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スタバもウクライナ政府も取り組む「NFT」は、バブルか本物のトレンドか。

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
2015年株主総会でのハワード・シュルツ氏(写真:ロイター/アフロ)

今週、スターバックスがNFT事業に参入するというニュースが、業界でちょっとした話題になりました。

これは、今年CEOに再度復帰したハワード・シュルツCEOが4月4日に開催されたスターバックスの従業員向けのオープンフォーラムで宣言したもので、あくまでクローズドだった内容がレポーターにスッパ抜かれてしまったもののようです。

参考:復帰したスターバックスCEO、年内にNFTビジネスに参入することを表明

ただ、そのレポーターは証拠の動画もツイッターにアップしており、実際にシュルツCEOが年内にNFT事業に参入すると宣言している発言を聞くことができます。

動画を見ると印象的なのは、シュルツCEOのNFT事業参入宣言後になんとなく従業員が戸惑いながら拍手している様子が伝わってくる点です。

実際に、「スターバックスがNFT事業参入」と聞くと、なぜコーヒーチェーンがNFT事業をやるのか?と、違和感を感じる方は少なくないかもしれません。

ただ、このスターバックスの参入表明は、ある意味NFTがすでに新しいフェーズに入っていることの象徴とも言えるのです。

現在のNFTをめぐる状況と、これからの可能性をご紹介しましょう。

NFTは何の役に立つのか?

NFTをご存じない方に簡単にNFTを説明すると、「デジタルのコンテンツを所有している感覚にさせてくれる技術」というのが分かりやすいでしょうか。

もともとの語源である「Non-Fungible Token(ノン-ファンジャブル トークン)」や、日本語訳の「非代替性トークン」という言葉を聞いても、全く何に使うものか分からない方も多いと思います。

デジタルコンテンツの契約の履歴を可視化するための台帳のようなものでしかないとの指摘もあるのですが、この技術を組み合わせることで、デジタルコンテンツが従来のアナログのコンテンツ同様に売買やコレクションを実現する可能性が拡がってくるのがポイントです。

日本では、一部のNFTアートの高額売買などのニュースが大きく報道された関係で、一昔前の仮想通貨同様、投機性の高い一部の投資家向けの技術と思われている方が多いようですが、実は違うのです。

(※ご指摘を頂き、NFTに関する説明を一部追記修正しました。)

NFTはデジタルの「プロ野球カード」?

例えばNFTの成功事例として有名なNBA Top Shotは、アメリカのプロバスケットボールリーグであるNBAが運営しているもので、自分の好きな選手のダンクや3ポイントシュートなどの特別なシーンの動画のNFTを購入できることで人気を集めています。

動画のNFTと言われるとイメージしにくいかもしれませんが、要はプロ野球カードやJリーグカードのような選手のカードのコレクションのデジタル版です。

つまりNFT技術を活用することで、従来の紙でできていたプロ野球カードやポケモンカードのようなコレクションをデジタル上で実現したり、ライブ参加者だけに配る記念カードのような限定アイテムをデジタル上で配布することが可能になる技術なのです。

一時的にNFTアートを中心にバブルに

もちろん、NFTがアートを中心に、一時的にバブルになってしまったことは事実です。

昨年は、様々なNFTアートが数億円で売買されるといったニュースばかりが話題になった結果、本来であれば値段がつかないようなNFTにまで高い値段がつく典型的なバブルが展開されました。

現在はバブルのピークは過ぎたと言われており、ゲームで生計が立てられる時代が来たと注目されたNFTゲームの数々も、思ったほどユーザー数が伸びずに苦戦をしている模様です。

参考:人気メタバース、ユーザー数が伸びず──市場の期待を下回る

先にご紹介したNBA Top Shotも例外ではなく、NBAファン以外の投機目的のNFT購入が一時期沸騰した結果、一部の動画は非常に高い値段に跳ね上がってしまい、その後バブルがはじけた結果、ピークに比べると80%以上下落したと言われています。

