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渡辺名人と羽生九段は、藤井聡太竜王「鉄壁の先手番」をどう崩すのか

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 藤井聡太竜王(20)のダブルタイトル戦が佳境を迎えている。

 渡辺明棋王(名人)(38)に挑戦する第48期棋王戦コナミグループ杯五番勝負は藤井竜王の2連勝、羽生善治九段(52)の挑戦を受ける第72期ALSOK杯王将戦七番勝負は2勝2敗だ。

 それぞれの次局となる棋王戦コナミグループ杯五番勝負第3局、ALSOK杯王将戦七番勝負第5局は、いずれも藤井竜王の先手番となる。

 藤井竜王は今期、先手番で27勝1敗(未放映のテレビ対局除く)と驚異の勝率を誇っている。

 その藤井竜王の先手番を渡辺名人と羽生九段はどう崩しにくるだろうか。

羽生九段の対策

 昨年の6月以降、藤井竜王は相手が2手目に△8四歩として作戦を委ねると、角換わり腰掛け銀を選択している。

 後手番をもった棋士は、角換わり腰掛け銀を受けるか否か、その選択を2手目にして迫られる。

王将戦は第4局まで終えて2勝2敗のタイ
王将戦は第4局まで終えて2勝2敗のタイ

 ALSOK杯王将戦七番勝負をみてみると、羽生九段は後手番では2手目に△3四歩として角換わり腰掛け銀を受けずに戦っている。

 第1局は一手損角換わりから相早繰り銀に。

 第3局は雁木に進んだ。

 第1局は中盤までは互角だったが、途中からは差がついてしまった。

 第3局は仕掛けからすぐに差がつき、そのまま藤井竜王が勝った。

 つまりいずれも作戦としてうまくいったとはいえない。

 では第5局で羽生九段はどう戦うだろうか。

 振り飛車の採用を待つファンも多いだろう。しかしその可能性は低い。

 昨年、振り飛車も試していた羽生九段だが、結果が伴わなかった。

 この大一番に採用するのは不安があるだろう。

 2手目△3四歩とした場合に相居飛車での選択肢がもう一つ残っている。それは羽生九段が若い頃から得意としている横歩取りである。

 今年度は後手番で11局も採用しており、勝率もいい。

 第1・3局で結果が出ている横歩取りを指さなかったのは、急所の一番にとっておいたのではないか。羽生九段は第5局で横歩取りを選択すると筆者は考える。

渡辺名人の対策

棋王戦は第2局まで終えて藤井竜王の2勝0敗
棋王戦は第2局まで終えて藤井竜王の2勝0敗

 棋王戦コナミグループ杯五番勝負の戦型をみると、渡辺名人が羽生九段と真逆の戦略をとっていることがわかる。

 後手番で角換わり腰掛け銀を受けて立ち、先手番でも角換わり腰掛け銀を用いているのだ。

 これはあくまで筆者の想像だが、渡辺名人はこの五番勝負を角換わり腰掛け銀シリーズと位置づけて、研究に心血を注いでいるのではないだろうか。

 ただ、第1・2局をみてみると、渡辺名人の研究がリードを奪うまでは至っていない。稀代の戦略家である渡辺名人の研究に立ち向かえるほどに藤井竜王の角換わり腰掛け銀の研究が整っているといえよう。

 渡辺名人と羽生九段の戦略の違いは、元々持っている将棋の性質、つまり棋風によるものと思われる。

 羽生九段は若い頃からオールラウンドプレーヤーで、あらゆる戦型を指してきた。

 一方、渡辺名人は若い頃からカチッとした定跡形を好んでいた。

 これまでの足跡が、いまの作戦選択にも影響を及ぼしていそうだ。

 この棋風を急に変えるのは難しく、第3局も渡辺名人は藤井竜王の角換わり腰掛け銀を受けて立つだろう。

 角換わり腰掛け銀の後手番はわりと対策を絞って待ちやすい。この大一番に渡辺名人がどのような策で藤井竜王の得意戦法を受けて立つか、注目される。

スケジュールと朝日杯

 ダブルタイトル戦で次に行われるのはALSOK杯王将戦七番勝負第5局で、2月25・26日(土・日)に島根県大田市で行われる。

 羽生九段は横歩取りを採用するのか、1日目から目が離せない。

 もし羽生九段がこの後手番で勝てば、第6局をこれまで負けていない先手番で迎えるだけに、いよいよタイトル獲得通算100期が現実味を帯びてくる。

 棋王戦コナミグループ杯第3局は3月5日(日)に新潟県新潟市で行われるが、実はその前に藤井竜王と渡辺名人が対戦する可能性がある。

 それは明日(23日)行われる第16回朝日杯将棋オープン戦準決勝・決勝で、もし準決勝で藤井竜王と渡辺名人が勝った場合、決勝でこの二人が対戦するのだ。

 このようにタイトル戦の合間に他の棋戦で顔を合わせることもよくあって、そういった時の作戦選択には難しさも生じる。

 ここで対戦が生じることにより、棋王戦での作戦選択に影響が出る可能性もあるのだ。

 藤井竜王は準決勝で豊島将之九段(32)と対戦する。

 トップ棋士が集結する豪華な一日だ。ダブルタイトル戦の行方も気になるところだが、朝日杯にもぜひご注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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