配信ライヴを“一時しのぎ”にさせなかった“おもしろそう”の追求(和田明「ジャズプロ」インタヴュー)

横浜のジャズ・シーンを取材するうちに声をかけられて、横濱JAZZ PROMENADE(ジャズプロ)を手伝うようになりました。2020年は、当初からプロ・ミュージシャンが出演するホール会場での開催を半分に減らして、その代わりに“ジャズプロらしさ”をもっと感じられるプログラムにしようという方針で進められ、2日間50数ステージとなったイヴェント(従来のほぼ半分)の、出演者の選定と交渉などに関わりました。それが2019年晩秋から2020年初頭にかけてのこと。

しかし、出演者を決め交渉もほぼ終えた3月、世の中はコロナ禍の影響で、音楽イヴェントを自粛する動きが加速。実行委員会プログラム部会の会合も、リアルからZoomによるテレワークとなって、その何回目かの時点で「緊急事態宣言」の発出が伝えられたことから、それまで決めたことをすべて白紙に戻す決断に至りました。

実はこのジャズプロ、1993年の第1回開催から雨にも負けず金(のなさ)にも負けずに続けられていたそうなのですが、2019年は台風19号関東直撃が予想されたため、初めての中止を余儀なくされたこともあり、「2年連続で開催しないのか?」という危機感が、関係者の懸案になっていきました。

代替的な方法でもいいから、なんとか開催というかたちにこぎ着けることはできないか──。

そこで浮上したのが、オンライン開催という案。急遽、どのようなプログラムにするかを話し合い、キャンセルせずに残した赤レンガ倉庫1号館を会場に、予定していた10月10日と11日の2日間でそれぞれ3ステージずつ、無観客の6ステージをインターネットで無料配信するという計画が実行に移されることになったのです。

そうしたなかで、「ヨコハマ=ジャズプロらしさ」「次代を担う若手」「オリジナリティ」といった、プログラム部会が設けたハードルを楽々と飛び越えて存在を主張したのが、和田明だったのです。

彼の歌をボクがリアルで体験したのは2019年4月10日に横浜・野毛のジャズ喫茶ちぐさで開催されたライヴでのこと。“ジャズ発祥の地である横浜から次世代のミュージシャンの後押しをする”という趣旨で、一般社団法人横浜JAZZ協会が横浜のジャズクラブと共催で企画するシリーズ公演の初回を飾ったその夜、ギターの杉山彗とデュオで登場した和田明は、ちぐさ賞の最高賞とオーディエンス賞をダブルで受賞した前評判どおりのパフォーマンスで、詰めかけた観客を酔わせてくれました。

まあ、それだけなら「けっこう上手い若手がいる」という程度で、記憶に残っていたかどうかというものだったのですが、ボクの彼に対する認識を大きく変えたのが、2019年10月6日の東京・半蔵門にあるFM東京のスタジオでの出来事。

この日は、ジャズプロゆかりのミュージシャンを集めてセッションを収録する『ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト』 というアルバムの制作があり、ボクは前室で出入りする人たちのようすを見ていました。

当日は、22人のミュージシャンが朝から入れ替わり立ち替わりスタジオでセッションを繰り広げ、ジャズならではの一発勝負的な演奏が次々と記録されていったのですが、前室では旧交を温めたりするミュージシャンたちの“別の表情”があり、ボクはそちらを楽しんでいた──というわけです。

そのなかで、そろそろ収録予定も数曲を残すばかりというところで現われたのが、和田明でした。彼は、宮脇惇(cl)、小川恵里沙(fl)、浅葉裕文(g)、遠山晃司(b)、竹内武(ds)とともに「アイム・ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト」のセッションに参加。段取りを聞いたあとに前室に出てきた彼は、持参したギターを取り出して、その場でメンバーと曲の構成やコード・アレンジについて、実演を交えながらアイデアをかたちにしていったのです。

ボクの頭のなかにはこの光景が残っていて、和田明にジャズプロ配信ステージへの出演オファーをする際にも、「なにかやってみませんか?」というボンヤリとした、こちらからのお仕着せではないユニークなステージを披露してくれるのではないかと期待していた、というのが今回のインタヴューまでの前説。

