池江璃花子選手が五輪内定したことで批判されていたのか検証してみた

(写真:青木紘二/アフロスポーツ)

水泳の池江璃花子さんが白血病を乗り越えてオリンピック代表の座を射止めたことが4月の頭大きなニュースになりました.

その一方で,オリンピックを開催するかどうかについては様々な意見があり,開催するということにはなっているものの予断の許さない状況です.

そんな中,「五輪反対」で池江璃花子を批判する人の理不尽という記事が掲載されました.記事によると,

池江さんのインタビュー記事に付随したコメント欄やツイッター上には、彼女を責めるような声が大量に挙がっています

「自分のことしか考えていない」「この人が表に出れば出るほど嫌悪感が増してくる!五輪なんかニコニコやってる場合じゃねえ!」「オリンピックに利用されるから嫌な感じ」「あんたがどんな記録を出そうが、私たちには全く関係ない。感染拡大している中で、お祭り騒ぎをしている場合ではない。私たちは1年以上自粛をしている」

とのことです.オリンピックを中止すべきかどうかは意見が分かれるところですが,重い病にも負けずオリンピック選手の座を手に入れた池江選手を誹謗中傷するというのは,適切な行動ではないように思われます.

そこで,ツイッター上ではどの程度批判があったのか調べるため,「オリンピック,パラリンピック,五輪,池江」で検索をし,どのようなツイートがあったのか調べてみました.期間は4月1日~17日で140,126ツイートが収集されました.

クラスタ分析

まずはどのようなツイートがどのくらいあったのかを調べるため,リツイート数上位500ツイートについて,リツイートしたユーザの類似性に基づくクラスタリングを行いました.クラスタリングの手法についてはこちらの論文をご参照ください.ノードがツイートを表し,類似したアカウントによって拡散されたツイート同士をリンクしています.ノードの大きさはリツイート数を示しています.また,ノードの色が濃いほど「偏った」アカウントによって拡散されていることを示します.

池江選手に関するツイートクラスタ(著者作成)
池江選手に関するツイートクラスタ(著者作成)

今回は,大きなクラスタとしては3つが見つかりました.

まず,クラスタAはオリンピック反対系のツイートです.

池江選手はすごいがオリンピックは反対

といった内容のツイートが多数みられました.14,147アカウントによって30,339回の拡散が行われていました.

ちなみに,こちらの論文で使われている拡散の偏りを評価する手法を使って計算してみたところ,このクラスタは偏りが3.3と極めて高く,全体の80%の拡散がいわゆるリベラル系アカウントによって行われていることが分かりました.

次に,クラスタBはニュース系ツイート群です.

こちらのような池江選手がオリンピック代表に内定したことに関するマスメディアのニュースが拡散されているクラスタでした.26,355アカウントによって31,082回の拡散が行われました.偏りは1.0くらいで,今回のクラスタの中では一番偏りの少ない一般的なアカウントによるツイートが多いクラスタだったといえるでしょう.

アカウント数的にもこのクラスタが一番多かったので,オリンピックの賛成反対議論よりも単純に池江選手がオリンピック代表に内定したニュースそのものに興味を持った層が最も多かったと言えそうです.

最後にクラスタCは池江さんを祝福するツイートや,五輪反対するツイートに対して反対をするツイート群でした.

ただし,このツイート群の中には安倍元総理のツイートなども含まれており,政治的な色が強いことは否めません.12,749アカウントによって21,184回の拡散が行われましたが,その偏りは2.9とクラスタAと同程度に偏っていたといえそうです.ツイートしたアカウントのうち73%はいわゆる保守系のアカウントでした.

以上より,大規模に拡散したツイートの中には池江選手を誹謗中傷するようなものはありませんでした.どちらかというとオリンピックの賛否が先にありきのツイートが多く拡散したのではないかと思われます.

特に,リベラル系がオリンピック反対,保守系が賛成という極めて政治色の強い議論に利用されたといって良いのではないかと思います.

批判ツイートの分析

しかし,クラスタとしては現れなかったものの,誹謗中傷自体はあった可能性はあります.そこで,ツイートの中に誹謗中傷がどの程度あったのか分析してみました.分析手法には根性マイニングを採用しました.根性マイニングとは「すべて人の目で見て判断を行う」という根性が必要だけど精度が高く精神が削られると評判のデータ分析手法です.

ランダムに抽出した200個のツイートを分類した結果は下図の通りです.

ツイートの根性マイニング結果(著者作成)
ツイートの根性マイニング結果(著者作成)

この結果より,最も多くツイートされたのは池江選手がオリンピック内定を獲得したというニュースツイートです.そして,次に「池江選手すごい」「おめでとうございます」といった応援ツイートが25%程度でした.おおよそこの二つで半数以上でした.

次に多かったのが「オリンピック反対」を表明するツイートで24.5%,そして「オリンピック賛成」を表明するツイートが8%程度でした.

200ツイート見ましたが,その中に誹謗中傷的なツイートは存在せず,池江選手を非難するツイートも存在しませんでした.

もちろんすべてを見たわけではないので「批判はなかった」とは言えませんが,批判するようなツイートはほとんど存在しなかったのではないかと推測されます.

トータルで見ると,全体としてはポジティブな意見の方が多いが,池江選手をオリンピック強行の材料に使おうとする人たちへの警戒をする人たちもそれなり(25%程度)いたと考えるのがちょうどよいかもしれません.

ハッシュタグは飛び交ったのか?

ところで,「「五輪反対」で池江璃花子を批判する人の理不尽」の記事には,

一方、ツイッターには、「#池江璃花子選手は立派だが五輪開催は断固反対」というハッシュタグが飛び交い、こちらにも東京オリンピック開催に反対するだけでなく、池江選手への厳しい言葉も見られます。

とあります.そこで,どのくらい当該ハッシュタグがあるのか調べてみました.

その結果,このハッシュタグが含まれるツイートはトータルで2175存在し,そのうちオリジナルツイートは255回されていることが分かりました.飛び交っているというほどではなさそうです.

さらに,

池江選手への厳しい言葉も見られます。

に関しても,255ツイート全部根性マイニングしてみましたが,そのようなツイートは見つけられませんでした.

というわけで,Yahooのコメント欄は分かりませんが,少なくともツイッター上には、池江選手がオリンピック代表内定になったことで池江選手を責めるような声が大量に挙がっていたとは言えないかと思います.圧倒的に応援メッセージが多かったです.批判は池江選手を利用してオリンピックを実現しようとする人たち(存在すると仮定して)に対して行われているものが大半でした.

良かった,池江選手はそれほど非難されてなかったんだ(少なくともツイッター上では).

5月9日追記

本記事は4月23日に「#池江璃花子選手は立派だが五輪開催は断固反対」というハッシュタグの拡散を受けて書かれた記事です.

5月7日の池江選手のツイート後はまた状況が変わっていると思いますので,その点ご了承ください.

5月10日追記

5月7日の池江選手のコメント以降の分析につきましては,下記の記事をご覧ください.

池江璃花子選手への五輪出場辞退要請は誰が行っているのか