ただ、バブルがはじけた後も、コアなNBAファンを中心に引き続きアクティブにサービスは運営されており、日本でもNBA Top Shotの成功をきっかけに、プロ野球のパリーグはメルカリと、JリーグはDAZNと提携してNFT事業への参入を開始しているのです。

参考:参入相次ぐスポーツNFTは、コロナに苦しむ日本のスポーツ産業の救世主になるか

日本では法規制の関係もあり、NBA Top Shotとはまた違う形になる可能性が高そうですが、今のところJリーグのNFTの抽選応募は、かなり人気を集めているようです。

ウクライナ政府もNFTで支援を募集

こうしたNFT活用の模索は、スポーツ以外でも拡がりを見せています。

直近で最も印象的なのは、ウクライナ政府によるNFT活用でしょう。

ウクライナ政府は、オンライン上にロシアとの戦争の記録をアートで表現する博物館を開設。

NFTアートを販売する形で、支援を募りました。

参考:ウクライナ政府 NFTで認証のデジタルアートを販売 支援募る

このサイトでは販売の開始から1日で50万ドルを超える支援金を集めることに成功したそうです。

実は、これ以前にもウクライナ政府は、仮想通貨を使った募金を呼びかけるプラットフォームを立ち上げ、5日間で70億円以上の寄付を集めていると言われていますから、類似の取り組みということは言えます。

ただ、単純な寄付とは異なり、NFTアートを通じた支援募集は、支援者にもNFTアートの所有権が残るため、単なる匿名での寄付と異なるのがポイントです。

極端な話としては、そのNFTアート自体の価値が将来値上がりする可能性もありますし、NFTアートを所有している人に対して、後日ウクライナ政府が特別なお礼をするということも技術的には可能になるわけです。

スターバックスの様々なNFT活用の可能性

そう考えると、スターバックスによるNFT事業参入は、実は様々な可能性があることが見えてきます。

シンプルにスターバックスがNFTのマーケットを開設するという選択肢もあるかもしれません。実はスターバックスでは、様々なメッセージカードなどのグッズを販売していますから、そのデジタル版を販売する選択肢もあるでしょう。

また、NBA Top Shotのように、季節毎に変わるフラペチーノを注文すると、そのフラペチーノのNFTをコレクションできるというやり方もあるかもしれません。

また、現在も来店が多い顧客向けのリワードプログラムがありますが、ここでスタンプカード的にNFTを配布するという選択肢もあるでしょう。

さらに、実はスターバックスにはプリペイドで金額をチャージして支払を行う仕組みがあり、すでにその金額は16億ドルを超えているとか。

参考:16億ドルを無利子で…スターバックスが人知れず「PayPalをも脅かす銀行」になったワケ

この仕組み自体を、スターバックス独自のトークンで再構築することによって、常連顧客のポイント還元的な仕組みだけでなく、スターバックスの従業員であるパートナーへのインセンティブの仕組みすら根本的に新しく作り替える可能性もあるわけです。

スターバックスでは様々なチャリティプログラムが展開することがありますが、スターバックスのポイントを、ウクライナ政府のような支援のNFTにまわすことも可能になるかもしれません。

SNS活用でも世界をリードしたスターバックス

もちろん、実際に、シュルツCEOが宣言したNFT事業が、どのレベルのものなのか現時点では分かりません。

ただ、実はシュルツCEOは2008年のCEO復帰のタイミングにおいても、スターバックスのデジタルトランスフォーメーションを強力に推し進め、世界の企業の中でも先行してFacebookページを立ち上げたり、顧客がアイデアを投稿するウェブサイトを確立した歴史があります。

参考:米スターバックスのソーシャルメディア戦略

実は、こうしたスターバックスの先進的な取り組みが、他の企業がFacebookページを次々に開設するきっかけになっていたのです。

そういう意味で、今回のスターバックスのNFT活用が成功すれば、多くの企業がNFT活用を模索するきっかけになる可能性は非常に大きいと思われます。

そうなったときに、おそらくNFTはバブルではなく本物のトレンドの1つだったと証明されることになるでしょう。

まずは、スターバックスがどのようなNFT事業を発表するのか、楽しみに待ちたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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