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【将棋】波乱のラス前を終えて、いざ最終戦へ~第2期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦~

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
A級の星取表 記事中の画像作成:筆者

 西山白玲への挑戦権と昇級を目指す第2期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦は各クラス最終戦を残すのみとなった。

 A級では里見香奈女流四冠と伊藤沙恵女流名人が挑戦権を争う。残留争いも熾烈だ。

 B級は昇降級が全て決まり、C・D級では昇級をかけた激闘が続いている。

 各クラスの全成績は公式ページをご参照ください。

 先月の記事は【将棋】女流棋士の順位戦が佳境へ~第2期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦は残り2戦~

 ここでは、ラス前の結果と最終戦の展望をお届けする。

A級

挑戦権争いは表の二人に絞られた
挑戦権争いは表の二人に絞られた

 前回の記事の後に延期されていた対局が行われ、里見女流四冠が初黒星を喫した。

 しかしラス前では勝利して1敗をキープ。伊藤女流名人もラス前に勝って2敗で追っている。

◎最終戦のパターン

・里見●and伊藤○→二人でのプレーオフ

・上記以外→里見挑戦

 第1期では七番勝負への出場がかなわず悔しい思いをした里見女流四冠。

 有利な状況を生かしてこの第2期にその思いをぶつけたい。

表の3名のうち、1名が残留、2名が降級となる。 %は、勝ち負けを50%として残留の確率を算出したもの
表の3名のうち、1名が残留、2名が降級となる。 %は、勝ち負けを50%として残留の確率を算出したもの

 残留争いは表の3名に絞られた。

 石本女流二段は貴重な2勝目をあげて残留に望みをつないでいる。

◎最終戦の残留パターン

・山根女流の残留→自身○or石本と鈴木が●

・石本女流の残留→自身○and山根が●

・鈴木女流の残留→自身○and山根と石本が●

 3勝をあげている山根女流二段は勝てば残留が決まる有利な状況だ。

 一番苦しいのが鈴木女流三段で、自身が勝って、なお二人共に負けた場合のみ残留となる。

 最終戦では、里見女流四冠ー石本女流二段が挑戦と残留をかけた大一番だ。

B級

昇級は2名。最終戦を前に決まっている
昇級は2名。最終戦を前に決まっている

 前回の記事では10名中6名が昇級争いに絡む大混戦とお伝えしたが、上位の2名が勝って競争相手が敗れたため、中村女流三段と上田女流四段の昇級が決まった。

 直接対決となった香川女流四段ー中村女流三段は、中村女流三段が持ち味の終盤力を発揮して際どい戦いを制した。

 同じく直接対決となった上田女流四段ー岩根女流三段は、上田女流四段が得意の穴熊から強引に相手玉を寄せ切った。

 どちらもA級昇級に華を添える強い内容だった。

 一方、2敗だった塚田女流初段は痛恨の敗戦で昇級戦線から脱落した。

 このあたりは、タイトル戦などで修羅場をくぐってきた二人と若手との差かもしれない。

 とはいえ、こうした厳しい結果を経ることでトップの女流棋士は強さを増している。塚田女流初段には来期の活躍を期待したい。

 そして降級の3名(伊奈川女流二段・武富女流初段・小高女流初段)も全て決まった。

 20代前半でB級入りした武富女流初段と小高女流初段だが、今回は上位の厚い壁に跳ね返される結果となった。

 今回降級の憂き目にあった3名は、非公式のレーティングサイトにおいてB級で8・9・10位だった。

 力をつけないとB級では通用しないことがよく表れた結果でもあった。

C級

昇級は3名。まだ一人も決まっていない。%は、勝ち負けを50%として昇級の確率を算出したもの
昇級は3名。まだ一人も決まっていない。%は、勝ち負けを50%として昇級の確率を算出したもの

