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うがい薬が新型コロナに効果的という情報はネット上では拡散されなかったが,別の問題があった

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

イソジン祭り

吉村大阪府知事が,新型コロナウイルスの感染者に殺ウイルス効果のあるうがい薬でうがいをしてもらったところ、唾液(だえき)の検査で陽性となる割合が減ったとの研究結果を紹介したことで,うがい薬が品切れになるなど社会問題になっています.

この問題に対してネット上ではどのような反応があったか確認してみましょう.

ツイッターデータ分析

8月4日~5日18時までの間で,「ポビドンヨード,イソジン,府知事」など関連する単語を含むツイートを1,474,840件集めました.

1日半で150万近いツイートが投稿されていますから,かなり大きな話題になったことがわかります.

ちなみに,そのうちリツイートが109万程度で,オリジナルツイートは40万程度です.

一時間ごとのツイート数はこんな感じ.

一時間ごとのツイート数(著者作成)
一時間ごとのツイート数(著者作成)

データを見る限り8月4日14時20分くらいに吉村知事の会見が放送され,イソジンが効くという情報がテレビで流れたようです.すぐに話題となりましたが,17時30分には,医学情報を提供するアカウントから否定的なツイートがなされています.

それ以外のツイートも,10回以上拡散しているツイートにはこの時点で懐疑的なツイートや否定的なツイートが多く存在していました.

次に,関連ツイートで拡散した上位ツイートを見てみます.

もっとも拡散したのは2万回以上リツイートされたイソジンを買いに行く人たちを揶揄するツイートでした.

二番目にツイートされていたのはこちら.

そのほか,薬剤師さんのツイート

なども1万回以上リツイートされています.

上位10件をみると,いずれもポビドンヨードの効果に懐疑的なツイートや,転売を行う人に対する非難などでした.

そこで,拡散数上位100ツイートについてどのような内容だったのかを分類してみました.

手法は,根性マイニングを使いました.人間(著者)が目で見て確認するという,深層学習と比べても高い精度を誇る分析手法です.

その結果がこちら.

イソジン関係のツイートの分類(著者作成)
イソジン関係のツイートの分類(著者作成)

上位100ツイートの中に肯定的なツイートは一つもなく,医学的な見地からの否定や,政治的見地からの批判が半数を占めていました.

また,日本のツイッターらしくネタツイートも多数あったのにほっこりしますね.

個人的には,このネタツイートが一番好き.

拡散アカウントに基づくツイートの分類

次にリツイートしたアカウントに基づいた自動分類を行って,どのようなツイート群に分けられるかを分析してみましょう.

まず,分類した結果がこちらの図の通りになります.大まかに3つのグループが見つかりました.

アカウントに基づくツイートの分類(著者作成)
アカウントに基づくツイートの分類(著者作成)

まず図中のAは転売への批判や政治的批判などが中心です.イソジンを買いに走った人を情弱だと揶揄したり,吉村知事への批判,マスコミ批判などが中心です.

これらのツイートを拡散したアカウントは,11万アカウントでした.

また,これらのツイートを表すノードの色が濃いことから,これらの情報を拡散したアカウントは特定のコミュニティに偏っていたことがわかります.

1ツイート当たりの偏りを表す指標の平均は2.5でした.

次に,図中のBはネタツイートと,ポビドンヨードなどに効果がないことを医学的見地から説明しているツイート群でした.

12万アカウントほどによって拡散されており,偏りは比較的小さかったため,一般的なアカウントによって拡散されているツイートであったことがわかります.

ちなみに,1ツイート当たりの偏りを表す指標の平均は1.5で,A群と比べると小さい値です.

最後に,図中Cは吉村府知事によってツイートされたツイート群になります.

4948アカウントによって拡散されていました.偏りは1.2であり,もっとも偏りは小さく特定のアカウントによって拡散されていたわけではないことがわかります.なお,拡散を行っていたコミュニティは日常的に政治的な情報をリツイートするアカウント群によるコミュニティでした.

とはいえ,拡散したアカウントはほかの群に比べると5%以下ですので,吉村府知事のツイートはこの時点ではあまり拡散していなかったといえそうです.

以上の結果より,少なくともツイッター上ではポビドンヨードが効くという情報を拡散した人は少数派であり,ポビドンヨードによるうがいの効果は科学的には確定していないという情報が拡散されていたことがわかりました.

というわけで,トイレットペーパーの時のように「デマが拡散しているらしいから,騙される人に買われる前に買いに行かなきゃ!」とならないように注意しましょう.人は学習する生き物ですからね.

さらに言えば,医学的見地からはほぼ効果がないだろうということがコンセンサスとして取れているようですし,メルカリなどでの再販売にも問題があるみたいなので,イソジンを買い占めようとお考えの方はご参考に

しかし,8月6日の朝の段階でも結構テレビではうがい薬が売り切れているという空の棚を放送する番組が多いようです.トイレットペーパー不足デマの時と全く同じことをしていますね.こっちは,まるで成長していない・・・

否定と批判の分離

ところで,今回は分析していて興味深かったのが,同じイソジンは効かないというコンセンサスは共有しているにもかかわらず,批判を行うツイートと医学的に否定をしているツイートが異なるグループになったことです.

これは,医学的見地に興味を持っているアカウントと,批判をするアカウントは乖離しているということを意味します.

医学的に間違っている,だから批判する,という流れがあるのかと思っていたのですが,どうやらそうでもなく,とにかく批判するんだ,という姿勢を持ったアカウントが一定数(10万近く!)存在するということになります.

今回はほとんど意見が割れていなかったので特に問題はないかもしれませんが,意見が分かれるような話題の場合科学的に正しいかどうかを確認せずに批判を行うアカウントが一定数存在する可能性が示唆されます.

ツイッター上の意見に賛同して拡散する場合,科学的見地やデータに基づくエビデンスがある情報であることを併せて確認して情報を拡散するようにした方がフェイクニュースなどを拡散してしまう危険性が少ないのではないかなあと思います.

追記:A群が「政治的に」偏っているというのは言い過ぎでしたので,「特定のコミュニティに」偏っていると表現を改めました.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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