Yahoo!ニュース

「そんなもんかい、紅白」で注目のVaundyに学ぶ、批判も力に変えるアーティストの強さ

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:Vaundy YouTubeアカウント)

「そんなもんかい、紅白。行けるよな。行くぜ、ニッポン!」

初出場の紅白歌合戦の舞台で、フェスのような煽りを見せて話題になったVaundyさんですが、年が明けてもますます注目が高まっているようです。

Vaundyさんの新曲「まぶた」が、1月9日スタートした月9ドラマ「女神の教室~リーガル青春白書~」の主題歌に決定しましたし、その新曲のジャケット写真をVaundyさん自身がiPhoneで撮影したことも話題になっています。

参考:Vaundy、市川染五郎ら出演の新曲ジャケ写をiPhoneで撮影

そんなVaundyさんをめぐる話題で、非常に興味深いのは、有吉弘行さんがラジオ番組で「肥後さんとVaundyが一緒ぐらいスベってた」という批判的な発言をされていた点でしょう。

参考:有吉弘行が紅白を振り返る「肥後さんとVaundyが一緒ぐらいスベってた」

おそらくは、ラジオ番組の仲間うちで盛り上がった流れでのコメントだとは思われますが、このコメントに対して傷ついたり怒りを感じたVaundyファンの方も少なくないようで、一部のネットメディアが有吉さんが大炎上と取り上げていました。

ただ実は様々なデータを見る限り、Vaundyさんの紅白におけるパフォーマンスは、俯瞰的に見ると全くすべっていないことが分かります。

初出場アーティストの中でトップクラスの注目度

象徴的なのは、Googleトレンドの検索数の推移でしょう。

「Vaundy」の検索数は、「JO1」や「Aimer」、「IVE」などの他の初出場アーティストの検索数に比較しても際だって跳ね上がっています。

(出典:Googleトレンド 赤「Vaundy」青「JO1」黄「Aimer」紫「IVE」緑「milet」)
(出典:Googleトレンド 赤「Vaundy」青「JO1」黄「Aimer」紫「IVE」緑「milet」)

パフォーマンスがすべっていたら、当然視聴者は興味を持ちませんから検索しようとは思わないはず。

Vaundyさんのパフォーマンスは、少なくとも視聴者の興味を刺激したことは間違いないでしょう。

もちろん、これはVaundyさんが単独で「怪獣の花唄」を披露しただけでなく、miletさん、Aimerさん、幾田りらさんと共に自らがプロデュースした「おもかげ」を披露するという連続出演を果たしたことも影響しているとは思われます。

ただ、さらに興味深いのは、紅白歌合戦後にNHKがYouTubeで公開していたダイジェスト動画の再生数推移です。

YouTube動画の再生数も急上昇

動画の再生数を日別に記録していた徒然研究室によると、多くのアーティストの動画は、紅白歌合戦直後からそれほど順位が変わらずに推移しています。

ただ、Vaundyさんのパフォーマンスの動画だけが、唯一1月2日のトップ10圏外の12位から1月6日に6位と、他のアーティストを追い抜いて大きく順位を上げる結果になったようです。

(出典:徒然研究室 note)
(出典:徒然研究室 note)

参考:紅白歌合戦を「視聴率以外」のデータから可視化してみる

これには、紅白歌合戦後にVaundyさんの「そんなもんかい紅白」という煽りも含めたパフォーマンスが、メディアや口コミで大きく話題になったことが影響していると想像できます。

実際に、紅白歌合戦当日のツイートをさかのぼると、会場の雰囲気から有吉さん同様に「すべっていた」という印象を受けていた人もいる一方で、多くの人が「シビれた」「カッコ良すぎた」と感動したコメントをツイートしていることが確認できるのです。

参考:<Vaundy>何者? 初の紅白で異彩放ち、爪痕も “そんなもんかい、紅白”の煽り「シビれた」

実際に、NHKの会場での雰囲気だけを切り取れば、Vaundyさんの煽りに即座に反応できた観客は少なく、「すべっていた」状態だったのかもしれませんが、Vaundyさんのパフォーマンスは会場だけでなくカメラの向こうの視聴者に対してのものであり、届くべき人には確実に届いていたと言えるわけです。

空気を読むべきテレビの芸能人と、アーティストの違い

実はここに、有吉さんのようにテレビの番組毎に視聴者に合わせて空気を読んだ番組作りをしている芸能人と、Vaundyさんのように尖ったパフォーマンスでファンを魅了しているアーティストの根本的な違いがあると言えます。

有吉さんは、何と言っても今や日本のテレビを代表する芸能人の1人であり、番組の内容や放送時間に合わせて、柔軟に自分の立場や発言を変化させることができる人です。

そんな有吉さんからすれば、NHKの紅白歌合戦という年配の視聴者も多い番組において、普段の自らのライブやフェスと同じような煽りを見せたVaundyさんのパフォーマンスは、視聴者層に合わない「すべっていた」ものだと見えたのでしょう。

ただ、Vaundyさんのようなアーティストは、個人個人のアーティストならではの個性的な音楽やパフォーマンスが魅力の根源です。

出演する番組ごとにその番組の視聴者層におもねって、普段の自分と全く違うパフォーマンスをする必要はありませんし、逆にそんなことをしたら普段のファンを裏切る行為になりかねないわけです。

批判的なニュースもファンが増えるきっかけに

有吉さんの「すべっていた」発言で、少なからず傷ついたVaundyファンの方もおられると思いますが、実際には批判的なコメントでもパフォーマンスが話題になることで、Vaundyさんの知名度は間違いなくあがり、新しいファンが増えるきっかけになります。

実はアーティストにとっては、批判的な報道すら、自らの曲を知ってもらい、ファンになってもらうための力になる可能性があるわけです。

そんな紅白歌合戦の歴史に残るパフォーマンスを見せたVaundyさんは、実はまだ22歳の大学生。

2023年には御本人にとっても「第二章」の幕開けになるようですから、これからさらに攻めたアーティスト活動をされるのを楽しみにしたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

徳力基彦の最近の記事