では、その続きを、本人に語っていただきましょう。

和田明 (c)Kentaro Yamadera
和田明 (c)Kentaro Yamadera

和田明(vo)

NYへの短期渡米を経て2015年に上京。若手ジャズミュージシャンの登竜門といわれるちぐさ賞で最高賞とオーディエンス賞をダブル受賞。2017年、ちぐさレコードよりアルバム『ESSENCE』発表。大手新聞社各社や、Jazz雑誌、ラジオ等で取り上げられる。2018年、motion blue Yokohamaでのワンマンと、渋谷JZ bratでのワンマンがそれぞれソールドアウト。2019年、クルーズ船「にっぽん丸」にて4日間の公演。スマートニュースが選ぶ「おすすめのジャズシンガー10選。世界的シンガーから現代ジャズまで」に選出。桑原あい(p)のディズニー音楽ジャズカバーアルバムの「塔の上のラプンツェル」に参加。また、年末に大阪ホテルニューオータニで行われた小柳ゆき(vo)のカウントダウンライヴに参加。篠原涼子が出演する日本和装のテレビCMでアカペラ歌唱。東京スカイツリー、KOSEなどのCM制作、アニメ「ボールルームへようこそ」等の劇中歌も歌唱している。制作に携わった指宿白水館のラジオCMで第53回ACC広告大賞受賞。自身の主催するヴォーカル・スクール「feels」で代表兼講師を務める。エンタテインメント性の高いステージと、音楽性の高い歌唱、そして「スモーキー・ヴェルヴェット」と評される独特な声が魅力のシンガーである。

♪ やったことがない“もっとヤバいこと”を選んだオファー

和田明のステージ・ショット (c)コセリエ
和田明のステージ・ショット (c)コセリエ

──ジャズプロ2020が無観客の無料配信になったときに、どうせならおもしろいことをやってくれそうな人にオファーしたいと思ったんです。

それ、嬉しい話ですね(笑)。

──その際に、2つの異なる案を出してくれましたよね。

そうでしたね。ひとつはオルガンとドラムスと、僕がギターを弾きながら歌うというもの。これはジャズクラブに出演するときにやったことがあったものでした。

もうひとつは、自分でも「なにかおもしろいこと」と考えていたなかで、曽根麻央(tp)となにかやってみたいと、ずっと思っていたんです。

彼とは、あるイヴェントで一緒にセッションしたことがあったんですけれど、そのとき、まさに“雷に打たれたような”衝撃的な印象を与えてくれたんですよ。で、いつかどこかで、ちゃんとしたステージで彼と共演したい、と思うようになっていたんです。ジャズプロのお話をいただいたときに、それを実現するのにピッタリなんじゃないか、と。

ほかのメンバー、石田衛さん(p)と山田玲(ds)は、伊藤勇司(b)の仕事に呼ばれたときに一緒になった顔ぶれなんですけれど、このときがすごく楽しかった。「あれ? ここに曽根麻央が入ってくれたら、もっとヤバいことになるんじゃないかな!」と思ったので、その案を出したんです。

──緊急事態宣言が続いていた5月のゴールデンウィーク明けぐらいに、そろそろ正式に決めなければならなくなって、「2つの案のうちどちらにしますか」と尋ねたんでしたよね。

そうそう、あの時点ではまだ曽根麻央参加の案が固まっていたわけではなかったのですが、決めてほしいと言われたので決めちゃいました(笑)。

──なにか手応えがあったから決めた、というのではなかったんですね(笑)。

はい(笑)。どうなるかわからないけれど、好奇心の鮮度みたいなものに従ったというか……。

──好奇心の鮮度?

