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【将棋】新世代の熱戦!白玲戦・女流順位戦:居飛車党若手女流棋士の昇級争い

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 第3期に入ったヒューリック杯白玲戦・女流順位戦は佳境を迎えていて、全クラスで残り2戦を残すのみです。

 この記事では、A級の挑戦争いと残留争い、B~D級の昇級争いについて解説していきます。

 なお各クラスの全成績は、日本将棋連盟HPの公式ページよりご確認ください。

A級 里見白玲への挑戦を目指して

1敗の西山女流三冠が単独トップ。2敗は表の2名のみ
1敗の西山女流三冠が単独トップ。2敗は表の2名のみ

 前白玲の西山女流三冠が1敗でトップを走っています。

 次戦、2敗の伊藤女流四段と直接対決を迎えます。

 この直接対決で伊藤女流四段が勝つと、もう一人の2敗である山根女流二段も加わり挑戦争いは混沌としてきます。

 逆に西山女流三冠が勝って山根女流二段が負けると、西山女流三冠の挑戦が決まります。

 今期A級の行方を占う大一番は、6月2日(金)にA級の他の対局と一緒に行われます。果たしてどんな展開となるでしょうか。

 なお、最終戦を終えて同星の場合、順位にかかわらずプレーオフで挑戦者を決めることになります。

降級は2名。まだ一人も決まっていない
降級は2名。まだ一人も決まっていない

 残留争いは表の4名にほぼ絞られました。

 一番苦しいのは中井女流六段で、残り2戦を連勝するのが絶対条件です。

 前期昇級組の上田女流四段と中村女流四段は前期成績に基づく順位が悪いこともあり、厳しい状況です。

 逆に渡部女流三段はこの2名より順位が上なので、残り2戦で1勝すれば残留が決まります。

 最終戦を終えて同星の場合、順位によって降級者を決めることになります。

B級 塚田女流二段が決定、あと1枠は大混戦

昇級は2名。塚田女流が決まり、残り1枠を3敗の5名で争う形だ
昇級は2名。塚田女流が決まり、残り1枠を3敗の5名で争う形だ

 塚田女流二段が全勝で昇級を決めて、今期女流順位戦における昇級第1号となりました。

 このクラスで頭ひとつ抜けていることを示す結果であり、来期のA級での戦いぶりが期待されます。

 4勝3敗の5名が昇級の残り1枠を争います。

 次戦、そのうちの4名が直接対決を迎えます。おそらく、残り2戦を連勝した人が昇級をつかむでしょう。大混戦です。

 なお、同日に行われたA級とB級の7回戦一斉対局では、すべての対局が振り飛車(1局だけ相振り飛車、それ以外は居飛車対振り飛車)という珍しい現象が起きました。

 女流棋士の上位に振り飛車党が多い証拠といえます。

 棋士のA級で振り飛車党が一人(菅井竜也八段)しかいないのとは対照的です。

C級 最後の1枠をめぐる争いか

昇級枠は3つ。伊奈川女流二段の昇級が決まっている。残り2枠は5名に絞られている
昇級枠は3つ。伊奈川女流二段の昇級が決まっている。残り2枠は5名に絞られている

 伊奈川女流二段が全勝で昇級を決めました。残り2戦で連敗しても、順位の差で3位以内が確定したためです。前期はB級から降級しましたが、今期はその実力をいかんなく発揮しました。

 同じく全勝の和田女流初段は残り2戦で1勝すればB級に昇級となります。

 表の6名は20~30代前半で、若手女流棋士による激しい昇級争いが続いています。

 その中でも最年少の加藤女流初段は連続昇級を狙っています。5回戦まで全勝できていましたが、6回戦に初黒星を喫しました。

 まだ3番手なので残り2戦を連勝すれば昇級が決まりますが、順位が悪いため一つでも負けると昇級に向けて暗雲が漂いそうです。

 なお、昇級圏内の3名は全員居飛車党です。B級で昇級を決めている塚田女流二段と合わせて、有望な若手女流棋士に居飛車党が多いことがうかがえます。

(5月18日に行われた延期分の室谷女流三段ー武富女流初段戦の結果を受けて、公開当初から一部文章を変更しています。)

D級 若手とベテランの激しいつば迫り合い

昇級枠は4つ。2敗者は表以外にも7名いる
昇級枠は4つ。2敗者は表以外にも7名いる

 5勝1敗で4名が並んでいます。渡辺女流二段と大島女流初段は6回戦で初黒星を喫したものの、まだ昇級圏内です。

 そしてこの二人が7回戦で対戦します。渡辺女流二段は勝つと昇級決定です。

 新参加の新人も上位につけていましたが、6回戦で軒並み黒星を喫して順位戦の厳しさを味わっています。

 その中で星を伸ばしたのが松下女流1級です。残り2戦を勝てば昇級となります。

 新参加の松下女流1級、参加2期目の内山女流初段・大島女流初段といった新人の活躍が目立っています。

 一方、ベテランも壁になるべく奮闘しています。

 タイトル獲得6期の矢内女流五段は、前期C級から降級、今期も連敗スタートでしたが、地力を発揮し始めました。

 順位と直接対決の関係で、残り2戦を勝てば昇級となります。

 なお、表に記載した7名のうち6名が居飛車党です。上位に振り飛車党が多いのとは対照的に、若手女流棋士や新人に居飛車党が多いのがいまの女流棋界の一つの特徴です。

BSフジで特集番組!

 様々な女流棋士に密着して知られざる素顔をみせてくれる、BSフジで放送中の『白玲 ~女流棋士No.1決定戦~』。

 次回は21日(日)14時~、放送が予定されています。

 今回はA級で挑戦争いをする山根女流二段と、D級で2敗につけている新人の佐々木海法女流1級に密着しています。

 女流棋士の対局以外の様子を見る機会は案外少ないため、筆者も毎回楽しみに観ています。

 リンク先では今年放送された過去の放送回を観ることも可能ですので、ぜひそちらもご覧ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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