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緊急事態宣言の効果は1か月程度しかなかったかもしれない

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
緊急事態宣言は解除されたが(写真:ideyuu1244/イメージマート)

新型コロナに関する緊急事態宣言が3月21日に解除されました.

とはいえ,あきらかに1回目の緊急事態宣言と2回目の緊急事態宣言では効果が違ったように思えます.皆自粛生活をしていた1回目と比べて,2回目の緊急事態宣言は電車も混んでいたし,夜出歩く人が少ない以外は日常とあまり変わらない生活だったような気もします.

というわけで,緊急事態宣言がどのような変化をもたらしたのか,Twitterデータから見てみましょう.ツイッターから新型コロナに関するツイートを収集して分析しました.もちろんツイッター上の感情が似ているからと言って本当に危機感がないとは断言できませんが,残念ながら社会そのものを直接計測はできないので,社会の一部をセンシングするソーシャルセンサとしてツイッターを使ってみたいと思います.

まず,PCR陽性者数とツイート数の関係についてみてみましょう.なお,ノイズを避けるため,ツイートからはリツイートやURL入りのツイートは除いています.

ツイート数の変化(著者作成)
ツイート数の変化(著者作成)

黒い線が新型コロナに関するツイート数,オレンジと緑のがPCR陽性者数の一週間平均です.なお,緑の個所が緊急事態宣言時となります.

これより,1回目の緊急事態宣言時と比較するとコロナに関するツイート自体が大幅に減少していることが分かります.緊急事態宣言が出た直後に話題としては大きくなってはいますが,緊急事態宣言が終わるころには1日当たりのツイート数は,国内で初めて感染者死亡が出た2020年2月13日以降最低となっています.だいぶ前からコロナが日常になってきているため,あまりツイッター上でも使われないようになっていることも関係しているとは思いますが,それでもかなり話題にならなくなっていることが分かります.

次に,緊急事態宣言が出て以降の感情はどうなったのか見てみましょう.ツイートの感情を抽出し,正規化したものを日ごとに示しました.

感情の比較(著者作成)
感情の比較(著者作成)

ここでは,感染者数が落ち着いていた2020年10月27日,増加傾向にあった2020年12月18日,緊急事態宣言が出た次の日である2021年1月10日,緊急事態宣言が再延長された2021年3月5日の感情を示しています.

これを見ると,3月5日の時点で感情分布が10月27日と類似していることが分かります.少なくとも感染者が増加している12月18日や1月10日とは大きく異なる感情分布です.特に,「怒」「怖」といった感情がほとんどなく,「好」「喜」といったポジティブな感情が非常に多くなっているのが見て取れます.

緊急事態宣言が延長された3月5日くらいには,すでに第2波と第3波の間の小康状態で昨年のGoToトラベルが行われていた時期と同じような感情分布になっていて,危機感があるようなツイートは少なくなっていたようです.

では,いつくらいから感情はポジティブな方向に行ってしまっていたのでしょうか.緊急事態宣言が解除された3月22日のツイートの感情分布との類似度からいつくらいから危機感が無くなってきたのかを見てみましょう.

3月22日との感情類似度(著者作成)
3月22日との感情類似度(著者作成)

正規化した感情分布がどのくらい3月22日と類似しているかをプロットした図を示します.折れ線が1.0に近いほど3月22日と感情が近いことを示します.なお,オレンジのプロットは緊急事態宣言が出ていない時期のPCR陽性者数の一週間平均で,緑のプロットは緊急事態宣言が出ているときのPCR陽性者数の一週間平均です.

これを見ると,3月22日の感情と一番似ている時期は,第2波と第3波の間の小康状態の時期だったということが分かります.簡単に言えば,3月22日時点での感情は危機感がない時期のものと酷似していたといえます.

では,緊急事態宣言時は今のような危機感のない感情分布だったのでしょうか?類似度の時系列変化を見ると,2回目の緊急事態宣言が出た直後(1月9日~)こそ3月22日と大きく感情分布は異なっているものの,2月10日ころには類似度が0.7を超え危機感のない感情と類似していることが分かります.一時期は全国で一日7000人を超えていた感染者数が2月10日には2000人以下まで減った時期であり,確かに少し落ち着いてきたなという印象を持った時期でしたが,この時点ですでに我々は第3波が過ぎたと確信していた可能性があります.

さらに言うと,実は3月22日時点での感情分布は,2020年6月の第2波の立ち上がりの直前くらいの感情分布と類似していることも分かります.ツイッター上の感情分布が似ているからといって必ずしも同じことが起きるとは限りませんが,少なくとも感染者数が減少する直前のような危機感を持った状況ではないということが分かります.

一週間平均で見ると,3月2日を境に再びコロナ感染者数は増加に転じています.このまま緊張感のない状態が続けば,再び増加する可能性は十分にありそうです.シミュレーション研究の結果では5月ころに第4波が訪れるとも予測されていますし.

人間は,数字を相対的に見る生き物なので,一度7000人を超えた感染者数,現在の数字を見ると少なくなったと感じるかもしれませんが,今でも3月後半の一日当たりの感染者数は第2波の頃と同じくらいです.もっと言えば,皆がちゃんと自粛していた4月5月の頃よりもはるかに感染者数は多いはずなんですけどね.

感染者数が一時期より少ないからと油断せずに,危機感をもって行動をしていきたいものです.

しかし,緊急事態宣言があまり効果がないとなると,これからどういう対策が考えられるのか難しそうです.

一人一人の努力が,というのは難しいとは思いますが,第4波が来ないためにもある程度の緊張感を維持したまま日々の生活を送っていきたいものです.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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