香川県まんのう町の山奥に谷川米穀店という店があります.米穀店と名乗っているくせに,実はわりと名の知れたうどん屋さんです.

この谷川米穀店,開店前に長蛇の列ができることも珍しくありません.そんな時,開店前に店の中からおばちゃんが出てきたりします.開店時間が早まるのかなと思いきや,

「本日終了しました」

という立て札を最後尾の人に渡したりします.開店前から終了かよ!

谷川米穀店のうどん(著者撮影)
谷川米穀店のうどん(著者撮影)

閑話休題

というわけで,自民党総裁選もまだ行われておらず,誰が次期総理になるかは確定していないにもかかわらず,すでにTwitter上では「#スガやめろ」というハッシュタグが20万回以上ツイートorリツイートされて,トレンド入りしたようです.

最近は,トレンド≠一般の意見ということは知れ渡ってきているとは思いますが,なぜこのハッシュタグがトレンド入りしたのでしょうか?

ハッシュタグは何パターンかあるようですので,「スガやめろ OR 菅やめろ OR スガ辞めろ OR 菅辞めろ OR #スガやめろ OR #スガ辞めろ OR #菅やめろ OR #菅辞めろ」で検索をかけてデータを収集しました.

その結果,2020年9月4日から13日22時40分までで231,904件のツイートが見つかりました.

1時間ごとのツイート数を見ると,以下のようになりました

毎時ツイート数(著者作成)
毎時ツイート数(著者作成)

9月4日ごろにはすでに#スガやめろタグは存在していて,9月11日20時ごろに小さなバーストが,12日6時ごろから本格的なバーストがスタートしたと思われます.

土曜の朝6時からバーストって早起き過ぎない?

ツイート群の抽出

では実際にこれらのタグを使ったツイートには,どのようなものが存在したのか,大規模にリツイートされたツイートについて,クラスタリングを行って図示しました.それがこちらの図になります.

#スガやめろのクラスタリング結果(著者作成)
#スガやめろのクラスタリング結果(著者作成)

大規模にリツイートされたツイートは大きく二つに分かれていることが分かります.

一つは,右上のグループで,シンプルに菅氏に対する批判を中心とした,「#スガやめろ」をそのまま使っているツイート群です.

30,480アカウントが116,452リツイート行っています.

このグループの代表的なツイートとしては,

等があります.

一方,下に出っ張っている部分が「#スガやめろ」というタグを揶揄したり批判したりしているツイート群になります.

アベ以外なら誰でもいいと言っていたのに,次はスガやめろかよ

といった内容のツイートが多く見受けられました.

こちらのグループのツイート群は,12,548アカウントによって17,330回リツイートがされています.

以降,前者のクラスタのツイートやリツイートしたアカウント群を「ハッシュタググループ」とし,後者を「反ハッシュタググループ」と呼ぶことにします.

ハッシュタググループは誰なのか?

今回このタグがトレンド入りした原動力となったのは誰なのか.

それを調べるために,ハッシュタググループのアカウントについて調べてみました.

まず,これらのアカウントがどの程度偏っているのか,普段リツイートする内容から分類しておいたコミュニティをもとにツイッター全体の分布からの乖離度を測りました.

その結果,ハッシュタググループの偏りは2.08,反ハッシュタググループの偏りは1.24でした.

もし,ランダムにアカウントを抽出して偏りを計算したとすると0.1程度になることが分かっていますので,どちらのグループもかなり偏ったコミュニティによってリツイートがされていたことが分かりました.

特に,ハッシュタググループに参加していたアカウントの60%が一つのコミュニティに所属するアカウントでした.本来このコミュニティに所属するアカウントは全体の1.5%程度のアカウントですので,この当該コミュニティのアカウントが特に積極的にリツイートしていたといえます.

このコミュニティに所属するアカウントが普段ツイートしている単語をワードクラウドにするとこんな感じです.

ハッシュタググループの半分以上を占めるコミュニティのワードクラウド(著者作成)
ハッシュタググループの半分以上を占めるコミュニティのワードクラウド(著者作成)

政治的な発言が多く,かつ安倍総理にたいして批判的なコミュニティであるということができそうです.

ツイッターデモを行ったアカウントとの関係

さて,今回の動きもツイッターデモの一環と捉えられているようですが,ツイッターデモといえば,「#検察庁法改正案に反対します」というタグが大規模に拡散したことが思い出されます.

この時は,ツイートリツイート合わせて4,732,473件ありましたので,今回の規模はその5%程度となり,極めて小規模なツイッターデモということはできそうです.

一方で,今回は同じ政権与党に関する政治的なツイッターデモということで,もしかすると同じようなアカウントによって行われたものかもしれないということで,「#検察庁法改正案に反対します」とツイートしたアカウントと,ハッシュタググループのアカウントを比較してみました.

その結果,ハッシュタググループの73.4%のアカウントは「#検察庁法改正案に反対します」に参加したアカウントであるということが分かりました.

逆に,今回のハッシュタググループが「#検察庁法改正案に反対します」に参加したアカウントに占める割合は7.1%程度でした.

以上から,今回のハッシュタグを拡散したグループは,「#検察庁法改正案に反対します」に参加したアカウントの一部によるものであるということが言えそうです.

分布から見る歪み

最後に今回のツイッターデモは自然なものだったのか,人工的なものだったのかをデータの歪みから見てみたいと思います.

まず,リツイート回数の頻度を両対数グラフで示したグラフがこちらになります.

リツイート数の頻度分布(著者作成)
リツイート数の頻度分布(著者作成)

こちらを見ると,リツイートされた回数が低いエリアで直線的になっていないことが分かります.通常,リツイート数の分布というのは両対数グラフで直線に乗るべき分布になることが知られていますが,今回はそうなっていません.

特に,3-5回,そして13回以上リツイートされたツイートの数が「べき分布」で予測されるよりも多いことが見て取れます.

このことから,リツイートは意図的に増やされていたのではないかという疑いがあります.

また,次にアカウントごとにリツイートした回数の分布をやはり両対数グラフで見てみましょう.

アカウントごとのリツイート数分布(著者作成)
アカウントごとのリツイート数分布(著者作成)

こちらは,先ほどのものと比べると直線的になっていますが,リツイート数11のアカウントと12のアカウントの間に不自然なジャンプがあります.ここからすぐに何かが言えるわけではありませんが,普段から見ているデータと比べるとやはり歪みがあるようで,意図的な動きがあるのではないかという疑いがもたれます.

なお,この意図的な何かというのは,ボットであるという証拠というつもりはなく,不正な操作だというつもりもありません.

ただ,自然発生的に生じた現象ではないだろうなということだけは言えるのではないかと思われます.

結論めいたもの

今回の分析の結果,「#スガやめろ」というハッシュタグがトレンド入りしましたが,一部のアカウントによる積極的なツイートによるものであることが分かりました.

もともとツイッター上の意見と世間一般の意見とは乖離があることは分かっていましたが,やはりトレンドに乗ればいいというものでもなさそうです.

もちろん,トレンドに乗せることによって様々な人の目に意見が止まるようになりますので,ツイッターデモ自体には一定の効果があるものだと思います.ただ,単に「トレンドに乗ったから成功だ!」で終わってしまうと,本当に届けたい人たちに情報を届けることができていないかもしれません.

ツイッターデモでも商品のプロモーションでも同じですが,どのように広がって誰に影響を与え,成功したのか失敗したのか,きちんとデータを分析して,正しく見極めることが重要ではないでしょうか.