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アジア太平洋がテイラー・スウィフトに期待するなか、中国の春節消費はどうだったのか

富坂聰拓殖大学海外事情研究所教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 スウィフトノミクスは、アジアでも通用するのか――。

 答えを提示したのはシンガポールのテレビ局CNAだ。ニュース番組『アジアトゥデイ』は17日、その効果をこう紹介した。

〈テイラー・スウィフトさんのコンサートツアーが続いているアジア太平洋でも、彼女のファンのお陰で、スウィフトノミクスとも呼ばれる経済効果が起きそうです。昨年、5年ぶりとなるスウィフトさんのツアーの興行収入はおよそ10億ドル。今年も同規模の収入が見込まれています。ツアー開催による経済効果は絶大で、アメリカでは去年その経済効果は50億ドル弱にもなったといわれています〉

 その同じCNAが同じ番組のなかで取り上げたのが、中国の春節期間中の消費だ。

個人消費は回復の兆し

 コーナーの冒頭ではキャスターが、〈中国では春節の連休中の国内旅行が拡大し、景気の低迷とデフレに苦しむ世界第二位の経済に個人消費回復の兆しが見えてきました〉と、前向きに解説した。

 決して好調とは言えない不景気のなかで迎えた春節。その消費の一大シーズンの出来栄えはどうだったのか。CNAは、〈国内の移動のべ人数は対前年比で61%の増加となり過去5年間で最高を記録し、電子商取引を利用したホテルの売り上げもプラス60%となった〉(同前)と報告した。

 今年の春節の連休は2月。昨年の1月とは時期がずれるため、単純に対前年比の数字で増減を判断することはできないが、それを割り引いても「まずまずの合格点であった」ということだ。

 実際、今年の春節の連休中(2月10日から17日)国内旅行者数は前年と比べ34・3%増え、〈国内旅行者の消費額は6327億元(約13兆円)で(中略)7・7%増となった〉と『朝日新聞デジタル』(2月19日)は報じている。中国株も、米ブルームバーグが事前に予告していた(「中国本土株、力強い取引再開か―大型連休のデータ好調」2月18日)ように、香港でも上海でもほぼ全面高で大引けとなった。

中国本土株も好調?

 中国を覆っていた消費の冷え込みは、先行きの不透明感や不動産市況の悪化など、根深い理由も絡んでいるだけに、単に春節期間の消費が好調だったというだけで、それが復調を意味するのかどうかは疑問だが、その一方で日本のメディアにあふれる「不動産バブル崩壊で日本と同じ『失われた30年』へ」といった言説にも、冷や水を浴びせかけることになった。

 中国経済については、2023年のGDP(国内総生産)成長率が5・2%だったことに対して、一部で統計に対する疑義も叫ばれていたが、少なくとも旅行と消費はまあまあのレベルに達したようだ。

 中国経済の好悪に、多くの国が過剰ともいえる反応を示すのは、一つには世界経済の中国経済への依存の大きさがある。

 ドイツのロベルト・ハベック副首相兼経済相は15日、現地メディアの取材に応じ、ドイツ経済の低迷について訊かれ答えるなかで、真っ先にその理由として言及したのが中国経済の減速の影響だった。

欧州経済の見通しは明るくない

 欧州ではエネルギー価格の高騰や高金利も一段落したといわれているが、23年の成長率も、24年の成長見通しも決して良いとはいえないようだ。

 スペインのテレビ局TVEは15日、EU各国の経済成長率の見通しを特集。そのなかでEU全体の見通しを0・8%と示したうえで、各国別でイタリアが0・7%、フランスが0・9%、そしてドイツに至っては0・3%という寂しい数字を並べた。これらの予測も、エネルギー輸送価格が安定していることが前提だというから不安は尽きない。

 ドイツのテレビ局ZDFは15日、ニュース番組のなかで、ドイツの景況感はさらに悪化する可能性があると指摘。「20年来で最大の経済危機が来る恐れがある」というドイツ商工会議所連合会のコメントも紹介した。

 EUでは物価の問題は落ち着いたとされているが、その一方でフランスのテレビは、メーカーが原材料を安いものに置き換える「チープフレーション」が横行していること(F2 2月7日)を特集で指摘した。

 世界を見渡せば景気のいい話は少なく、明るいのはスウィフトノミクスばかり。中国経済の低迷を他人事のように語っている場合ではないはずだ。

拓殖大学海外事情研究所教授

1964年愛知県生まれ。北京大学中文系中退後、『週刊ポスト』記者、『週刊文春』記者を経て独立。ジャーナリストとして紙誌への寄稿、著作を発表。2014年より拓殖大学教授。

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