増加しているといえるのではないでしょうか.

おわりに

直近のツイートデータを用いて,新型コロナに関する社会的感情がどのように変化しているのかを分析してみました.もちろん,ネット上に表出する感情は社会全体の一部ですし,これ自体が社会のすべてを表しているわけではありませんが,その一部を可視化する有効な手段の一つとは言えるかと思います.

結果としては,感情分析の結果からは過去4回のピーク時と類似した感情が表出していることが分かります.また,オリンピックの影響が大きく出たのは開会式直後,閉会式直後くらいのようです.

一方,効果がないと言われていた緊急事態宣言ですが,ソーシャルセンサで見る限り感情面には一定の効果をもたらしたとは言えそうです.ただ,それが感染防止に直接結びついているのかと言われると難しいところですが・・・

デルタ株の蔓延もあり,まだまだ新型コロナ収束への道のりは険しそうですが,過度の油断を避けながら何らかの形で収束するようにしたいものです.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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