これが実現できたら、絶対に楽しいはずだというような、自分のなかの尺度みたいなものですね。それに従うと、たいていの物事は良い方向へ進んでくれるんですよ。想像どおりというか、それ以上のものになることが多い。そんな“勘”みたいなものですね。

第4回ちぐさ賞(2016年)の受賞記念で制作された和田明『ESSENCE』のジャケット(著者スクショ)

──和田さんの名前がプログラム部会で挙がったのは、ちぐさ賞の受賞者で、昨年の横浜JAZZ協会共催ライヴに出演したことが大きかったんですよ。つまり、「なにかやりませんか?」とお願いしても、ジャズ・スタンダードを軸に展開するようなオーソドックスなプログラムになる可能性も高く、それも悪くないという判断がこちら側にあった。でも、まさかあそこまで新しいチャレンジをやってくれるとは……。もちろん、ジャズ・ヴォーカルの伝統的なテイストを残しながら、若い世代ならではの切り口で挑んでくれたっていうのは、すごくよかったと思っているし、本当にお願いしてよかったと、そのときボクは舞台裏にいたので、モニター越しでしたけれどワクワクしながら観ていたんですよ(笑)。

ありがとうございます(笑)。

──ステージの組み立てについては、どんな感じで進めていたのですか?

ジャズの場合、リハーサルをしないほうがいい場合もあると、経験的に思っているんです。でも、今回は、リハーサルをやることにしました。メンバーから「配信でより多くの人に観てもらうのなら、やっておいたほうがいいんじゃないか」という提案をいただいたこともあったので、それなら自分が考えていた創作的な活動もそこに加味して表現できるんじゃないかと思ったので。

もちろん僕が勝手に感じている、横浜の皆さんが僕に対して抱いている音楽的なイメージとか、「ちぐさ賞受賞者なんだから」という視線もあることは承知していたので、両立できるようにという想いはありました。

スタンダードなジャズ・ヴォーカルじゃない面という部分では、自分の曲を取り上げていたんですが、元々はそれをアコースティックじゃない編成でやっていたので、あの編成とジャズの雰囲気に落とし込めるようにシンプルなアレンジにしてみたり、セット・リストの組み方も工夫したりしていました。

でも、やってみて気がついたんですが、結局は僕の想いがどうのではなく、演奏する人たちが自分のセンスで遊べる空間を残せる曲を選んだ、ということだったのかな、って。

──“遊べる空間“ということでは、ソロで掛け合う場面がすばらしいと、本番中のコメント欄でも話題になっていたのを覚えているんですが、それは計算どおりだった?

計算というか、メンバーを信じていたという感じですね。

──フロントがヴォーカルとギターの2人になると、“空間”の取り方も難しくなるのではないかと。

確かに、ドラムス、ベース、ピアノに歌が入るというのは、とてもバランスが取れた編成で、そこにもう1人入ると、良い雰囲気が増幅される場合と、なんとなく無駄に組み合うだけみたいで終わるケースが、いままでにもありました。

これに関しては、曽根麻央の名前を出して話をしなければならないと思うんですが、彼と初めて一緒に音を出したときに、なんて言うか……、コミュニケーションは誰でも大切だと思って演奏していると思うんですが、その取り方が知的というか意図を感じるというか……。

自分のパートだから音を埋めているとか、なんとなく付き合って喋っているという感じじゃないんですよ。伝えたいからその言葉を選んだんだろうというような、そういう“なにか”を彼から感じていたので、この編成でやっても「大丈夫!」って思っていたんです。

彼は、僕以上に音楽的な“言語”をたくさん知っていると思うから、僕がやりたいことも酌んでくれる。そういう懐の深さも感じるし、単純に好きなタイプのプレイヤーなんです。

──曽根麻央さんの“知的な演奏”というのは?

聞こえてきた音に対して反射的に演奏しているんじゃなくて、一度自分のなかのフィルターを通すというか……。

──反射的じゃないというのは、気分で音を選んでいるのではないという意味?

そうですね。意志とか考え方とか、自分のポリシーとか。そういうものを、発する音に反映させる“間”があるというか。フレーズひとつ取っても、そういうものを感じさせるんです。

つまり、生き方が音に乗っている、みたいな……。音にそういうものが現われていると感じているから、“知性がある”って思うんでしょうね。野性的とは違うんです。もし彼が“野性”を表現したいときは、考えたうえでそういうプレイをする、ということです。

しかも、そういう使い分け方のスイッチが見えない。オンもオフもなくて、シームレスにいろいろな考え方をもとにした音が発せられるんですよ。

♪ コロナ対応のライヴで見えた未来とは

和田明のステージ・ショット (c)コセリエ
和田明のステージ・ショット (c)コセリエ

──無観客での配信ライヴの印象はどうでしたか?