 ラス前の大一番、山田女流四段ー野原女流初段の1敗対決は山田女流四段が強い内容で野原女流初段を圧倒した。

 また、全勝だった室田女流二段が初黒星を喫した。

 結果的に一人も昇級が決まらず、2敗勢にもチャンスが出てきた。

 可能性があるのは上記の表にある7名である。

◎最終戦の昇級パターン

・室田女流二段→自身○or山田か野原か清水が●

・山田女流四段→自身○or野原か清水が●

・野原女流初段→自身○

 室田女流二段は依然として有利な状況にあることは間違いない。

 直接対決に敗れた野原女流初段は負けると脱落が決定する。

 これだけ星が拮抗すると前期成績に基づく順位が大きくモノを言う。

◎最終戦の昇級パターン

・清水女流七段→自身○and上位3名のうち一人●

・頼本女流初段→自身○and清水と野原が●

 同じ2敗でも順位の差でこれだけ状況に違いがあるのだ。

 これぞ順位戦といえる。

 最終戦は全員にプレッシャーがかかる。特にラス前で勝てば昇級が決まっていた室田女流二段と野原女流初段は精神的にかなり難しいだろう。

 対して山田女流四段と清水女流七段には、ベテランならではの豊富な経験がある。

 果たしてどんな結末を迎えるのか。最後までわからない。

D級

昇級は4名。加藤女流のみ決まっている %は自力の女流棋士のみ算出
昇級は4名。加藤女流のみ決まっている %は自力の女流棋士のみ算出

 ラス前は大波乱となった。

 直接対決の大一番、中村女流二段ー田中女流2級は互いの気持ちのこもった熱い戦いの末、田中女流2級が死闘を制した。

 そして全勝と1敗勢の中で勝ったのはこの田中女流2級だけだった。

 この結果、加藤女流初段の昇級が決定。第2期の最初の昇級決定者となり、また10代の女流棋士の昇級第1号となった。

 そして残りの昇級枠は3名。可能性があるのは表のメンバーである。

 それにしてもラス前でここまで波乱が起きるとは。リーグが終盤にくるほどプレッシャーがかかり、普段の実力が出せなくなる順位戦の怖さといえよう。

 残り3枠のうち、自力(※)の権利を持つのは4名だ。

・直接対決を控える山口女流二段と高浜女流1級

・現在2位の田中女流2級と現在3位の中村女流二段

※自力とは、自身が勝てば周りの星に関係なく昇級が決まる状況をさす

 最終戦の山口女流二段ー高浜女流1級は今期の白玲戦の中でもっとも大きな一番といえる。

 勝てば昇級が決まり、負けると脱落が決まる。天国と地獄を分ける一戦だ。

 棋士の順位戦でも同様だが、下のクラスでもこういう大きな一番を経験できるのが順位戦の良さであり、これが人を強くする。

 棋戦創設時に主催であるヒューリック社の西浦三郎代表取締役会長が「女流棋士にはもっと強くなってほしい」と語っていたが、それがまさにこういう形で実現している。

◎最終戦の昇級パターン

・田中女流初段→自身○or中村・水町・貞升のうち2人が●

・中村女流二段→自身○or水町と貞升が●

 直接対決で勝った田中女流2級は有利な状況にある。女流棋士になるのに苦労した田中女流2級は、初戦に負けてから6連勝と勢いに乗っている。

 昇級を果たせば初の「初参加から1期抜け」となり、白玲戦の歴史に名を刻むことになる。

 直接対決で敗れても自力の権利を有す中村女流にはツキがある。相手は最近好調の渡辺女流初段で難敵ではあるが、この状況をなんとか生かしたい。

 ラス前の波乱を考えると、最後まで何が起こるかわからない。

 当事者たちは、大きなプレッシャーを抱えて一ヶ月を過ごすことになる。

本日BSフジで放送!

 長かったリーグもいよいよ最終戦を残すのみとなった。

 日程は下記となる。

 7月11日(月):D級一斉対局

 7月13日(水):A級&B級一斉対局

 7月15日(金):C級一斉対局

 一週間のうちに全ての運命が決まる。ぜひご注目いただきたい。

 様々な女流棋士に密着して知られざる素顔をみせてくれる、BSフジで放送中の『白玲 ~初代女流棋士No.1決定戦~』。

 本日(19日)14時~、放送が予定されている。

 今回はどの女流棋士に密着しているのだろうか。筆者も楽しみにしている。

 リンク先では今年放送された過去の放送回を観ることも可能なので、ぜひご覧ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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