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マイクロソフトの巨額出資で注目のChatGPTは、本当にGoogleキラーなのか

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(写真:REX/アフロ)

2023年が始まって1ヶ月、既に今年最大の議論の中心になっているのが、米国のAI研究機関「OpenAI」が発表したチャットボット「ChatGPT」でしょう。

11月30日に公開されたChatGPTは、公開5日であっさりと100万ユーザーを超え、IT業界を中心に注目されました。

なにしろ、過去に業界最速で100万ユーザーを獲得して注目されたInstagramでも、サービス開始から100万ユーザー獲得までは2.5ヶ月かかっています。

(出典:statista)
(出典:statista)

比較的普及が早かったという印象のあるTwitterでも2年。Facebookでも10ヶ月かかっています。

その記録を、ChatGPTは5日まであっという間に縮めてしまったわけです。

そのユーザー数急増の熱狂が覚めやらぬまま年が明けると、今度はマイクロソフトが1兆円を超える出資をOpenAIにするというニュースがかけめぐり、IT業界だけでなくビジネス界全体が一気にChatGPTに注目する流れになっているわけです。

ChatGPTは、Googleキラーなのか?

ChatGPTの使い方や概要については、既に多くのメディアで紹介されていますので、この記事では触れませんが、やはり注目されるのは、このChatGPTが、今後どの産業に大きな影響を与えるのかという点でしょう。

参考:米国のAI研究機関「OpenAI」が発表したチャットボット「ChatGPT」

特にメディアで取り上げられることが多いのは、昨年末にChatGPTの登場を受けて経営陣が「コードレッド」宣言を社内に対して実施したとされるGoogle。

そして、OpenAIに多額の投資を実施し、自社の検索エンジン「Bing」にChatGPTを組み込むことでGoogleに対抗するとみられているマイクロソフト。

この両社の今後の戦いに与える影響でしょう。

その検索エンジンのシェアの高さから、GAFAなどインターネットの寡占企業の1社として君臨しつづけてきたGoogleの牙城が、ついにChatGPTの登場で揺らぐのではないかという見方をするメディアは少なくありません。

はたしてChatGPTはGoogleキラーになるのでしょうか?

業界関係者の見方を分類すると大きく3つのシナリオが見えてきます。

■1:検索エンジン市場でChatGPTがGoogleを脅かす

■2:Googleの検索結果を、AI生成記事が汚染する

■3:ChatGPTは検索以外の産業を先に破壊する

順番にご紹介しましょう。

■1:検索エンジン市場でChatGPTがGoogleを脅かす

メディアの記事を見ていると、ChatGPTのようなAIサービスが、早期にGoogleの検索サービスの存在を脅かすという論調が散見されます。

Googleの検索サービスが、複数単語で検索するなど、使いこなすのにはそれなりのリテラシーが必要なのに対して、ChatGPTは元々チャット用に開発されたサービスであることもあり、自然の文章形式での質問に回答してくれます。

ChatGPTは、こちらの言葉が足りなくても、それなりに解釈をして何かしらの回答をしてくれるという意味で、より幅広い人に対応できる検索サービスを実現してくれる可能性はもちろんあります。

それにより、Googleの収益の源泉である検索連動型広告市場が縮小する可能性があるというわけです。

ただ、ITに詳しい業界関係者からすると、実はChatGPTが短期にGoogleの検索サービスに取って代わると考える方は少数派のようです。

(出典:ChatGPT)
(出典:ChatGPT)

実際にChatGPTをいろいろと使ってみると分かりますが、ChatGPTは「正解」を探すのに向いているサービスではありません。専門家の言葉を借りると「平気でウソをつく」サービスでもあります。

現在のGoogleの代わりに検索サービスとして利用するには、まだ向いていないサービスだと言えるわけです。

もちろん同様の議論は、新技術登場時には必ず発生する議論でもあります。

例えばWikipediaもサービス開始当初は、不足している情報や間違った情報も少なくなく、出版社が出している辞書の代わりにはならないという議論が激しく交わされました。

ただ、現在は多くの人が、Wikipediaをネット上の辞書代わりに使うようになっています。

同様に、長い目で見ればChatGPTの精度が上がり、Googleの代わりとしても十分に機能する未来はありえます。

GoogleもAIの開発に注力していますし、将来の検索サービスがChatGPTのような自然文のものに変わっていく可能性は十分あるでしょう。

■2:Googleの検索結果を、AI生成記事が汚染する

Googleキラーという意味で、実は既にそのリスクが目に見えているのが、こちらのシナリオです。

ChatGPTは、まだ「正解」を検索するという意味では完成していないサービスであると言えますが、それらしい記事を量産するという面においては十分な機能を保持しています。

