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BE:FIRSTとYouTubeの動画投稿企画で考える「切り抜き動画」のポテンシャル

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:BE:FIRST公式ツイッター)

BE:FIRSTが、18日に2ndシングル「Bye-Good-Bye」を正式にリリース。

その前日には、森三中の大島さんとコラボ動画を公開するなど、さまざまな話題を振りまいています。

そんなBE:FIRSTが、YouTubeと連携して興味深い企画に挑戦していたのをご存じでしょうか。

その名も「教えてBE:FIRST」。

企画名を聞けば想像できるように、18日夜のYouTubeライブで、ファンがBE:FIRSTのメンバーに質問ができる投稿企画でした。

ただ、この質問をYouTubeショートに動画で投稿するというのがポイント。

しかも、その動画にBE:FIRSTの公式のミュージックビデオ(以下MV)を使って良いという企画なのです。

自分のアカウントに公式MVをアップ

YouTubeにはクリップ機能という、動画の一部を切り出してシェアする機能があるのですが、この投稿企画はあえて公式MVを自分のスマホにダウンロードして、それをYouTubeショートに編集してアップロードする前提になっているのがこの企画の新しい点です。

つまり自分のYouTubeのアカウントに、BE:FIRSTの公式MVの動画の一部をアップすることが公認されている企画になっていたわけです。

自分で公式MVの動画をダウンロードしなければいけないため、その分、応募のハードルはかなり高かったようですが、それでもYouTubeを見ると数百本の質問動画が上がっているのを見ることができます。

参考:YouTube #BEFIRSTXBESTY

恥ずかしながら筆者もこの企画を見て、投稿してみようかと思ったものの、公式MVをダウンロードするという行為にハードルを感じて挫折してしまった一人です。

ただ、BE:FIRSTのファンであるBESTYからすれば、自分のYouTubeのアカウントに自分の推しの動画を公認でアップすることができるという、非常に貴重な体験になったことは間違いないでしょう。

徐々に緩和されているSNS投稿

日本では、歴史的にアーティストの肖像権や著作権の利用に対して厳しい姿勢を取る芸能事務所が多かった関係で、ネットやSNS上にアーティストの写真や動画をアップする行為自体が犯罪行為という認識を持っている人も少なくないようです。

ただ、実はネットやSNSに写真や動画を投稿する行為に対する姿勢は、著作権者により異なっています。

特に最近はSNS上で話題になることのメリットの方が、リスクよりも大きくなりつつあるため、著作権者がSNS投稿をファンや顧客に積極的に依頼するケースも増えてきているのが現在の状況です。

そのため、最近では、大手芸能事務所もSNS上への写真投稿については黙認するケースも増えてきており、その中でもBE:FIRSTは、ファンに対して応援のスタンスであれば写真のアップは許容するとウェブサイトに明記する先進的なアプローチを取っているグループです。

参考:BE:FIRSTは日本の音楽業界のSNS活用に革命を起こすかもしれない

ただ、そんなBE:FIRSTのガイドラインにも、実は動画については記載がありませんでした。

今回のYouTubeとBE:FIRSTのコラボ企画では、この動画の部分を明確にOKラインにすべく足を踏み入れたとも想像できるわけです。

悪意がなければ基本全スルー宣言

実は、前述のファン向けのガイドラインを公開した際に、BE:FIRSTを運営するBMSGの代表であるSKY-HIこと日高さんが、K-POPにおける成功事例を踏まえて著作権に関するある投稿をされています。

その中で、会社の代表としては「大っぴらに言うわけにいかない」と断りつつも、不当なお金稼ぎや誹謗中傷、捏造など出ない限り、ネットにおける肖像権利用については基本全スルーするという趣旨の宣言をされていたのです。

実際に、K−POPの成功事例を紐解くと、特にBTSの成功のエネルギーの一つに「ファン動画」があることは広く知られています。

参考:ワールドツアー中止でも勢い止まず。BTSが仕掛けた「3つのメディア戦略」

今月、BTSの事務所からデビューしたばかりのルセラフィムに関しても、事前にファンがデジタルスーベニアと呼ばれる公式コンテンツをシェアする仕組みを提供していましたし、YouTube上には公式動画を活用したファン動画が大量にアップされているのです。

参考:宮脇咲良と「ル セラフィム」の鮮烈デビューに学ぶ、世界的ヒットのつくりかた

今回の、BE:FIRSTとYouTubeの投稿企画は、日本においてもこうした「ファン動画」の流れを生み出すための実験だったようにも見えます。

実際に、筆者がBE:FIRSTの楽曲の動画をダウンロードして、自分のYouTubeのアカウントにアップしてみたところ、広告収入は著作権者に支払われるが、動画をアップすること自体は著作権違反ではないという趣旨の表示がされました。

通常のこうした楽曲コンテンツは、YouTubeにアップロードすること自体に規制がかかっているケースも多いのですが、BE:FIRSTのコンテンツに関しては、YouTube上で切り抜き動画を実施できる状態に、設定上はなっているわけです。

その関係で、実は日本でもBE:FIRSTの切り抜き動画をアップしている人が、少しずつ増えてきているようです。

日本における「ファン動画」の先駆けになるか

既に日本においても、「切り抜き動画」を許可した方がYouTubeで成功できる確率があがるというのは、2ちゃんねる創設者のひろゆきさんが証明しており、多くのインフルエンサーやVTuberが真似をするようになっています。

参考:ひろゆきはなぜYouTubeで成功できたのか…小学生もハマる「切り抜き動画」儲けのカラクリ 「それって、あなたの感想ですよね?」

ひろゆきさんの「切り抜き動画」は、収入目的で運営している人が多いようですが、BE:FIRSTのようなアーティストの場合には、ファンがシンプルにアーティストを応援するために動画をアップするケースが多いでしょうから、実はインフルエンサーよりも成功しやすいと考えることも出来るわけです。

今後、BE:FIRSTがファンによる「切り抜き動画」の成功事例を確立することができると、同様に多くのアーティストが自社のファンによる「切り抜き動画」を許容する流れが日本でも生まれるかもしれません。

日本のアーティストが海外に出ていくためにも、こうしたファン動画の力は間違いなく必要になるはず。

BE:FIRSTとYouTubeのさらなる動画投稿企画に注目したいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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