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三段構えジャズ・フェスでちょっと異色を楽しんだ荒天の午後

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

台風21号が本州上陸をうかがおうとしている

10月22日の日曜日。

浜松駅前にあるアクトシティ浜松の大ホールで

恒例のヤマハ・ジャズ・フェスティバルが

無事に開催されました。

当日は朝からの厳戒態勢のおかげで、

野外で予定されていたジャズ・ライヴが

全面的に中止という状態でした。

ボクも横浜からの交通機関状況次第では

浜松にたどり着けないかも……という

不安を抱きながら少し早めに家を出たのですが、

新幹線は遅れることもなく予定どおり到着。

時間に余裕ができたおかげで

名物の蒲焼きをランチでいただくという

ちょっとした贅沢を味わいながら、

開演を待つことになりました。

Part 1 “2 TENORS” featuring 三木俊雄 & Eric Alexander

最初のステージに登場したのは、

三木俊雄とエリック・アレキサンダーという

2人のテナー・サックス奏者をフロントに据えた

2管クインテット・フォーマット。

コルトレーン歿後50周年ということで、

テナー・サックス奏者である2人が選んだのは

5曲中3曲がコルトレーンにちなんだ曲。

この“コルトレーン”というバイアスが

かかったことによって、

2管フロントというハードバビッシュな

スタイルであったにもかかわらず、

さらに言えば“テナー・マッドネス”な

先入観をわざと与えていたにもかかわらず、

とてもユニークな

サウンド・コンビネーションを

展開するステージになりました。

ユニークだと感じたのは、

同じテナーという楽器で

ソロを取るのに

競い合うというよりは、

内面を掘り下げていくように

お互いを意識しながら

演奏していた点。

“テナー・マッドネス”とは、

ソニー・ロリンズのアルバムに

コルトレーンが加わった

1956年録音のタイトル・チューン。

このアルバム、テナー奏者の

バトル・シリーズの一環として

位置づけられているのですが、

(1950年代当時、こうしたバトルの

企画ものアルバムが流行っていたんです)

ボクはどうもこの“バトル”という言葉と

この“テナー・マッドネス”の演奏が

シックリとなじまなかったんですね。

それを思い出させてくれたのが

このステージでした。

つまり、高低差でのハモリ効果を

狙うための2管でもなく、

フレーズのアイデアのユニークさを

競い合うものでもない。

ラインが絡み合うようなイメージで

1つになりそうになりながら、

そこからすり抜けて違う風景へ

移っていくような展開。

持ち味と個性的なアイデアを表現するために

それぞれがワン・ホーンで演奏する曲を

用意していたことからも、

2管で演奏する曲がそれとは異なる

コンセプションだったことが

わかるのではないでしょうか。

Part 2 小野リサ with Brazilian Friends 2017

ヤマハ・ジャズ・フェスティバル

というイヴェントは、

ボーダーを押し広げながらも

ジャズというカテゴライズを

かたくなに守ってきたところが

あると思っていました。

それを大きく転換させる

“実績”となるに違いないのが、

小野リサの出演ではないかと

思っています。

彼女のスタンディング・ポジションは

ブラジリアン・ポップス。

1999年のアルバム『ドリーム』では

全編でジャズ・スタンダードを取り上げ、

“ジャズ歌い”としても評価を得ていた彼女。

しかしこのステージでは、

ブラジリアン・シンガーである自分を

包み隠さず表現することに集中していたのです。

1曲目は「マシュ・ケ・ナダ」で始まる

サンバをテーマにしたメドレー。

続いては「イパネマの娘」と、

観客のイメージをブラジル一色に

してしまう勢いの選曲で

攻め立ててきました。

なにしろ共演のバンドにさえ

“ブラジリアン・フレンズ”と

名付けていたのですから。

3曲目こそスティングの

「フラジャイル」でしたが、

これもポルトガル語ヴァージョン。

中盤からブラジリアン・ポップスの気鋭

デヴィッド・シルバを迎えると、

そのブラジリアン度はますます加速。

たしかに日本ではボサノヴァが

ジャズでのレパートリーとして

市民権を獲得しているのは事実。

しかし、それをあえて彼女は

ジャズ側からではなく、

ブラジル側からジャズに対して

主張しようとしたのではないでしょうか。

いや、その気骨もまた、

ジャズであると

思うんですけれどね。

Part 3 挾間美帆 m_unit

3幕目は、ジャズ作曲家・挾間美帆率いる

ラージ・アンサンブル・ジャズ・ユニット

m_unit(エム・ユニット)のステージ。

ジャズにおけるラージ・アンサンブルの

定番と言えばビッグバンド。

しかし、上手には管楽器を配しながら

下手には弦楽四重奏団(弦クァル)が

鎮座するという珍しい光景。

しかし、よく考えてみるとこの編成、

ポップス楽団などでは別に珍しくも

ないんじゃなかったかな。。。

ジャズのビッグバンドに対する

固定概念がありすぎるために

ちょっとしたイレギュラーにも

過剰に反応してしまうのは

恥ずかしいことだと反省。

しかし、この編成から繰り出される

サウンドはとてもポップス楽団とは

比べようもないほどイレギュラー。

挾間美帆のステージはたいてい

新しい曲を何曲か用意しているけれど、

今回もアルバム未収録や日本初演など

盛りだくさんだったので刺激的。

ソロやソリなどビッグバンド的な

アプローチも独自の解釈で展開し、

“違和感”で終わらせないところが

この人の才能と言えるところでしょう。

そう、だからパフォーマーではなく

“ジャズ作曲家”を標榜しているのです。

演って終わりではなく、

ちゃんとカタチが見えてくる。

まとめ

画像

26回を数える日本有数のジャズ・フェス

今年も好評のうちに幕を下ろしました。

コンボ、ヴォーカル、ラージ・アンサンブル

という3部で構成することによって、

現在のジャズを広い視野で切り取ることに

成功しているジャズ・フェス企画と言えます。

それもこれも運営の皆さんの熱意のタマモノ。

なるほど、その熱意のおかげで、

台風もたじろいでしまったというわけですね。

来年もまた

ストリート・ジャズ・フェスも含めて

さらなる盛り上がりを期待してます。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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