そのため、既に様々な事業者がChatGPTを用いた記事の生成に挑戦し始めています。

米国のメディアでは、CNETがChatGPTが話題になる前からAIにより金融知識の解説記事を生成しており、その複数の記事内容に誤りがあると指摘され、AIによる記事作成を中止するという騒動がありました。

参考:CNETのAI生成記事、「半数以上に誤り」と認める。見直し後に再開の意向

また、米国BuzzFeedは、ChatGPTを活用したクイズ記事作成に取り組むことを発表し、株価が大幅に上昇したことで話題になっていました。

参考:記者をChatGPTに替える宣言でBuzzFeed株が175%上昇

こうしたChatGPTの記事生成への活用は、当然大手メディア以外でも実施可能です。

日本でも、既にSEO目的でChatGPTで記事を大量生成するサービスを早速発表した事業者が登場し、多くの業界人が懸念を示しています。

これまでも、アフィリエイトや広告収入目的で低コストでライターに大量に記事を発注するメディアが増えたことで、Googleの検索結果が似たようなアフィリエイトメディアばかりになる問題が指摘されてきました。

ただ、これからはこうした記事の大量生成を人間ではなくChatGPTのようなAIツールに実施させる事業者が跋扈する可能性が、既に現実化しているわけです。

当然Googleなどの検索エンジン側も対策を打ってくると思いますが、現時点ではChatGPTを活用した学生のレポートを見破ることすら難しいと言われており、Googleにとっても困難な状況が待っている可能性が高いわけです。

参考:学生のレポートがChatGPTで作られたと完全に証明する方法は今のところない

ChatGPTのようなAIによって生成された大量の記事によって、Google検索の使い勝手が悪くなり、間接的にGoogleを苦しめることになる可能性は十分ありえるでしょう。

■3:ChatGPTは検索以外の産業を先に破壊する

ただ、実は多くの専門家が、ChatGPTが直近に影響を与えると考えているのは、検索市場以外の分野です。

前述したように、既に記事作成に実際にChatGPTを活用しているメディアも登場してきています。

日経新聞などはかなり前からAIを活用した記事生成を実験されていましたが、この流れは今後も間違いなく進むでしょう。

また、メルマガやオウンドメディアのタイトル、ツイッターの文章など、Webマーケティングの現場で活用される例も増えてきているようです。

参考:chatGPTは、Webマーケの仕事をどう変えてしまうのか考えてみた

さらに、実はChatGPTはアイデアの壁打ちの相手であったり、アシスタント代わりに要約やブレストの作業をしてもらうという使い方に向いており、様々な使い方がネット上でまとめられはじめています。

参考:ChatGPTの使い方<26例>

テレ東BIZのYouTubeでは、ワールドビジネスサテライトの視聴率を上げるにはどうすれば良いかという、方針の議論の壁打ちにChatGPTを活用する様子が紹介されています。

また、すでにChatGPTと画像生成AIを組み合わせて、漫画を作るという、従来コンピューターには難しいとされてきた「創作活動」にAIを活用している人すら出てきています。

参考:ChatGPTとMemeplexで漫画を描くのが楽しすぎる

実は、ChatGPTは、現在の時点でも様々な業務の実用的なアシスタントとして機能し始めているというわけです。

この2ヶ月程度で、これだけ様々な利用シーンが開拓され、新しいサービスも開発されてきていますから、今年の年末には、私たちが想像もしないレベルに状況が変わっていてもおかしくないと言えるでしょう。

ChatGPTの登場は対岸の火事ではない

実は多くのメディアが注目している検索戦争のシナリオよりも、現実に注目すべきは、われわれの仕事の現場でのChatGPT活用というわけです。

逆に、まだChatGPTを使っていない方が、ChatGPTの登場をGoogleとマイクロソフトの検索エンジン戦争の文脈で捉えて、自分には関係ない対岸の火事だと考えるのは、非常に危険だとも言えます。

実はChatGPTは、従来人間しかできないと私たちが思い込んでいたホワイトカラー業務を大幅に置き換えてしまう可能性が見えています。

もちろん、それは人間の仕事がコンピューターに奪われるというだけではなく、人間がやるべき仕事がもっと複雑で創造的な仕事にシフトすることを意味します。

マイクロソフトとGoogleの間のAI開発競争がどうなろうと、ChatGPTのようなAIが私たちの仕事のあり方をこれから大きく変えていくこと自体は間違いないでしょう。

ChatGPTのニュースを、対岸の火事だと思っている方こそ、今すぐChatGPTを使ってみて、その可能性と限界を理解しておいた方が良いと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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