まず、ジャズプロは、コロナ対策という面でとてもきちんとした対応をしていただけたことに感謝しています。それによって、出演側が音楽のことだけを考えればいいという環境を整えてくれたことが、良い結果にもつながっていると思います。

配信という点では、僕が思っていたいちばんの課題は“フィードバック”だったんです。会場にお客さんがいれば拍手なりなんなりの反応があって、それを含めてライヴが成立するわけですけれど、今回はそれがないという前提だったわけですから。

でも、フタを開けてみたら、コメント欄に拍手の絵文字が並んだりと、フィードバックがないわけじゃなかった。あれ、めちゃくちゃいいですよね(笑)。

そういう意味で、「観ている人がいない」という不安が「ちゃんと観てもらえている」というパワーに変わったことを実感できたのは大きかったと思います。

──最初は、リアル開催の代替、つまり観客を入れられないから“仕方なく”配信するしかなかったという、消極的な選択だったことも否定できないんですが、音楽フェスにとって配信は“一時しのぎ”にはとどまらないかもしれないと思えますか?

アリかナシかといえば、大アリじゃないですかね。というのは、物理的に会場へ来ることができない人にとって、最高のサーヴィスになりましたよね。

今回のコロナ禍で、配信に対するニーズにブーストがかかったというか、流れはグッと傾いたと感じているんですけれど、どういう方法であっても観たいと思っている人に届けられるというのは、すごく良いことだと思うんですよ。

とはいえ、実際にステージを前にしなければ感じられない空気の振動とか音圧といった、生ならではの情報量の多さは、まだまだ配信とは比べものにならないのも事実でしょう。どちらにしても、その視聴方法ならではの魅力をちゃんと分けて考えていく必要があるのかもしれませんね。

──春から夏が終わるまでの半年のほとんどを自粛しなければならない異例の年でしたが、和田明さんは「かごジャズ」や「ジャズプロ」といった配信でのフェスに積極的に関わっただけでなく、先日も松本圭使さん(p)と鹿児島〜東京をつないでのデュオを生配信するなど、活動の内容が変わってきていると感じるのですが、ご本人としてはいかがですか?

今回のコロナ禍で、自分がどんな力をもっているのかということがすごく試されているような気がしているんです。それは、人と直接逢うことができなくなったり、集まることが推奨されなくなったことが原因ですが、じゃあ自分にはなにができるのか、自分ひとりでどこまでやれるのか、そういうことを考える機会がすごく増えたと感じるんですね。

僕はいま、自宅で録音できる環境を整えているんです。つまり、誰かといろいろな装置を使ってでもつながることで、リアルなセッションに匹敵するパフォーマンスを実現するための準備です。

リアルで集まって、チームならではの結果の出し方についてはすでに実行してきたわけですけれど、それをリアル以外の方法にも応用できるようにと思っているんです。実はいま、その方向性を実現すべく、レコーディングを終えて、マスタリングの最中なんです。

もうひとつ、コロナ収束についてはなかなか難しいようですが、その状況で僕にできることというのは創作活動かな、と……。曲を書いて、それを発表していくという方法として、インターネットを使った配信はライヴ活動としての利用よりも重要になるのではないかと思っています。

あと、いま、ロック・バンドをやろうと計画しているんですよ(笑)。

──ロック!

自分の原初的な音楽体験って、デカいと思っているんですけど、いまだにメラメラと燃え出すんですよね(笑)。

ドラムスとベース、それにギター&ヴォーカルの、ジャジーなコード・ワークでアコースティックなんだけど、サウンド的にはロックに届きそうな、激しいのをやってみたいと思っていて、スタートしたところなんです。

──それ、おもしろそうですね(笑)。

そう、僕は“おもしろそう”を届けたいんですよ。“おもしろそう”と思うことをやって、それを“おもしろそう”と思ってもらえるって、いちばん素敵なことなんじゃないかと思うんですよね。「え?」って驚くような、好奇心が刺激される出来事を発信していきたい。その想いに基づいた活動を展開していきたいと思っています。

──楽しみです。ありがとうございました。